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成長期に多い起立性調節障害――病気が起こる仕組みと症状とは?

成長期に多い起立性調節障害――病気が起こる仕組みと症状とは?
古市 康子 先生

市立東大阪医療センター 小児科 部長

古市 康子 先生

目次
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朝起きることが難しく、立ちくらみや倦怠感が生じやすい、調子が優れないといった症状がみられる場合、起立性調節障害(OD:orthostatic dysregulation)の可能性があります。近年、コロナ禍において増加したといわれる起立性調節障害。子どもの学校での過ごし方の変化や行動制限などによる運動不足、ストレスなども影響していると考えられます。

今回は、成長期に多い起立性調節障害の発症の仕組みや主な症状について、市立東大阪医療センター 小児科部長の古市 康子(ふるいち やすこ)先生にお話を伺いました。

起立性調節障害は、自律神経に不調をきたし、起床する際に脳や体への血流が低下する病気です。自律神経は心臓の動きや血液の流れといった“循環”や、呼吸、体温調節など、私たちが生命活動を維持するために必要な機能を担っています。こうした自律神経のはたらきがうまくいかず、寝た状態から起き上がる際に循環を適切にコントロールできなくなると、血流が脳に届いて活動できる状態になるまでに時間がかかってしまいます。起立性調節障害を発症すると、朝なかなか起きられなくなるほか、午前中を中心に立ちくらみ、倦怠感、頭痛などさまざまな症状が現れます。

起立性調節障害は、小学校5~6年生から中学生ぐらいで起こりやすくなります。第二次性徴が始まる前の不安定な時期であり、身長や体重がぐっと伸びる成長期にあたります。本来であれば体の成長に合わせて自律神経も成長すべきところ、自律神経の成長が追いつかず、バランスが崩れてしまうものと考えられます。

小学生の約5%、中学生の約10%にこの病気の自覚症状があり、不登校の児童、生徒の3~4割がこの病気だといわれています。女性にやや多くみられ、男女比は1:1.5~2です。患者さんの約半数には遺伝要因(病気になりやすい体質が遺伝すること)が認められます。また、成長期が過ぎても症状が治まらず、成人になるまで続く方もいます。

自律神経は、体を活動的にさせる交感神経とリラックスさせる副交感神経の2つが協力してはたらき、バランスを保つことで心身の健康を維持しています。

提供:PIXTA/加工:メディカルノート
提供:PIXTA/加工:メディカルノート

人間の体は、立ち上がると重力によって血液が下半身にたまりやすくなります。通常はその際に交感神経がはたらいて下半身の静脈の収縮を促し、心臓へ戻っていく血液の量を増やそうとします。しかし、自律神経のバランスが崩れて交感神経がうまくはたらかなくなると、静脈の収縮が促されず、血液を適切に心臓へ戻せなくなるため、下半身に過剰に血液がたまってしまいます。そして、静脈と同時に動脈の収縮も不十分な状態になり、血圧が低下して心拍出量(1分間に心臓から送り出される血液の量)の減少を引き起こし、脳の血流が低下すると考えられています。

起立性調節障害はさまざまな因子が重なって起こる病気です。この病気にみられる血液循環の悪化に影響を及ぼす要素として、以下のようなものが挙げられます。

日常生活における活動量が低下すると、筋力が落ちるとともに、活動しないでいることに自律神経が慣れて機能の悪化につながります。すると下半身に過剰に血液がたまりやすくなり、全身に血液が行き渡らなくなって脳への血流が低下し、そのために日常生活に支障が生じて活動量が低下するという悪循環に陥ります。この悪循環による身体機能の低下をdeconditioning(デコンディショニング)と呼び、症状をますます悪化させる要因になっています。デコンディショニングの状態になると、なかなか抜け出せなくなるといわれています。

体内の水分量が不足すると、血液循環の安定が損なわれます。運動時にしか水分を取らないなど、日常生活の中で意識的に水分を摂取する習慣がないことが病気の引き金になる可能性があります。

何らかの環境要因により睡眠と覚醒のバランスが崩れると、病気の発症や悪化につながると考えられます。コロナ禍では感染拡大防止のため学校が休校になった時期があり、起床時刻や就寝時刻が遅くなって規則正しい生活リズムが崩れてしまい、不調に陥ったという方もいるでしょう。

学校生活などで何らかのストレスを抱えていると、もともと学校に行きたくないという思いがあるうえに体調不良が重なり、症状がさらに悪化する可能性があります。コロナ禍においては、行動制限によるストレスも病気の発症や悪化につながる要因になったと考えられます。

低血圧の方が多い家系に生まれると、その体質を受け継ぎ、起立性調節障害を起こしやすくなる可能性があります。

PIXTA
提供:PIXTA

起立性調節障害では、朝なかなか起きられず、起き上がったとしても気分が悪くなったり頭痛がしたりします。朝、登校時には体調が優れない状態でも、午前中を乗り切れば体調が回復してきて、午後には元気になるという方も少なくありません。

病院を訪れる患者さんの多くは、ひどい頭痛や吐き気、めまいなどをきっかけに受診されます。そのほか、立ちくらみ、倦怠感、動悸などの症状が出たり、起床時に著しい頻脈(脈が速い状態)が生じたりするケースもあります。

めまいについては目の前が真っ暗、あるいは真っ白になる、立ちくらみについては急に体を動かしたときに一瞬目の前が暗くなるとおっしゃる方が多く、大抵の場合はしばらく時間をおいてゆっくり動くと症状が治まるようです。

睡眠障害

多くの場合、起床してから午前中にかけては活発に動けないものの、午後から夕方になると体調が回復して活動的になります。睡眠時間はある程度確保できていても、起床時刻や就寝時刻が遅くなって、通常の学校生活や社会生活を送りにくい睡眠リズムになる傾向があります。

失神発作

起立性調節障害により脳の血流が低下すると失神発作を起こすことがあります。けいれんを伴う場合には、似た症状がみられるてんかんとの鑑別診断(てんかんか否かの確認)が必要です。なお、てんかんの症状の1つである欠神発作(けっしんほっさ)*と似た症状であるめまいや立ちくらみを繰り返す場合にも、てんかんとの鑑別のための検査を行うことがあります。

*欠神発作:意識が短時間途切れ、今までしていた動作が止まりボーッとした状態になる発作。

著しい頻脈

起きたときに“ドキドキする”“自分でも分かるくらいに脈が速い”といった著しい頻脈がみられる場合があります。

心理・行動面の症状

心理面や行動面の症状として、午前中の思考力や集中力の低下が挙げられます。お昼以降や夕方になると勉強が順調に進むようになったり、クラブ活動や運動にしっかりと取り組めたりするという患者さんもいます。

発達障害が関わる学校生活への不適応

発達障害が関わっていることで、学校生活に適応するのがより難しくなるケースもあります。発達障害のある患者さんにおいては、その特性から生活のしづらさを抱えるなかで、集団生活の場が大きな負担となる場合があります。不登校になる時期と必ずしも一致するわけではありませんが、発達障害に加えて起立性調節障害の症状が重なり、学校に行けていないという方は多くいらっしゃいます。

起立性調節障害は自律神経の機能低下により起こる病気です。朝起きられないのは気力が足りないせいではなく、怠けているわけでもありません。本記事で解説した症状があれば病気の可能性があると考えて、改善する方法を早めに見つけていただきたいと思います。

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