インタビュー

肺水腫の原因や症状とは?発症を予防するためにできること

肺水腫の原因や症状とは?発症を予防するためにできること
辻田 賢一 先生

熊本大学病院 心臓血管センター長、欧州心臓病学会 (特別正会員 FESC

辻田 賢一 先生

この記事の最終更新は2017年07月25日です。

肺水腫とは、肺胞内に液体成分が貯留することで、酸素と二酸化炭素のガス交換ができなくなり、全身の低酸素状態や呼吸困難を引き起こす疾患です。こうした発作が起きてしまうと、治療を行っても救命できる確率が大きく低下しているため、症状が進行しないうちに医療機関を受診することが大切です。肺水腫の前兆や初期症状に気づき、また肺水腫を予防するためにはどのようにしたらよいのでしょうか。今回は熊本大学大学院生命科学研究部循環器内科学教授である辻田賢一先生にお話を伺いました。

肺水腫とはあらゆる原因で肺胞(肺で酸素と二酸化炭素のガス交換を行う器官)に液体成分が貯留し、肺胞内で酸素と二酸化炭素のガス交換がうまくできず、低酸素状態となり呼吸困難を起こす病気です。

酸素は気道から入り、肺胞に取り込まれます。肺胞は、肺動脈と肺静脈をつなぐ毛細血管に囲まれています。

肺動脈を流れる血液は、酸素よりも二酸化炭素を多く含んだ状態で、肺胞内の毛細血管に流れてきます。そこで毛細血管が、肺胞に入ってきた酸素を血液内に取り込みます。この肺胞のはたらきによって、酸素がたくさん含まれた血液が肺静脈を通じて全身に送り出されているのです。

このとき、肺水腫によって肺胞内に液体が貯留していると、酸素を取り込むうえで大きな妨げとなります。そのため、全身に酸素が行き渡らず、低酸素状態や呼吸困難に陥ってしまうのです。

肺水腫の原因は、心疾患によって引き起こされる「心原性肺水腫」と心疾患以外で発症する「非心原性肺水腫」の2つに大別することができます。

肺水腫の治療は、肺水腫が引き起こされた原因によって変わり、早急に適切な治療をしなければ死に至る可能性があります。ですから患者さんが搬送されてきた時点で、肺水腫の診断と、「心原性」もしくは「非心原性」の鑑別を迅速に行うことが重要です。

心臓のイラスト

心原性肺水腫は、心不全虚血性心疾患心臓弁膜症・重症高血圧症など、ほぼすべての心疾患が原因で生じます。なかでも左心不全が悪化した場合は、多くの患者さんに肺水腫が起きると考えられます。

これらの心疾患によって左心室の動きが低下すると、全身へ血液を送る力が弱くなります。左心室からの血液の流れが滞ると、それより手前の肺静脈においても血液がうっ滞してしまいます。この結果、肺胞内へ水分が漏出して肺水腫を引き起こすのです。

心原性肺水腫においては、原因となる心疾患の治療が必要となるので、私たち循環器内科が中心となって診療を行います。

非心原性肺水腫の場合は、肺炎敗血症・重症外傷などが主な原因となります。また頻度はまれですが、高山病薬物中毒肺塞栓症などから肺水腫が引き起こされることもあります。これらの疾患は血管透過性(血管から水分が漏れやすい状態)を亢進させ、これが原因で肺水腫を引き起こします。

なお非心原性肺水腫は、一般的にはそれぞれの原因疾患の担当診療科が診療を受け持ちます。

肺水腫の主な症状は、低酸素状態からくる呼吸困難です。「ゼーゼー」という荒い呼吸や、呼吸をするたびに「ヒューヒュー」と音がなることもあります。

また低酸素状態が進行すると、皮膚や唇が紫色になったり、急な血圧低下、ショック状態、意識障害が起こったりすることもあります。

これらの症状は、心原性肺水腫にも非心原性肺水腫にも共通してみられます。

心原性肺水腫の場合、ピンク色の泡沫痰(泡状の痰)が出ることがあります。

上述のように、心原性肺水腫は肺胞内で血液が滞っている状態です。すると、肺胞内の毛細血管の圧力が上昇して、肺胞内に血性の液体が溢れ出します。この溢れ出した液体がピンク色をしているため、泡沫痰もピンク色をしているのです。

肺水腫は、発作や呼吸困難が起きた段階では病状がかなり進行していることが多く、救命できる確率が大きく低下します。

そのため、肺水腫が進行する前の症状を自覚した段階で、医療機関を受診することが非常に重要です。特に、心原性肺水腫の原因となる心疾患を患っている方で、日常生活で以下のような症状がある場合は注意しましょう。

仰向けで寝るときに息苦しい症状がある場合は、早めに病院を受診しましょう。

心不全の患者さんは心臓のポンプ機能が弱っていて、左心室から血液を拍出する機能が低下しています。そのため左心室へ向かう肺静脈の血流も滞ることで、肺静脈圧が上昇しやすい状況にあるのですが、特に仰向けの姿勢になったときこの状況が著しくなります。

患者さんのなかには、立位で活動しているときには症状がなくても、横になると息苦しさを感じてしまうため、夜間座った状態の「起坐呼吸(きざこきゅう)」で寝ている方もいます。また、実際に呼吸困難で救急搬送される患者さんは、夜寝ているときに起こる「夜間発作性呼吸困難」のケースがとても多くみられます。 

ですから、普段、起座呼吸の傾向がある方、仰向けの体勢がつらいと感じる方は、肺のうっ血によって突然肺水腫を引き起こす可能性があるので、早期に医療機関を受診してください。

肺水腫を引き起こす原因となる心不全の悪化を見過ごさないことは非常に重要です。

心不全と診断された患者さんには「心不全手帳」を全国の医療機関でお渡ししています。心不全手帳には、毎日の血圧や脈拍、体重など、心不全悪化の兆候を見過ごさないための記載項目があります。これらの変化に敏感になることは肺水腫を予防するために大切なことなので、心不全手帳を忘れずに記載するようにしましょう。

心原性肺水腫の原因となる心不全は、高齢者の方が罹患(りかん)している場合、診断されずに見過ごされてしまうことが多くあります。

心筋梗塞などの病気が要因になって起こる心不全は、心臓が全身に血液を送り出すポンプの機能が弱ってしまう「収縮不全」であることが多く、収縮不全を起こしている場合は検査をすれば比較的容易に診断できます。

しかし、高齢者の方に起こる心不全は、収縮する機能に問題はないものの、心臓自体が硬くなり拡張機能が低下する「拡張不全」が多いという特徴があります。この拡張不全による心不全は、検査をしても一見心臓が元気に動いているようにみえるために心不全と診断されない、いわゆる「隠れ心不全」であることが多いのです。

心臓疾患があると認識されていない高齢の患者さんが、突然肺水腫を発症して呼吸困難で救急搬送されてくる頻度が高いことは、肺水腫の治療における課題のひとつです。

非心原性肺水腫の場合、最も多い原因疾患は肺炎です。特に高齢の方は、風邪をこじらせて肺炎を引き起こすことが多いので、風邪の段階で根治することが大切です。

また肺炎の予防接種や、定期的に肺の検査を受けるなど、予防を徹底しましょう。

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