がんは進行すると肝臓や肺などの臓器に転移します。肝臓に転移したがんを転移性肝がんといい、これは通常の肝臓がんとは異なった病状です。では、がんはどのように転移していくのでしょうか。転移性肝がんについて秋田大学医学部附属病院、消化器外科教授の山本雄造先生にお話を伺いました。
転移性肝がんとは、肝臓以外に発生しているがんが肝臓に転移したものです。肝臓にがんが転移することを肝転移といい、これにより生じた肝臓内のがん病巣を転移性肝がんと呼びます。
肝転移は、主に大腸や胃などの腹部消化器にできたがんから生じることが多いです。たとえば、大腸がんの患者さんに、肝臓への転移がみられた際には、大腸がんの肝転移となります。
肝転移の原因となるがんの多くは、大腸や胃などを含む腹部消化器がんです。しかし、実際にはほぼすべてのがんが肝臓へ転移をする可能性があります。また女性では、消化器がんのほかに乳がんや子宮がんが肝転移をすることがあります。
<肝転移をすることが多い原発巣>
転移性肝がんは肝臓を原発巣(げんぱつそう)*とする肝臓がん(原発性肝がん)とはがん細胞の性質が異なります。そのためそれぞれ別の病状として治療する必要があります。
肝臓がんは肝臓を構成している細胞ががんに変化したものです。一方で転移性肝がんは、肝臓以外の場所で発生したがんが肝臓に転移をきたしたものをいいます。
原発巣……がんが最初に発生した場所
がんの転移には3種類あります。
<がん細胞の転移の仕方>
以下の項目では、がんの転移の仕方について解説します。
血行性転移とは、がん細胞が原発巣から血管に入り込むことで血液の流れに乗ってほかの臓器や器官に移動します。その移動した臓器や器官でも増殖することです。肝転移の多くは血行性転移による転移だと考えられます。
リンパ行性転移とは、がん細胞が原発巣からリンパ管に入り込みます。そして、リンパ液の流れに乗って途中のリンパ節に流れ着き、増殖することです。
播種(はしゅ)とは種がまかれるようにからだのなかで、がん細胞がバラバラと広がることです。腹膜播種(ふくまくはしゅ)とは、がん細胞が臓器の壁を破って腹膜に広がることをいいます。
がんの種類によって転移しやすい臓器のパターンがあります。なぜ特定のがんが特定の臓器に転移しやすいかについては2つの要因が考えられています。
ここでは肝転移についてそれぞれの要因についてご説明します。
1つ目の要因として考えられていることは、前述の血行性転移によってがんが肝臓に転移してしまうことです。肝臓以外で発生したがん細胞が血液に乗って肝臓にたどり着き、そのまま腫瘍を形成してしまいます。
腹部臓器である大腸や胃、小腸などの血液は、門脈*から肝臓を経由して心臓、肺へ、そして全身へと循環します。そのため、大腸・胃・小腸で発生したがん細胞を含んだ血液が全身に循環する前に、最初に肝臓に流れ着きます。
そのため、腹部臓器からのがんは肝臓に転移病巣(転移したがんの中心部)を発生しやすいのだと考えられています。
門脈とは、腹部消化器と脾臓から血液を集め肝臓に運ぶ静脈のこと
2つ目に、肝転移病巣が形成されるためには肝臓に流れ着いたがん細胞が肝臓に生着して増殖する必要があります。
がん細胞が流れ着いた先の臓器において増殖しやすいかそうでないかに関しては、その臓器の微小環境*が流れ着いたがん細胞の増殖に適している必要があると考えられています。
つまり原発巣となる臓器によってそのがん細胞が肝臓の環境となじみやすいかどうかに差があるということです。同じ腹部臓器のがんでも大腸がんは肝転移が高率であるのに対して胃がんでは肝転移よりも腹膜播種が多いのはこの理由によるものと考えられています。
遠隔転移とは原発巣となったがんが別の臓器に転移をすること
微小環境とは、腫瘍の周囲で栄養を送る正常な細胞や分子、血管
がんのステージ分類は原発巣から離れた臓器に転移がみられると、ステージ4に分類されます。
下記の項目では大腸がんを例に取り、ステージ分類とともに解説いたします。
大腸がんのステージ分類ではがんが大腸の壁のなかに留まっているか、リンパ節への転移があるかなどで進行度が変わってきます。
ステージ1
がんが大腸の壁で留まっている
ステージ2
がんが大腸の壁から外に浸潤(しんじゅん:がんが周囲に広がる)している
ステージ3
リンパ節転移がみられる
ステージ4
肝臓や肺に遠隔転移*がみられる。または腹膜播種がある。
大腸がんでは、肝臓や肺へ転移がみられた場合に大腸がんのステージ4に分類されます。そのため、肝臓への転移がみられた場合にはそのがんのステージ4として診断されます。
遠隔転移とは原発巣となったがんが別の臓器に転移をすること
同時性肝転移(どうじせいかんてんい)とは、原発巣のがんがみつかったときに同時に肝転移が認められることです。この場合には原発巣のがんが発見された時点でがんのステージ4となります。
異時性肝転移(いじせいかんてんい)とは、原発巣のがんの治療後に肝転移が発見されることです。肝臓にできたがん細胞が原発巣と同じ細胞だった場合には、その原発巣のがんの再発といえます。がんの再発とは、治ったと思っていたがんが原発巣で再度みつかることや、別の場所でみつかることです。
肝転移は再発としてみつかることがあります。
たとえば、大腸がんがみつかると、がんの広がりや部位を調べるためにCT検査などを行います。その際に、同時性肝転移として肝転移がみつかるケースもありますが、なかには肝臓にがん細胞があるにもかかわらず、その有無を発見できないことがあります。
腫瘍のかたまりを形成する前のがん細胞はCT検査でも写らないほど微小であるためです。
肝転移が発見されないまま、大腸がんのみの治療が行われ、後に再度検査を行うと、微小だったがん細胞が腫瘍のかたまりを形成していて、異時性肝転移としてみつかるということです。
つまり、このような場合には、実際には、最初の検査の時点ですでにがん細胞が肝臓へ転移していたことになりますが、それを初発の時点で発見できないのは現代医療の限界です。
記事2『転移性肝がん(肝転移)の治療─転移は健診ではみつからない?』では肝転移の手術や検査について解説いたします。
秋田大学医学部附属病院消化器外科 科長・教授
秋田大学医学部附属病院消化器外科 科長・教授
日本外科学会 外科専門医・指導医日本消化器外科学会 消化器外科専門医・消化器外科指導医・消化器がん外科治療認定医日本肝胆膵外科学会 肝胆膵外科高度技能指導医日本移植学会 移植認定医日本胆道学会 認定指導医
2003年に秋田大学消化器外科学分野の教授に就任。肝胆膵疾患を専門とし、肝切除の豊富な経験と胆道、膵臓の疾患にも豊富な経験を持つ。肝静脈根部に腫瘍が存在して通常の肝切除では切除不可能な症例に対しても生体肝移植の技術を応用した体内冷却肝灌流法を用いたAnte-situm法による肝切除を行うなど、一般的治療法では助けられない患者さんにも高難度手術を提供している。患者さんにとってメリットとなる治療を常に模索し、「簡単にはあきらめない」をモットーに診療にあたっている。
山本 雄造 先生の所属医療機関
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抗がん剤治療で癌が消える(画像で見えない)場合はありますか?
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肝臓に転移。ステージ1
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