熱中症とは体温が著しく上昇することでさまざまな臓器に障害を及ぼす状態のことです。適切な対応をすれば多くの場合回復が得られますが、処置の判断を誤ると命を落とすことにもつながりかねません。また、熱中症で後遺症が残る確率は1.6%程度と決して多くはありませんが、高次脳機能障害、嚥下障害、歩行障害など脳機能への影響を中心とした後遺症が生じることもあります。熱中症は重症度が高く処置が遅くなるほど後遺症につながりやすくなるため、熱中症が疑われるときは早期に医療機関を受診することが大切です。
それでは、どのような場合に注意が必要なのでしょうか。
熱中症が重症化したり処置を始めるのが遅くなったりすると、場合によっては脳や脊髄などの中枢神経、肝臓、腎臓、心筋、肺などのさまざまな臓器に障害を起こし後遺症が生じてしまうことがあります。これは高体温による細胞への障害のほか、体温上昇によって体内の水分が減少し臓器に十分な血液が行きわたらなくなるためです。
特に中枢神経障害は熱中症の治療後にも後遺症として残る可能性があるといわれています。具体的には“遷延性意識障害”や“高次脳機能障害”、“小脳失調”や“パーキンソン症候群”と呼ばれる後遺症の例が報告されています。
熱中症などの病気やけがなどによって3か月以上にわたり意識状態の回復が得られない状態をいいます。
脳に損傷が生じたことにより記憶力障害や注意障害、意欲低下など障害が残ることをいいます。
運動機能をつかさどる小脳が障害されると起立・歩行時にふらつきが見られたり、指先を使った細かな動作が難しくなったりします。
安静時のふるえ、筋肉のこわばり、同じ体勢が保てないなどの症状を特徴とする“パーキンソン病”とよばれる病気がありますが、それとは異なる原因で似たような症状を示すことを“パーキンソン症候群“とよびます。熱中症では中枢神経が障害されることでパーキンソン症候群を引き起こすことがあります。
これらの症状は重症の熱中症によって起こる可能性があり、ときには熱中症の治療から1年以上経っても存在し続けることがあるとされています。一方、中等度の熱中症の場合も一時的な記憶力の低下や、ふらつきといった中枢神経障害が見られることもありますが、遅くとも数か月後には改善している場合が多く、長期の後遺症にはつながりにくいといわれています。
熱中症は大まかにI度(軽度)・II度(中等度)・III度(重度)の3段階に分けられます。このうちIII度は脳や肝臓、腎臓などの臓器に臓器障害を起こしている状態であり、後遺症にもつながりかねない危険な状態であるといえます。
III度(重度)の熱中症では意識がない、体のけいれん、呼びかけに対する返事がおかしい、まっすぐ歩けないなどの症状が現れます。これは脳などに障害が起こっている可能性が高く、一刻も早い治療が必要となります。
また、意識があっても血液検査を行うと肝機能、腎機能の低下が見られることもあり、これは肝臓や腎臓などの臓器障害を起こしている状態といえます。場合によっては病院で検査をしてみないとIII度の熱中症と分からないこともあるので中等度(II度)以上の症状が見られたら直ちに医療機関を受診する必要があります。
重症度別の症状には以下のものがあります。
めまい、立ちくらみ、生あくび、大量の発汗、筋肉痛(こむらがえり)など
頭痛、嘔吐、倦怠感、虚脱感、集中力や判断力の低下など
意識障害、体のけいれん、異常な体温上昇など
熱中症の後遺症を引き起こさないためには熱中症の発症を予防すること、重症化を食い止めることが必要です。
熱中症は高温、多湿、風が弱い、熱を発生するものがあるといった環境で起こりやすくなります。屋外だけでなく屋内での発症も数多く報告されており、クーラーなどの空調を活用しながら熱中症が起こりにくい環境を整えるようにしましょう。
また、激しい運動、慣れない運動、長時間の屋外作業、水分補給がしにくい状況なども熱中症のリスクが高くなります。こまめに休憩を取り、水分補給をしたり涼しい場所で体を休めたりすることが大切です。
さらに高齢者、乳幼児、持病がある人、体調不良の人などは若くて健康な人に比べると熱中症を起こしやすいことが知られています。このような人は自分では症状に気がつかないこともあるため、周りの人が注意深く様子を見ることが大切です。
熱中症が起こってしまったら早期に処置を行い、重症化を食い止めることがもっとも大切です。熱中症はI度→II度→III度の順に徐々に症状が進んでいきますが、ときに急激に重症化が進むこともあるため注意が必要です。I度の時点で応急処置ができれば病院への受診が必要なく改善することも期待できます。この時点では意識がはっきりしているため本人も周囲の人も油断してしまうことが少なくありませんが、少しでもおかしいと感じたらすぐに処置を始めるようにしましょう。
必要な処置には以下のものがあります。
衣服を脱がせて風通しをよくしたうえで濡れたタオルやハンカチ、冷えたペットボトル、氷のうなどを体に当てて体温を冷却します。首の付け根や腋、足の付け根など太い血管が走っているところを重点的に冷やすと効率的です。
冷たい水を飲ませて水分の補給と体温の冷却を行います。汗をかいている場合は経口補水液やスポーツドリンク、水1Lに1~2gの食塩を溶かした食塩水を与えます。
意識がない、吐き気がある場合は、誤飲の恐れがあるので直ちに医療機関への搬送が必要です。また、重症度が高くなると発汗機能も損なわれ汗をかかなくなることもあるため汗をかかずにぐったりしている場合などはすぐに医療機関を受診しましょう。
I度の症状であっても応急処置によって症状が改善しない、II度の症状がある場合はすぐに医療機関を受診します。見た目に異常がなくても深刻な臓器障害を起こしていることもあるため自己判断で様子を見ることはしないようにしましょう。
熱中症で後遺症が残る確率は決して多くはありませんが対処を誤ると深刻な後遺症や命の危険につながりかねない危険な症状です。
後遺症を残さないためには熱中症を予防すること、なるべく早期に対処することが大切です。熱中症の危険がある環境では常に気を配り、少しでもおかしいと感じたらすぐ休憩を取り、水分・塩分補給、体の冷却などの応急処置を始められるようにしましょう。また屋内での発症にも注意が必要です。冷房や空調設備の適切な使用や、屋内の中でもしっかりとした水分・塩分の補給を心掛けましょう。
横須賀市立うわまち病院 総合内科 部長 兼 総合診療科 部長
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2年前の夏に熱中症にかかりました。 数ヶ月くらいだるさがあったのですが治りました。 しかし、それから暑い場所に行くとフラフラしたり、気持ち悪くなったりする事が増えました。 熱中症の後遺症というのはあるのでしょうか?
熱中症、自律神経
8/17日頃食事もとらず、睡眠不足で、最高気温35度の中、日中暑い場所で長時間過ごし、水分も1口ほどしか取らず、夜頃目的地に向かい、涼しい場所に移動しようとした所、その場所が閉鎖されていたことを確認した瞬間、体が内から湧き出るように赤くなり、灼熱感に見舞われ熱中症で倒れてしまい、救急車を呼ぶか迷ったが、コンビニで氷と経口補水液、水、パンなどを買い、近くのトイレで氷を頭からかぶり、水分をとって、全身を1時間ほど冷やし続けた。なんとか意識を戻して家に帰り体を冷やしながら寝たが、部屋が暑かったため、朝起きた瞬間同じ症状に見舞われ、全身が赤くなり内から湧き出るような熱を感じた。外が暑くて外出出来なかったため朝頃病院へ行くと熱中症と診断され冷たい点滴を2500ml打った。次の日からも体の内部から赤いものが出て、それが20日程続いており、熱が下がらない状態。体温は脇から測るので、発症日から37℃程しか熱はなかったが、内部温度は非常に高い状態だった。その後も体調調節が効かず、部屋の温度が1℃上がるだけでも体が真っ赤になってしまったりする。体の深部温度を下げるためには冷たい点滴を打つしかないのでしょうか。サーモグラフィーを使って体の内部の温度を調べたり、改善に向かうしっかりとした治療を望んでいるのですがどうしたら良いのでしょうか。
最近頭痛がひどいです。
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脱水、夏バテや熱中症の対策、対応について。
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