腎盂(じんう)・尿管がんは、尿路上皮と呼ばれる粘膜に発生するがんの一つです。腎盂・尿管がんを発症する主なリスク因子は喫煙といわれており、患者さんの多くは喫煙歴があります。
多発・再発しやすいという特徴をもつ腎盂・尿管がんには、どのような治療が行われるのでしょうか。今回は、慶應義塾大学病院の大家 基嗣先生に、腎盂・尿管がんの原因や症状から、治療までお話しいただきました。
腎臓には、尿をつくる腎実質(主に皮質・髄質から成り立つ組織)と、つくられた尿が集まる腎盂(じんう)があります。腎盂に集まった尿は、尿管を通り膀胱へと送られ排泄されます。
このように腎盂から尿管、膀胱へとつながる尿路の内側は、尿路上皮という粘膜で覆われています。この尿路上皮に発生するがんを尿路上皮がんと呼びます。
尿路上皮がんには、腎盂がん、尿管がん、膀胱がんがあります。このうち、上部尿路と呼ばれる腎盂と尿管にできるがんが、腎盂・尿管がんです。
上部尿路のうち、腎盂に発生すれば腎盂がん、尿管に発生すれば尿管がんと呼びます。
腎盂がんと尿管がんは性質が似ており治療法にも差がないため、一般的に、まとめて「腎盂・尿管がん」と呼びます。
お話ししたように、腎盂は腎臓の一部です。しかし、腎盂がんと腎実質から発生する腎細胞がんでは、がんの性質が異なります。両者は、まったく異なるがんであるといえるでしょう。
腎盂・尿管がんと性質が似たがんは、同じ尿路上皮がんである膀胱がんです。
腎盂・尿管がんの特徴の一つは、多発しやすいということです。つまり、腎盂・尿管がんでは、がんがいくつも発生するということです。たとえば、左右両方の腎盂にがんが発生したり、腎盂と尿管両方にがんが発生したりすることがあります。
さらに、腎盂・尿管がんは、再発しやすいがんといえるでしょう。
再発は、また別のところに尿路上皮がんが発生することを意味します。たとえば、腎盂・尿管がんの手術後に膀胱がんが発生する頻度は、3〜5割程度といわれています[注1]。このため、腎盂・尿管がんの治療後には、膀胱がんを発症する可能性が高いのです。
腎盂・尿管がんは、発見時に肺、肝臓、骨などに転移していることもあります。また、手術でがんを取り除いても、転移をきたすことが多いがんです。
腎盂・尿管がんは、50〜70歳代の男性に多いがんといわれています。日本では、男性の患者さんが女性の患者さんの2倍以上多いといわれています[注2]。
注1:Habuchi T. Origin of multifocal carcinomas of the bladder and upper urinary tract: molecular analysis and clinical implications. Int J Urol. 2005; 12: 709-16.
Hirano D, Okada Y, Nagane Y, et al. Intravesical recurrence after surgical management of urothelial carcinoma of the upper urinary tract. Urol Int. 2012; 89: 71-7.
Takaoka E, Hinotsu S, Joraku A, et al. Pattern of intravesical recurrence after surgical treatment for urothelial cancer of the upper urinary tract: a single institutional retrospective long-term follow-up study. Int J Urol. 2010; 17: 623-8.
注2 :Anderström C, Johansson SL, Pettersson S, Wahlqvist L. Carcinoma of the ureter: a clinicopathologic study of 49 cases. J Urol. 1989; 142: 280-3.
Greenlee RT, Murray T, Bolden S, Wingo PA. Cancer statistics, 2000. CA Cancer J Clin. 2000; 50: 7-33.
Hall MC, Womack S, Sagalowsky AI, Carmody T, Erickstad MD, Roehrborn CG. Prognostic factors, recurrence, and survival in transitional cell carcinoma of the upper urinary tract: a 30-year experience in 252 patients. Urology. 1998; 52: 594-601.
菊地栄次,大家基嗣.腎盂尿管腫瘍,ベッドサイド泌尿器科学(改訂第4版),吉田修(監).南江堂,東京,2013.
腎盂・尿管がんの主なリスク因子は、喫煙です。腎盂・尿管がんの患者さんには喫煙歴のある方が多く、喫煙歴のない方が発症することは少ないといわれています。
また、頻度としては少ないですが、腎臓のなかに結石がある状態が続くと炎症がきっかけとなり、がんが発生することがあります。
この場合、結石を早期に治療していれば、慢性的な炎症が起こることは少ないでしょう。しかし、長期に未治療の結石が腎臓にあることで慢性的な炎症が起こり、がんが発生することがあります。
腎盂・尿管がんは、症状が現れにくいがんです。このため、初期には無症状であることも多いでしょう。
初期症状が現れる場合には、肉眼で確認できる血尿が挙げられます。腎盂・尿管がんの初期には、痛みを伴わない血尿がでる場合があります。痛みを伴わない血尿が1日から数日現れた後に止まるようなら、腎盂・尿管がんの可能性を考えてもよいでしょう。
このような症状がみられたら、がんの可能性があるため病院を受診してほしいと思います。
また、がんが進行すると痛みを伴う血尿がでることもあります。
また、腎盂・尿管がんがきっかけとなり、水腎症(すいじんしょう)と呼ばれる状態になる方もいます。水腎症とは、がんがあるために尿管がつまり、腎臓に尿がたまって膨れてしまう状態です。
水腎症がある場合には、脇腹付近に、なんとなく重苦しい鈍痛を伴うことがあるでしょう。
患者さんのなかには、健康診断や人間ドックで水腎症が発見されたことをきっかけに、その後の精密検査で腎盂・尿管がんがみつかる方もいます。
腎盂・尿管がんの診療ガイドライン(その病気の診断方法や治療方法を定めた指針)では、肉眼的に血尿を確認したらCT urograthy(CTU)と呼ばれるCT検査(エックス線を使って身体の断面を撮影する検査)を行うことを推奨しています。
CT urograthy(CTU)とは、造影剤を用いて尿路をCT撮影する検査方法を指します。この検査は、早期であってもがんを確認できる可能性が高く、腎盂・尿管がんの早期発見につながると考えられています。
腎盂・尿管がんの診断には、喫煙歴の確認も重要です。それは、お話ししたように、腎盂・尿管がんの主なリスク因子が喫煙になるからです。このため、問診を通して喫煙歴の有無を確認します。
腎盂・尿管がんには、手術前に病気の進行を把握することが難しいという特徴があります。がんが進行し、腎盂や尿管の外にまでがんが及んでいる場合には画像診断によって、がんの進行度(ステージ)を確認することが可能になります。
しかし、腎盂や尿管のなかにがんがおさまっている場合、がんがどこまで広がっているのか確認することが難しくなります。このため、腎盂や尿管のなかにがんがおさまっている場合には、手術で切除したがんを顕微鏡で確認することで進行度を確認します。
このように、手術の前にがんの進行度を正確に把握することができない点は、今後解決すべき課題であると考えています。
腎盂・尿管がんは、転移がなければ、腎盂尿管全摘除術・膀胱部分切除術と呼ばれる手術によって、がんがあるほうの腎臓と尿管をすべて摘出し、さらに膀胱の一部を摘出します。
リンパ節に転移している場合には、リンパ節郭清(かくせい:がん周辺のリンパ節を切除すること)を行います。
転移が認められる場合には、抗がん剤による治療を行うことが多いでしょう。また、術後に再発を予防するために抗がん剤を使用するケースもあります。
お話ししたように、腎盂・尿管がんは、転移・再発しやすいがんです。このため、手術によってがんを切除したとしても、継続的な経過観察が重要になります。
お話ししたように、腎盂・尿管がんの治療では、がんが発生したほうの腎臓をすべて摘出するケースが多いです。
術後も片方の腎臓がきちんと機能していれば、日常生活に支障がでることは少ないでしょう。しかし、一つになった腎臓に負荷がかかることで、残された腎臓の機能が悪化する可能性もあります。
腎臓の機能が悪化する原因の一つは、糖尿病や高血圧などの生活習慣病(食生活・喫煙・飲酒などの生活習慣がその発症・進行に関与する疾患の総称)であるといわれています。このため、糖尿病や高血圧にならないよう注意することも大切になるでしょう。
また、腎盂・尿管がんの術後に膀胱がんが再発するリスクは、喫煙歴のある患者さんで高くなることが我々の研究で示されています。
治療後も禁煙を続けることが大切になるでしょう。
慶應義塾大学医学部 泌尿器科 教授
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