肺がんは気管支や肺胞から発生するがんで、日本人に多くみられるがんの1つです。大きく2種類に分けられ、その性質によって適した治療法が異なります。また、実際の治療は、これに加えてがんの進行度や患者さんの全身状態などを考慮して総合的に検討されます。今回は、国立国際医療研究センター病院 第三呼吸器内科 医長 兼 がんゲノム科 診療科長である軒原 浩先生に、肺がんの種類や検査方法、治療法についてお話を伺いました。
肺にできるがんには、気管支や肺胞*から発生する“原発性肺がん”と、ほかの臓器に発生したがんが肺に転移してできる“転移性肺腫瘍”があります。このうち一般に“肺がん”と呼ばれるのは前者の“原発性肺がん”です。
肺がんはその性質によって非小細胞肺がんと小細胞肺がんに大きく分けられ、それぞれ特徴や治療法に大きな違いがあります。非小細胞肺がんについては、さらに腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんなどに分けられます。小細胞肺がんと比べると進行速度が比較的緩やかな傾向にあるものの、通常の抗がん薬(化学療法)の効果が現れにくいのが特徴です。一方、小細胞肺がんは進行が早く転移しやすい反面、化学療法や放射線治療が効きやすいという特徴があります。
*肺胞:気管支が枝分かれした先でぶどうの房状に連なり、酸素と二酸化炭素を交換する役割を果たす組織。
X線検査などで異常が見つかった場合には、さらに詳しく検査を行います。肺がんを疑った場合に行う検査は目的によって大きく2つに分けられ、1つは病理学的検査、すなわち確定診断を得るための検査、もう1つは病期(進行度)診断のための検査です。
がんであるかどうか、またどのような種類のがんなのかを精査するため、がんを疑う部位の組織を採取して調べます。組織を採取する方法には複数のアプローチがあり、主に気管支鏡検査や胸腔鏡検査、CTガイド下生検などが行われます。
気管支鏡検査は肺の内側からアプローチする方法で、直径数mmの細い内視鏡を鼻や口から挿入し、肺やリンパ節から組織を採取します。対して、胸腔鏡検査やCTガイド下生検は肺の外側からアプローチする検査方法です。胸腔鏡検査は胸を小さく切開して内視鏡を挿入し、組織の採取を行います。CTガイド下生検は皮膚の表面に針を刺して組織を採取する方法です。
なお、基本的には病理学的検査でがんと確定した後に病期診断のための検査(下記)に移りますが、がんを強く疑うケースでは、早期に治療法を決定するため両者を並行して行います。
がんの大きさ、周囲のリンパ節やほかの臓器への転移の有無を調べ、がんの病期を決定します。病期診断では、CT検査やMRI検査などの画像検査を行います。CT検査やMRI検査では、胸腹部や脳など肺がんが転移しやすい場所について可能な限り造影剤*を使って検査を行い、転移の有無を確認します。このほか、PET検査、骨シンチグラフィを行う場合もあります。PET検査とは通常の細胞よりも多くのブドウ糖を取り込むがん細胞の性質を生かし、特殊な薬を注射して全身を調べる検査です。もう一方の骨シンチグラフィは骨への転移の状況を調べる検査ですが、PET検査で骨のみならず骨以外の部分までカバーできるため、近年はPET検査のほうが多く用いられるようになっています。
*造影剤:病気や病気の性質をより詳しく調べるために用いられる薬。
肺がんの治療は大きく分けて、手術・放射治療・薬物療法・緩和ケアの4つがあります。ここではそれぞれの治療法について詳しく説明します。
がんがある部分の肺を切除する治療法です。肺がんの場合は、がんを全て取り切れる状態だと判断した場合に手術を検討します。早期の肺がんでは、手術を中心に治療を行っていきます。
放射線治療には目的によって2つの使い方があります。1つは根治照射といい、がんを治すことを目的に照射する方法です。切除が難しい場所にがんがあったり、患者さんの呼吸機能が悪かったりするなど、何らかの理由で手術が困難な場合には根治照射を行います。もう1つは姑息照射と呼ばれる方法で、がんを治すためではなく、がんに伴って起こる痛みなどの症状を緩和したり、困った症状の出現を遅らせたりすることを目的として行います。
薬を使って治療する方法で、手術や放射線治療が局所治療(その部分のみの治療)であるのに対し、薬物療法は全身治療になります。肺がんでは主に化学療法、分子標的治療(非小細胞がんのみ)、免疫療法の3つを指します。化学療法はいわゆる抗がん薬を使った治療で、古くから行われてきた治療法です。一方、分子標的治療と免疫療法は近年新たに登場した治療法です。詳しくは次のページでご紹介しますが、患者さんのがんの特徴に応じて使用する薬を決定する治療法で、“分子標的治療薬”や“免疫チェックポイント阻害薬”という薬を使って治療を行います。
緩和ケアはがんに伴う心身の症状を和らげ、体調を維持する目的で行います。一般に“緩和ケア=人生の最終段階における医療(終末期医療)*”というイメージを持つ方も多いかもしれませんが、実際にはがん治療の土台となる治療法であり、がんと診断された時点から行うのが近年の考え方です。緩和ケアの方法は多岐にわたり、心理士などによるケアはもちろん、放射線治療の項で述べた姑息照射もこれに含まれます。
なお、肺がんにおいては、早期から緩和ケアを実施した場合と実施しなかった場合で余命に差が表れるという報告もあります。
*2015年3月に厚生労働省の検討会において終末期医療から名称変更。
具体的な治療法はがんの種類(非小細胞肺がんか、小細胞肺がんか)や病期、全身状態や合併症の有無などを考慮して総合的に判断します。病期については、非小細胞肺がんではI期~IV期、小細胞肺がんでは限局型と進展型に分類され、それぞれ推奨されている治療が異なります(下図)。
なお、手術・放射線治療・薬物療法のいずれにも合併症や副作用などのリスクがあり、どのように治療を進めていくべきか、正解は1つではありません。実際には、がんの種類や病期ごとに推奨されている標準治療をベースに、どういった治療を望むのか患者さん自身の価値観なども考慮しながら検討していきます。
国立国際医療研究センター病院 がんゲノム科 診療科長、第三呼吸器内科 医長、外来治療センター 医長、がん総合診療センター 副センター長
日本内科学会 認定内科医日本がん治療認定医機構 がん治療認定医日本緩和医療学会 認定医日本結核・非結核性抗酸菌症学会 結核・抗酸菌症認定医日本医師会 認定産業医医薬品医療機器総合機構 専門委員日本臨床腫瘍学会 協議員日本肺癌学会 評議員日本がん分子標的治療学会 評議員
肺がんをはじめとした胸部悪性腫瘍の薬物療法を専門としている。国立がん研究センター中央病院で長く診療と研究に従事し、肺がんに対する薬物療法の知識と経験を持つ。治験などの臨床研究にも携わり、治療の進歩のために積極的に臨床研究に取り組んでいる。患者さんに治療選択肢を説明し、患者さんと一緒に適切な治療を常に考えている。
軒原 浩 先生の所属医療機関
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