インタビュー

頭痛、だるさ、肩こりの原因は天気の可能性も――自律神経を整えて“気象病”による不調を改善する方法

頭痛、だるさ、肩こりの原因は天気の可能性も――自律神経を整えて“気象病”による不調を改善する方法
久手堅 司 先生

せたがや内科・神経内科クリニック 院長

久手堅 司 先生

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天気が悪い日に頭が痛くなったり、体がだるくなったりした経験がある方もいるのではないでしょうか。気圧や気温、湿度の変化など気象の影響で心身に不調が現れる状態を“気象病”と呼び、最近では一般の方や医療従事者にも認知されつつあります。

気象病の診療に尽力されているせたがや内科・神経内科クリニックの久手堅 司(くでけん つかさ)先生は、「対策をきちんと行えば、気象病による不調は改善できることが多い」とおっしゃいます。今回は久手堅先生に、気象病の特徴や日常生活での対策、医療機関で受けることができる治療法についてお話を伺いました。

気象病とは、気象の変化によって、頭痛や倦怠感(だるさ)、肩こり、うつ症状など心身の不調が現れることをいいます。要因となる気象の変化は、主に“気圧、気温、湿度の変化”です。

近年は医療従事者や一般の方にも、気象病が認知されるようになってきました。かつては、病院で検査をしても異常がみられないために見過ごされてきた患者さんも多くいたことが考えられますが、医療機関で認知されるようになってきたことで患者数は増えてきています。特に最近は、気圧の変化を教えてくれるスマートフォンのアプリを活用して、自身の不調が気象に関連しているのではないかと感じて受診される方が増加しているのです。

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なお、現状で気象病は正式な病名ではなく明確な診断基準もありません。中には、検査を行っても異常が見つからないために、精神的な原因による体調不良と判断され心療内科や精神科で治療を受けているようなケースもあります。

当院では、気象病の診断のためにオリジナルのチェックリストを使用しています。たとえば、以下のどちらかに該当する方は、高い確率で気象病の可能性があると判断しています。

  • 天候が悪い時に体調が悪い
  • 雨が降る前や天候が悪化する前に、何となく天気の変化が予測できる

気象病になりやすい方の特徴として、まずは女性であることが挙げられます。女性は生理周期や更年期がありホルモンの変動が大きいために、不調が出やすいのです。また、生理による出血があるために貧血になるリスクが高いことも、頭痛やだるさなどの不調が出やすくなる要因といえます。さらに、男性に比べてデスクワークが多い傾向にあることや、筋肉量が少ないことも、気象病が女性に多い理由であると考えています。筋肉量が少ないために、冷えに弱くなったり、気象病の症状の1つである“寒暖差疲労”が出やすくなったりするのでしょう。

気象病の診療に携わってきた経験から年代についてお話しすると、以前は20歳代と更年期である40歳代後半〜50歳代前半にピークがみられたように感じていましたが、最近は10歳代の患者さんが増えているように思います。

ライフスタイルの面では、不規則な生活を送っている方ほど不調が出やすくなります。たとえば、睡眠時間が不足している方は気象による影響を受けやすくなるのです。また、運動習慣がない方も気象病になりやすいといえるでしょう。

不規則な生活を送る方ほど気象病による不調が出やすいとお話ししましたが、それは不規則な生活が“自律神経の乱れ”につながるからです。

自律神経は交感神経と副交感神経からなり、体の緊張状態とリラックス状態を自動で調節しています。交感神経は活動するときにはたらき、副交感神経は体を休めるときにはたらくもので、この2つの神経が交互にはたらくことで心身の状態を良好に保っているのです。

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しかし、不規則な生活が続いたり過剰なストレスがかかり続けたりすると、自律神経のバランスが乱れて不調が現れやすくなります。私は、近年のコロナ禍で在宅での仕事が増えたことも、気象病の患者さんが増えた要因の1つだと考えています。環境の変化によるストレスや、パソコンやスマホに長時間向き合う生活の結果、自律神経が乱れて不調を訴える方が増えているのでしょう。

自律神経が乱れることで心身の不良が現れる“自律神経失調症”と気象病は、近い関係にあるものの異なる病気です。気象病は、気圧や気温、湿度などの変化に伴って多様な症状が現れるもので、原因が明確です。対して自律神経失調症は、気象の変化にかかわらず不調が現れます。

ただし、自律神経失調症の患者さんは気象の変化によって症状が悪化することが多く、当院にも気象病と自律神経失調症の両方を理由に通院している方たちがいらっしゃいます。

気象病の症状の中でも、もっとも多くみられるものが頭痛で、当院を受診する患者さんの8割以上に頭痛がみられます。緊張型頭痛が一番多く、次に片頭痛が起こることが多いでしょう。緊張型頭痛は、頭の両側が締め付けられるような痛みが特徴です。片頭痛は、予兆があったり、血管が拍動するようなガンガンする痛みが起こったりする頭痛で、吐き気を伴うこともあります。気象病では片頭痛が多いと思われがちですが、疫学*のとおり、緊張型頭痛が多いのです。

特に、天候の悪い時期は頭痛の患者さんが増えるように感じます。次いで多くみられる症状が倦怠感や首・肩こりです。このような体の不調だけでなく、うつっぽさや不安感など精神的な症状が現れるケースもあります。

*日本における一次性頭痛(検査で原因が分からず症状から頭痛と診断されるもの)の有病率では、緊張型頭痛がもっとも高く、次いで片頭痛が高いという報告がある。

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気圧の変化を敏感に察知する方は、気象病の症状が重症化しやすい傾向があります。たとえば、東南アジアなど近くの国で台風が発生したタイミングや、ゲリラ豪雨が発生する前にそれを察知できる方は症状が強く現れやすいようです。そのほか、気象の変化に関係なく、慢性的に頭痛がある方も症状が重症化しやすいでしょう。

また、気象病は気圧が関連しているので、気圧を感知する耳に基礎疾患がある方は治療を行っても症状が改善しにくい場合があります。たとえば、メニエール病*を発症している方は、薬などの治療が効きにくい傾向があります。

*メニエール病:耳の内側に水ぶくれができて、めまい難聴が起こる病気。

気象病の症状をできる限り抑えるためには、規則正しい生活を送り自律神経を整えることが大切です。朝起きて太陽の光を浴びることや栄養のある食事を規則正しく取ること、日中は適度な運動をすることなどを心がけましょう。夜は睡眠の質を高めるために湯船に浸かり、副交感神経を優位にすることも大切です。また、運動習慣がない方が、運動に取り組むことで不調が改善するケースもあります。

最近は“脳腸相関”と呼ばれる脳と腸の関連性が分かっていて、慢性的な便秘や下痢など腸に不調があると、自律神経にも悪影響を及ぼすといわれています。アルコールやカフェインの取りすぎを控えたり、ヨーグルトをはじめとする発酵食品を取り入れたりすることで、腸内環境が改善されて気象病の症状が和らぐケースもあります。

気象病では、低血圧によって動けなくなるくらい不調が現れる方もいらっしゃいます。気象によってどの程度血圧に変化があるかを把握し、自分の体調を自分で管理できるよう工夫することも大切です。ストレッチや耳のマッサージも効果的な場合があるので、当院では自宅でできる対策を指導することもあります。

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気象病が疑われる場合、当院では、はじめに診察で骨格をチェックします。気象病の方は天候の悪化に伴って症状が重くなりますが、天候のよし悪しにかかわらず日頃から不調を抱えていることが多いという特徴があります。ストレートネックや骨盤のゆがみ、足を組む癖などをみることで、どこに不調が出やすいか確認することが大切なのです。

また、当院では治療として漢方薬を処方することが多いです。東洋医学では“()(けつ)(すい)”という考え方に基づいて体の状態を捉え、血液以外の体液全般を“(すい)”と呼びます。気象病の方は、水のバランスが乱れた“水滞(すいたい)”や“水毒(すいどく)”の状態であることが多く、水のバランスを整えることで症状が改善するケースも少なくありません。漢方薬の中には、水のバランスを整えて気象病の症状を和らげる効果が期待できるものがあるのです。

漢方薬と自宅での体操や運動習慣を組み合わせることで、気象病の症状が大幅に改善した方もいるほどです。たとえば、いつも梅雨時期に体調不良が現れていた患者さんに漢方薬による治療と体操の指導を行ったところ、梅雨に入っても不調が出る回数が減ったと教えてくれました。天候を変えることはできませんが、悲観せずに不調の原因にアプローチすることで改善を目指せるのが気象病といえるでしょう。

私はもともと、脳神経内科で頭痛めまいに悩む方の診療に従事していました。診療をとおして、頭痛に悩む方は肩こりや首こりも併発していることを実感し、開業するときに“首こり、肩こり外来”を開設したのです。

開業してから診察を続けるうちに、梅雨時期に頭痛の症状が悪化したり、ゲリラ豪雨を当てられるくらい気象に敏感であったりする方がいることを知りました。頭痛やめまいなどの症状が天候に関連していることを実感し、“気象病・天気病外来”を開設したのです。

気象病を抱えている方の悩みを理解し、解決方法を提案できることが私にとってのやりがいです。気象病の改善には生活習慣を整えることも大切なので、薬を処方するだけでなく日常生活での改善点を伝えることもあります。

診療を担当した患者さんの中には、長年不調の原因が分からないまま過ごしていたものの、気象病の診断を受け治療を受けるうちに症状が改善し、泣いて喜ばれた方もいらっしゃいます。実際に効果が出たときには、患者さんのお役に立てていることを実感し、嬉しく思います。

現在、私は気象病を広めるような活動にも積極的に取り組んでいます。具体的には、一般の方や医療従事者に向けてセミナーや講演会を開いたり、気象病対策のための商品やツールの作成を行ったりしてきました。

現在、日本生気象学会の中に、気象病に関する研究委員会が設立されています。しかし、気象病に特化した学会を設立するには時間がかかると考えており、現状では医療従事者同士のつながりが薄いという課題があります。今後は気象病の診療を行う医療従事者同士のつながりを深めて、気象病に特化した治療を提供できるシステムを築いていきたいと考えています。

気象病では、気象の変化によって頭痛やだるさ、めまいなど多様な症状が現れます。原因不明の心身の不調で悩んでいる方は、気象病の可能性があるかどうかをチェックしてみてください。たとえば、天候が悪いときや雨が降る前に頭痛やめまいなどの症状が現れる場合、気象病が原因であるかもしれません。最近では、気圧の変化を通知してくれるアプリも登場しています。そのようなものを活用しながら、自分の不調が気象の変化と関連しているかどうかをチェックしてみることもおすすめです。

もし気象病かもしれないと思ったら、まずは生活習慣を改善したり、耳のマッサージを取り入れたりするなどの対策を行ってみてください。セルフケアによって改善がみられなければ、無理をせず病院で相談することをおすすめします。

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