概要
慢性扁桃炎とは、口蓋扁桃と呼ばれる部位の炎症が3か月以上持続する病気です。
口蓋扁桃は、舌の付け根あたりに左右に存在するリンパ組織の集まりで、口や鼻から細菌やウイルスが体内に侵入するのを防ぐ役割があります。この口蓋扁桃に細菌やウイルスが感染し炎症が生じると、扁桃炎になる場合があります。炎症が口蓋扁桃の周囲の組織に広がると扁桃周囲炎となり、さらに状態が悪化して膿がたまると扁桃周囲膿瘍に進展することがあるため注意が必要です。
慢性扁桃炎は、持続的な症状が生じる慢性単純性扁桃炎と、発症と回復を繰り返す習慣性扁桃炎に分けられます。また、口蓋扁桃が病巣(病気の原因)となり腎臓や皮膚に二次的な病気を引き起こす“扁桃病巣感染症”も慢性扁桃炎の一種と分類されることがあります。しかし、扁桃病巣感染症は感染症ではなく、免疫の異常が関連する特殊な病態であることが明らかになってきており、最近では“扁桃病巣疾患”と呼ばれるようになっています。
原因
慢性扁桃炎は、それぞれ以下のような原因で発症します。
慢性単純性扁桃炎、習慣性扁桃炎
かぜや疲労などによって免疫力が低下すると、口蓋扁桃に感染した細菌やウイルスが炎症を引き起こします。また、喫煙や飲酒、空気の乾燥が刺激となって口蓋扁桃の粘膜(咽頭粘膜)の防御機能が低下すると発症しやすくなります。
扁桃病巣疾患
口蓋扁桃の慢性的な炎症によって、細菌やウイルスなどの異物を攻撃する役割を持つ免疫機能が、誤って自分自身の細胞などを攻撃する現象(自己免疫機序)が起こり発症します。
症状
慢性扁桃炎では、それぞれ以下のような症状がみられます。
慢性単純性扁桃炎
持続的な喉の乾燥や違和感、痛み、微熱などを生じます。小児ではほとんどみられず、多くは成人で発症します。急性扁桃炎でも同じような症状がみられますが急性扁桃炎と比較すると症状の程度は軽いといわれています。
習慣性扁桃炎
習慣性扁桃炎は、1年で4回以上、2年間で5~6回以上急性扁桃炎を繰り返し発症するものです。発症するたびに強い喉の痛みや高熱などを生じます。小児で発症することが多く、大半は10代のうちに自然に軽快します。
扁桃病巣疾患
口蓋扁桃の慢性的な炎症によって免疫の異常が起こり、全身に障害が及ぶとIgA腎症や掌蹠膿疱症、尋常性乾癬、胸肋鎖骨過形成症などの病気を発症することがあります。喉の痛みなどの扁桃炎自体の症状は目立たないケースが多く、自覚症状がない、またはあっても軽い痛みや違和感がある程度です。
検査・診断
症状から慢性扁桃炎が疑われる場合には、視診にて口蓋扁桃の炎症の程度を確認します。さらに、ファイバースコープと呼ばれる器具を用いて、空気の通り道である気道の狭窄(せまくなること)があるかなどを調べます。また、血液検査を行い、体内の炎症の有無や程度、ほかの臓器に障害がないかなどを確認するほか、細菌培養検査で、口蓋扁桃に付着している膿を採取し、原因菌を特定することもあります。
治療
慢性扁桃炎では、症状に応じて薬物療法や外科的治療が行われます。
薬物療法
細菌感染による場合には、抗菌薬が用いられます。抗菌薬は、経口摂取ができる場合は内服し、経口摂取が難しい場合は入院して点滴で投与するケースもあります。
ウイルス感染が原因の場合には、発熱や喉の痛みなどの症状に対する治療が行われます。
外科的治療
症状が進行し、膿がたまっている場合(扁桃周囲膿瘍)には、抗菌薬の投与に加えて口蓋扁桃の周囲に針を刺したり、切開をしたりして、膿を排出する処置を行うことがあります。
また、扁桃炎を繰り返し発症する習慣性扁桃炎の場合、ほかの臓器に障害が及ぶ溶血性連鎖球菌(溶連菌)が原因菌の場合、扁桃病巣疾患などの場合には、口蓋扁桃を取り除く“扁桃摘出術”が行われることもあります。扁桃摘出術は全身麻酔で行われ、1週間程度の入院が必要です。
予防
扁桃炎は、かぜなどで体の免疫力が低下した際に発症しやすくなります。そのため、免疫力を高めるとともに感染対策を行うことが重要です。帰宅後のうがいや手洗いのほか、1日3食のバランスのよい食事を取り、十分な睡眠を心がけましょう。飲酒や喫煙は喉の粘膜を刺激して感染を生じやすくなるほか、炎症の原因にもなります。過度の飲酒や喫煙を控えることは扁桃炎の発症・再発を防ぐために有効です。
冬季など空気の乾燥する時期は咽頭粘膜の防御機能が低下し、細菌やウイルスが増殖しやすくなります。喉の乾燥を防ぐために加湿器を活用したり、十分な水分摂取やマスクの着用をしたりするとよいでしょう。
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