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網膜の病気で行われる「硝子体手術」とは? 手順や合併症について

網膜の病気で行われる「硝子体手術」とは? 手順や合併症について
佐藤 拓 先生

高崎佐藤眼科 院長

佐藤 拓 先生

目次
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この記事の最終更新は2017年09月20日です。

硝子体手術は、目の手術の1つです。網膜剥離黄斑前膜(おうはんぜんまく)糖尿病網膜症などの治療で用いられます。目に対して行う手術のため、痛みや不安を覚える方も多いことでしょう。しかしながら、近年では手術器具などの進歩により、非常に低侵襲(体への負担が少ないこと)で日帰りでも手術が行えるようになってきています。本記事では硝子体手術の概要や適応疾患、写真で見る術中の様子などを、群馬県高崎市の高崎佐藤眼科 院長 佐藤 拓先生に解説いただきました。

硝子体手術とは、目の奥にある硝子体と呼ばれる部分に対して実施する手術全般を指します。硝子体とは、水晶体(ものを見るためのレンズ部分)の後ろに存在する、コラーゲンからなるゼリー状の組織です。眼球の内側はこの硝子体で満たされており、硝子体があることで眼球の丸い形を保ち、外から圧力や衝撃がかかったときにそれらを分散させる役割を担っています。

硝子体手術は、糖尿病網膜症網膜剥離など、網膜になにかしらの異常が起きている際に行う、網膜を守るための手術ともいえます。なぜなら、網膜を含む目の奥の神経は一度悪くなってしまうと現代の医学では治すことができないからです。

目が見えにくい

硝子体手術の適応疾患の一例は以下のとおりです。

網膜剥離の広角眼底撮影写真(佐藤拓先生提供)

網膜剥離の広角眼底画像(佐藤 拓先生ご提供)

網膜剥離は、外部からの衝撃や強度近視で眼球の変形が生じ網膜が剥がれやすくなってしまうなど、何らかの原因によって網膜に破れ目(網膜裂孔)が生じて、網膜が網膜色素上皮という部分から剥がれてしまう状態を指します。網膜剥離になると視力の低下が起こり、放置してしまうと失明する恐れがあります。硝子体手術では剥がれた網膜をガスやレーザーなどにより、復位(元の位置に戻すこと)させる治療を行います。

黄斑前膜は網膜の中心部(黄斑)の前面に膜が張ってしまうことで、黄斑が遮られものが歪んで見えたり視力低下を引き起こしたりする病気です。後述する黄斑円孔(おうはんえんこう)よりも発症頻度が高く、高齢者や女性に起きやすいといわれています。硝子体手術では黄斑の前に生じた膜を取り除く処置を行います。

黄斑円孔のOCT撮影写真(佐藤拓先生提供)

黄斑円孔のOCT画像(佐藤 拓先生ご提供)

黄斑円孔は網膜の中心部(黄斑)に穴が開いてしまう病気です。穴がごく小さくても、目の中心という視力にかかわる最重要な部分に穴が開いてしまうため、視野の中心が見えないなど多大な影響を生じます。高齢者や近視の方に比較的多く発症します。硝子体手術では、空気やガスなどを使って穴を押して塞ぐ手術を行います。

加齢黄斑変性のOCTA撮影写真(佐藤拓先生提供)

加齢黄斑変性のOCT angiography画像(佐藤 拓先生ご提供)

加齢黄斑変性は加齢によって黄斑が障害を起こし、視力低下や視野の歪み、中心が暗くて見えないなどといった症状を呈する病気です。加齢が主なリスク要因となるため、誰もが加齢黄斑変性を発症する可能性があります。近年では高齢化や食生活の変化などで患者数は増加傾向にあります。

硝子体手術では、加齢黄斑変性で生じた新生血管を抜去するなどの治療が行われていました。しかしながら、最近では抗VEGF薬治療などの内科的治療の進歩により、加齢黄斑変性で硝子体手術を行うことは少なくなってきています。現在では、新生血管からの硝子体や網膜下の大量出血を取り除く目的に硝子体手術を行います。

加齢黄斑変性については以下の記事をご覧ください。

記事1『加齢黄斑変性とは——原因・症状・治療法を専門医が解説』

記事2『加齢黄斑変性の予防とセルフチェック——ものが歪んで見えたら注意!』

糖尿病網膜症の広角眼底撮影写真(佐藤拓先生提供)

糖尿病網膜症の広角眼底画像(佐藤 拓先生ご提供)

糖尿病網膜症は糖尿病による合併症の1つです。血糖値が上昇することで、網膜の血管が閉塞することにより生じる、網膜表面の新生血管からの硝子体出血や黄斑浮腫に対して硝子体手術を行います。日本では後天的な緑内障に次いで後天的な失明原因の第2位にも挙げられています。硝子体注射や硝子体手術の進歩により、助けられる症例が増えてきましたが、進行してしまうと現代の医療でも失明してしまう症例もあります。糖尿病を指摘され、HbA1cが7%以上であれば早めの眼科受診をおすすめします。

 

網膜静脈閉塞症の眼底撮影写真(佐藤拓先生提供)

網膜静脈閉塞症の眼底画像(佐藤 拓先生ご提供)

網膜静脈閉塞症は、網膜の静脈が詰まり、血液が流れなくなる病気です。眼底出血を起こす主要な原因として挙げられています。高血圧との深い関連があるといわれています。網膜静脈閉塞症での硝子体手術では、黄斑のむくみ(浮腫)を取るためや、合併症の硝子体出血の治療のために実施されます。黄斑のむくみは硝子体注射でコントロールするのが一般的ですが、注射の反応が低下して、頻回に注射する場合は硝子体手術を検討します。

 

硝子体手術も日々技術が進歩し、非常に小さな切開創、短時間での手術が可能となってきました。それに伴い硝子体手術のリスクも低減しています。しかしながら、いまだリスクはゼロではありません。

術後に起こるリスク・合併症として、感染症、網膜剥離近視で網膜が薄い患者さんに起こりやすい)、出血が挙げられます。

特に網膜剥離を起こすと、網膜剥離の治療のためにもう一度硝子体手術を実施する必要があります。術後合併症を防ぐため、術後1~2週間の安静と、決められた点眼をつけること、見え方の変化が起きた場合はすぐに受診することが必要です。

入院

施設により異なりますが、硝子体手術は日帰りで受けることが可能です。当院では開院後1年間で300件以上の硝子体手術を実施していますが、日帰りでの手術が難しかったケースはありません。そのため、透析中の場合や、仕事や家庭があっても治療が受けやすくなっています。

治療時間も多くの症例では1時間未満で終了します。軽症であれば15分程度で終了します。麻酔法(点眼麻酔・局所麻酔)も進歩しており、術中に強い痛みを感じることはほとんどありません。

硝子体手術は、まず白目の部分に3か所の小さな穴を開けます。眼球がしぼまないように灌流液(かんりゅうえき)を入れる器具、眼球内をライトで照らす器具、実際に手術を行う鉗子(かんし)をそれぞれの穴に挿入します。

次に硝子体カッターを用いて、出血や硝子体を切除します。切除した部分には灌流液が入っていきます。このあとは疾患に応じて、新生血管の抜去や止血をしたり、穴が開いた部分をガスの圧を使って塞いだり、網膜の上にある薄い膜を剥がすなどの処置を実施します。空気やガスを注入する場合は「術後うつむき」など体位の制限があります。

器具挿入時の切開創は0.5mm程度で、ほとんど縫合する必要はなく自然に閉じていきます。ごく小さな切開で済むために感染症のリスクも軽減され、術後の回復が早く、目の違和感も少ないです。

視力検査

手術の直後では、硝子体内に空気やガスを入れることが多いため、一時的に見えにくくなることがあります。黒い輪のようなものや細かな点が見える、水中にいるように視界が揺れて見えることがあります。疾患にもよりますが、視力回復までには、6~12か月かかるものもあります。

術後は空気やガスが抜けるまで(1~2週間)は安静が必要です。洗顔や入浴は1週間くらいで通常に行えます。食事は通常どおりで大丈夫です。

硝子体手術は近年機器や技術の進歩が早い分野です。しかし発見が遅いことにより、視力予後が異なる場合もあります。軽症例しか扱わない施設や重症例が多い施設など、施設により特徴があります。また医療は医師と患者さんの信頼関係により経過が異なることがあります。そのため、手術担当の医師と手術前によく話をして納得して信頼関係を得てから手術を決断することがいいと思います。ぜひ「目のホームドクター」を持ったうえで、ホームドクターと相談して専門クリニックを紹介してもらうことをおすすめします。
 

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  • 高崎佐藤眼科 院長

    日本眼科学会 眼科専門医

    佐藤 拓 先生

    1996年群馬大学医学部卒業後、群馬大学眼科研修医、公立富岡総合病院につとめる。1998年より群馬大学眼科医員、同助手(現助教)、同講師をつとめた。その後2016 年からは眼科クリニック高崎佐藤眼科を開業し、加齢黄斑変性の診断・治療から、硝子体・白内障の手術、硝子体注射、眼科一般診療まで、大学病院で行っている診療を身近に、快適に、患者さんへ提供することをモットーに、患者さんとご家族と一緒に病気に対して向き合う「二人三脚の医療」を行うことで、信頼される眼科クリニックを目指している。

    佐藤 拓 先生の所属医療機関

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