概要
慢性乳腺炎とは、急性乳腺炎と異なり、症状が長引く乳腺炎の総称として使われています。その原因や治療方法はその種類によってまったく異なります。最近では紛らわしいので、“慢性乳腺炎”という言葉は使わず、その種類に応じた呼び方をすることも提唱されています。これまで“慢性乳腺炎”と分類されてきたものの中には、乳輪下膿瘍、肉芽腫性乳腺炎、結核性乳腺炎が含まれます。ここでは、比較的よくみられる乳輪下膿瘍と肉芽腫性乳腺炎について説明します。
種類
乳輪下膿瘍
乳輪の下に発症する、炎症性疾患です。主に20~30歳代の女性が発症し、陥没乳頭があることが多いです。長期間にわたり再燃を繰り返し、10年以上も炎症を繰り返す方もいます。
肉芽腫性乳腺炎
比較的若い女性で、出産・授乳後2~3年して発症することが多い乳腺の炎症です。通常は片側に起こりますが、両側に起こったり、反対側の乳房に後から起こったりすることもあります。数週間から1年程度繰り返すことがあり、乳がんとの鑑別が必要になります。
原因
乳輪下膿瘍
乳輪の下の乳管に傷ができ、組織が壊れることを乳管周囲炎と言います。喫煙、肥満症、糖尿病、陥没乳頭などが原因とされています。ここに細菌感染を起こすと、膿瘍(膿のたまり)を作り、痛みを伴うしこりができます。
肉芽腫性乳腺炎
高プロラクチン血症、自己免疫疾患との関連も報告されていますが、定説はありません。Corynebacterium kroppenstedtiiという細菌感染との関連も報告されていますが、これが本当に原因菌となっているかは不明です。
症状
乳輪下膿瘍
乳輪の下に境界明瞭な痛みを伴うしこりができ、皮膚が赤くなったり、皮膚に穴が開いて膿が出たりすることがあります。
肉芽腫性乳腺炎
痛みを伴う境界不明瞭な硬いしこりができます。皮膚が赤くなったり、皮膚に穴が開いて膿が出たりすることがあります。炎症が広範囲な場合には熱が出たり、結節性紅斑(主に両脚にできる、痛みを伴う赤いしこり)ができたりすることがあります。
検査・診断
炎症の特徴として乳房の熱感や発熱、痛み、腫れなどがあります。これらの症状や採血などで診断がつくこともありますが、膿のたまりがあるかどうかを確認し、乳がんが潜んでいないかを確認するために以下の画像検査を行います。
画像検査
画像検査として主に超音波検査や乳房X線検査(マンモグラフィ*)が行われますが、痛みが強い場合にはマンモグラフィ は省略されます。いずれの検査も乳房の内部の様子を観察し、腫瘤や炎症の有無を確認できます。
*マンモグラフィ:乳房専用のX線撮影装置を用いて、乳房を上下・左右に圧迫した状態で撮影するX線検査です。乳房を薄く広げることにより病変が見つけやすくなる一方、圧迫の際にやや痛みが生じることもあります。
生検
病変部分を針で刺して組織を採取し、確定診断を行います。また、膿を吸引して細菌感染の原因となっている菌を特定することもあります。
治療
乳輪下膿瘍
まずは抗菌薬による薬物療法が治療の中心となります。改善しない場合には切開し膿を出す処置を行うこともあります。また、再発が起こりやすいため、根本的な原因を解決するために膿瘍腔や瘻孔、原因となっている乳管を切除する手術治療が検討されることがあります。その際、陥没乳頭があれば同時に乳頭形成を行います。
肉芽腫性乳腺炎
一定の見解は得られていません。無治療でもよくなることがありますが、改善した後にも再燃することがあります。細菌感染を伴う場合には抗生物質を投与したり、切開して膿を出す処置を行ったりすることがあります。これらで症状が改善しない場合には、ステロイドやメソトレキセートの内服が症状の改善に有効といわれています。ステロイドは急に減らすと再燃することが多いため、徐々に減らしていき、長い場合では1年程度内服が必要になります。手術は通常行いません。
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