血管は私たちの体全身に張り巡らされ、各臓器に血液を流して栄養を供給する役割を担っています。この血管に炎症が起こる病気の総称を「血管炎(血管炎症候群)」といいます。血管炎は発症した血管の種類や原因、症状によって26疾患に分類されています。記事1では、血管炎の発症メカニズムや症状について東京大学大学院医学系研究科・医学部、皮膚科学講師の吉崎歩(よしざきあゆみ)先生にお話を伺いました。
血管炎とは、体の隅々まで分布する血管に対して炎症をきたす疾患です。
血管に炎症が起こると、好中球(白血球の一種)をはじめとする炎症細胞が血管壁に浸潤(しんじゅん)して、血管壁の構造が破壊されます。
血管には、各種の臓器に栄養を供給し、その機能を維持する役割があります。ですから、血管炎によって引き起こされた血管の破綻や血管内腔の狭窄・閉塞は、その血管が栄養供給している臓器に虚血や壊死をもたらし、全身にさまざまな症状が現れます。
血管炎には色々な種類があり、障害される血管の種類によって症状や予後が異なります。このため、血管炎にはこれまでさまざまな分類が試みられてきました。
最もよく知られて用いられてきた分類法は、1994年に提唱されたチャペルヒル分類と呼ばれるものです。障害される血管のサイズで大型、中型、小型の3つのカテゴリーに分類していました。
その後血管炎に対する研究が日進月歩で進み、チャペルヒル分類は2012年に改訂され(CHCC2012)、血管のサイズに加えて、傷害される臓器と血管炎の原因を含めた分類となりました。CHCC2012では、血管炎を7つのカテゴリーに分け、26疾患を規定しています。
ですから、一口に血管炎といってもさまざまな疾患があることを理解し、まずは症状や検査所見から正しく診断を行い、それに対応した治療と定期検査が重要です。
また実際には26疾患に細かく分類しているにもかかわらず、型どおりに当てはまらないこともあります。そのときには患者さんへ今後起こりうる障害や副作用をよく説明し、どの程度踏み込んだ治療を行うかについて、症状をみながら相談することになります。
前項でも述べた通り、血管炎は全身に分布する血管に生じる炎症であり、傷害される血管によって現れる症状は多種多様です。
腎臓や肺、消化管といったいわゆる内臓諸臓器の障害や、眼・鼻・口といった感覚系にも病変を来すことがあり、神経症状や頭痛なども生じます。
また、全身炎症を反映して、発熱や倦怠感、体重減少をきたし、関節痛を伴うこともあります。
血管炎は皮膚にも多彩な症状を引き起こします。具体的には以下のような症状がみられます。
このようにさまざまな症状をもたらす血管炎ですが、皮膚症状によって明らかになる血管炎は多数あります。ですから、血管炎は我々皮膚科医にとって身近な疾患の一つなのです。
問診や症状などから血管炎が疑われた場合、まずはそれが原発性か続発性かを判断する必要があります。
CHCC2012では続発性の血管炎を「全身性疾患に続発する血管炎」と、「誘因の推定される続発性血管炎」の2つに分類しています。
「全身性疾患に続発する血管炎」では、関節リウマチや全身性ループスエリテマトーデス、サルコイドーシスといった自己免疫疾患が挙げられます。これらに続発する血管炎の治療としては原疾患のコントロールが必要となります。
「誘因の推定される続発性血管炎」では、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、梅毒といった感染症、薬剤、あるいは悪性腫瘍に伴うものが挙げられています。血管炎に対して用いられる副腎皮質ステロイドを含めた免疫抑制療法は、感染症や悪性腫瘍を悪化させる可能性があるので、特に重要な鑑別となります。
血管炎の診断を行う際、まずは前述の鑑別も含めた精査が必要となりますので、自己抗体やウイルス抗原・抗体、梅毒反応を含めた血液検査や、全身CT、場合によってはPETを含めた画像検査が行われることになります。女性であれば、子宮や卵巣といった婦人科的な診察も欠かせません。
次に、血管炎が起こっている臓器を精査する目的でさらに詳しい検査が必要となります。
これには超音波検査、血管造影、MRI/MRA、肺拡散シンチ、眼底検査などが挙げられます。
また血管炎の治療では、副腎皮質ステロイドが用いられる可能性が高いため、副作用に備える意味で、あらかじめ白内障や緑内障の検査も行っておく必要があると考えています。
皮膚をはじめ、病変に直接アプローチできる場合には、血管炎そのものを捉えることができる生検(組織の一部を採取して顕微鏡などで観察する検査)は、診断において極めて有用な検査となります。
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