前回までの3記事でマグネシウム不足がインスリン抵抗性と糖尿病発症に大きく関わり、これらがマグネシウム不足の助長・長期化を招く悪循環を形成すること、さらに、マグネシウム不足と突然死の関連についてお話しいただきました。一方、最近、マグネシウム不足を改善させる糖尿病治療薬が登場しました。それがSGLT2阻害薬です。
心血管病の既往を持つハイリスクの糖尿病患者さんにおけるSGLT2阻害薬の複合心血管イベント抑制効果を検討した大規模臨床試験(EMPA-REG OUTCOME)で、SGLT2阻害薬が複合心血管イベントを有意に防ぐ効果のあることが明示され、大変注目されています。今回はSGLT2阻害薬を用いた糖尿病治療とマグネシウムの関係について旭川医大名誉教授・札幌南一条病院 循環器・腎臓内科 顧問の菊池健次郎先生にお話しいただきました。
糖尿病は、心筋梗塞、脳卒中、心不全、心臓突然死などの心血管死亡の大きなリスクになり、これらを予防できる治療が強く求められています。2015年12月に発表されたEMPA-REG OUTCOMEで「SGLT2阻害薬」投与が、複合心血管イベント・心血管死亡を抑制し、この効果は治療2〜3ヶ月の早期から認められることが明らかにされました。
実際に減少した心血管死亡の内訳を調べたところ、下記のような結果になりました。
SGLT2阻害薬は心血管死亡の中で心筋梗塞や脳卒中死亡ではなく、突然死・心不全死を有意に抑制することがわかりました。
SGLT2阻害薬はインスリン抵抗性とマグネシウム不足を同時に改善する糖尿病治療薬と考えられます。血中マグネシウム濃度の上昇・マグネシウム不足の改善はインスリン抵抗性を軽減、先に述べた悪循環を断ち、血糖値の改善・体重減少とともに、心電図のQTcdを短縮、突然死・心不全による心血管死亡の低下に一部関わっていると考えられます。
このEMPA-REG OUTCOMEにより心血管病を既に持つ2型糖尿病患者さんの心血管死亡、特に、突然死や心不全死などが、マグネシウム不足と密接に関連する可能性が示されました。
マグネシウム不足の2型糖尿病患者さんへの各種SGLT2阻害薬の投与が、血中マグネシウム値を上昇させることが、2016年、メタ解析で明示されました。そして、その機序に腎臓の尿細管でのマグネシウムの再吸収の増加が関与する、つまり、マグネシウムの過剰な尿中への排泄を抑制することを我々が報告致しました。
私が以前、在籍していた北海道循環器病院で、糖尿病患者さん14名にSGLT2阻害薬のひとつであるカナグリフロジンを8.3か月間投与した結果、血中マグネシウムの有意な上昇と、腎マグネシウム排泄率の有意な低下(腎尿細管でのマグネシウムの再吸収増加、尿中排泄減少)が、初めて明らかになりました。
また、SGLT2阻害薬による血中マグネシウム上昇度は、薬剤投与前の血中マグネシウム値が低い方ほど大きく、かつ、腎マグネシウム排泄率は、薬剤投与前値が高い(尿中にマグネシウムが出て行きやすい)方ほどその改善度が大きいこともわかりました。私たちはこれらの成績を論文にまとめ、日本糖尿病学会誌に投稿致しました。
今回は2型糖尿病におけるマグネシウムの重要性をお話し致しましたが、マグネシウム不足はこれ以外にもさまざまな悪影響を及ぼします。
<メタボ・糖尿病・血管の石灰化・心臓突然死以外でマグネシウム不足が引き起こす悪影響>
・認知症
・冠動脈疾患(石灰化や冠攣縮性狭心症:冠動脈がけいれんし縮み狭心痛を生ずる)
・精神疾患(うつ状態など)
これらを予防するため、マグネシウムを含めたミネラルを十分、かつ、バランスよく適正に摂取することが大切です。
マグネシウムは日本人であれば1日に370mg摂取することが推奨されていますが、実際はこの基準に満たない方がほとんどであることは記事1『マグネシウム不足の影響-インスリン抵抗性を介して糖尿病の原因に?そして突然死にも関連』でも述べました。また、摂取したマグネシウムのうち40〜50%しか吸収されないとされています。それらを意識した十分、かつ適切な量のマグネシウムを摂取することが必要です。
マグネシウムは主に下記のような食べ物に多く含まれています。
・海藻類
・野菜類
・全粒の穀類:大豆製品(納豆など)など
・お茶・抹茶
・ナッツ類
・ココアやチョコレート(脂肪や砂糖の少ない形で) など
抵抗なく日常的に摂取することで、糖尿病を含む前述の疾患を防ぎましょう。
日本人であれば、マグネシウム不足の改善に納豆の積極的な摂取も推奨されます。納豆にはマグネシウムのほか、イソフラボン、強力な線維素分解酵素といった貴重な栄養が豊富に含まれています。
2016年には岐阜県の高山市住民の疫学研究「高山スタディ」が発表され、それによると、納豆を多く摂取すると脳卒中・虚血性心疾患などの心血管病発症とそれによる死亡が大幅に減少することが示されました。
世界的に最近までマグネシウムの有用性が注目されない時代が続きましたが、最近になり、その有用性が認知され始め、マグネシウムに興味を持つ研究者が増えつつあるように思われます。今後は循環器疾患・糖尿病・腎臓病の専門医や臨床疫学・基礎研究者が中心になりマグネシウムへの関心を高めていただき、より有効な治療方法を確立して頂ければと思っています。
またマグネシウムは身近な食品からも摂取することができます。糖尿病などマグネシウム不足が悪影響を及ぼす疾患の患者さんやご家族にもこのようなことを十分認識していただき、マグネシウムの適正摂取に努めてほしいと願っています。
札幌南一条病院 循環器・肝臓内科 顧問、旭川医科大学 名誉教授
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