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転移性肝がんとは――分類と治療の選択肢について

転移性肝がんとは――分類と治療の選択肢について
竹村 信行 先生

国立国際医療研究センター病院 肝胆膵外科 医長・診療科長

竹村 信行 先生

目次
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肝臓以外の臓器にできたがんが肝臓に運ばれて腫瘍(しゅよう)になる“転移性肝がん”。症状を自覚する頃にはすでにがんが進行している可能性が高く治療が困難になるため、定期的な検査による早期発見と適切な治療が非常に重要となります。転移性肝がんにはどのような特徴があり、またどのような治療を選択できるのでしょうか。国立国際医療研究センター病院 肝胆膵外科診療科長 竹村 信行(たけむら のぶゆき)先生にお話を伺いました。

肝臓は800~1,200gほどある大きな臓器で、食事から吸収した栄養分を体に必要な成分に変えたり、有害物質を解毒・排出したりします。また、脂肪の消化を助ける胆汁を作る役割もあります。

その肝臓の細胞ががん化して悪性腫瘍になったものを“肝臓がん”といい、はじめから肝臓にがんができる“原発性肝がん”(肝細胞がん、肝内胆管がん)と、肝臓以外の臓器にできたがんが肝臓に運ばれて腫瘍になる“転移性肝がん”とに分けられます。

転移性肝がんは原発巣(転移する前のもともとのがん)のがん細胞が主に血液の流れに乗って肝臓に辿り着き、増殖することで起こります。原発巣のがんと同時に見つかることもありますが、がんの治療中や治療後に肝臓への転移が見つかることもあります。

転移性肝がんそのものには病期*はなく、すでにがんが肝臓に遠隔転移した状態であるため原発巣のがんの病期ではいちばん進んだステージIVとなります。

*病期:がんの状態を知るための指標。がんの場所や大きさ、広がり、がん細胞やがんの組織の性質などによって決められ、0~IVのステージに分類される。

MN作成

全てのがんにおいて肝臓へ転移する可能性はありますが、原発巣(転移する前のもともとのがん)によって治療方針が異なるため、大きく3つに分類されて考えられます。

大腸がんの肝転移

転移性肝がんの中でももっとも多く認められるのが、大腸がんからの転移です。大腸がんは見つかった時点で約20%の方が大腸以外の遠隔臓器にも転移しており、そのうち約70%が肝転移といわれています。大腸がんの肝転移は症例も多く、切除可能な肝転移は切除するのがよいと大腸がん治療ガイドラインでも肝転移に対する肝切除術が推奨されています。しかし、複数個の肝転移に対する治療戦略、肝臓内の太い血管に複雑に接する肝転移の治療戦略など、個々の症例に対して肝臓外科を含めた議論を必要とすることがあります。また、大腸がんの肝転移の切除後の再発は約半数の患者さんに起こりますが、肝臓に限った再発の場合は再度の肝切除治療が適応となります。

神経内分泌腫瘍の肝転移

神経内分泌腫瘍とは、ホルモンやその類似物質を分泌する役割を持つ神経内分泌細胞にできる腫瘍のことです。神経内分泌細胞は人体に広く分布されているため全身の臓器に発生する可能性がありますが、消化器(膵臓(すいぞう)、直腸など)に発生するものが約60%、肺や気管支に発生するものが約30%といわれています。肝臓やリンパ節に転移することが多く、肝臓に転移した場合は転移したがんの大きさや数、部位、患者さんの肝機能を考慮して治療が選択されます。

非大腸がん・非神経内分泌腫瘍の肝転移

大腸がん、神経内分泌腫瘍のどちらにも当てはまらないがんからの肝転移です。

胃がん乳がん、GIST(消化管の特殊な腫瘍)、膵臓がん、胆管がん、腎臓がん卵巣がんなどが挙げられますが、ほかにもさまざまながんや腫瘍からの肝転移があり、治療は原則原発巣のがんの治療に準じて決められます。

肝臓がんはがんが小さなうちは症状が現れないため、早期発見が難しい病気です。

ただし、転移性肝がんは原発巣からの転移によるものなので、もともとのがんの治療後の通院や検査により発見されることが多く、主にCT検査*や腹部超音波検査により診断されます。

肝臓がんはゆっくり進行し、ある程度の大きさや個数になると体重減少、発熱、黄疸(おうだん)、腹部膨張による食欲不振や息切れなどが認められますが、初期段階では日常生活において気付きにくいのが特徴です。進行した肝臓がんの治療は難しくなるため、早期に見つけることが非常に大切になります。

*CT検査:X線を用いて体の断面を撮影する検査。

転移性肝がんの治療は、がんの原発巣に準じて決められます。手術に向いている場合とそうでない場合があり、手術による切除は原発巣のがんの悪性度に加え、肝機能の状態、残せる肝臓の大きさなどにより適応が異なります。

大腸がんの肝転移の場合

大腸がんの肝転移は切除可能であれば根治を目指して、手術による切除を第一選択に治療を進めることになります。

ただし、転移したがんの個数が非常に多かったり、肝臓内の複数の主要な血管に接していて手術による切除が難しかったりする場合は、抗がん剤による治療が行われます。手術を目指して抗がん剤治療を行う“Conversion surgery”という方法が行われることもあります。また、肝臓以外に肺や腹膜などにも転移がある場合は抗がん剤による治療が標準治療*となりますが、当院では肺に1~2個、肝臓も数個の転移の場合は手術で両方を取り除くこともあります。腹膜の転移も大腸がんの周りの少数個なら切除を行います。当院では大腸がんの腹膜転移は大腸肛門外科(だいちょうこうもんげか)が専門としています。

大腸がん肝転移の切除の適応となるがんの具体的な上限の個数は決まっておらず、患者さんの状況や医師の判断によって異なります。切除可能な大腸がん肝転移治療の原則は手術ですが、転移した個数が少なくても肝切除治療後すぐの再発の場合は、先に抗がん剤による治療をすすめる方もいます。

当院では大腸肛門外科、消化器内科、腫瘍内科、肝胆膵外科のチームでそれぞれの患者さんに対する適切な治療方針を議論して、治療方針の決定を行っています。

*標準治療:治療の実績や学会での研究を踏まえたもっとも一般的な治療のこと。

神経内分泌腫瘍の肝転移の場合

手術による切除を中心に、抗がん剤治療や放射線治療を組み合わせた治療が基本になります(集学的治療)。肝臓への転移のみの場合は切除が第一選択の治療になりますが、神経内分泌腫瘍肝転移では、非常に多くの腫瘍が存在する場合でもたとえ多少残ったとしても、できる限り手術でがんを取り除いたほうが見通しがよいとされています。しかし、その場合には手術後も抗がん剤治療を続ける必要があります。

非大腸がん・非神経内分泌腫瘍肝転移の場合

原発巣に準じて治療が決められますが、基本は抗がん剤による治療となります。切除が可能な場合でも原発腫瘍の悪性度や抗がん剤の感受性に応じて手術の適応が変わるため、抗がん剤を使用しながら切除の適応とタイミングを見定めることが大切です。

非大腸がん・非神経内分泌腫瘍肝転移の中でも多くみられるのが胃がんの肝転移です。胃がんの肝転移は1個だけの転移の場合は切除の適応となりますが、大腸がんよりがんの悪性度が高く、転移個数が多くみられる場合は大腸がんの場合と異なり手術の適応外となります。また、少数個の肝転移の場合はまず抗がん剤治療で様子を見て、新たな転移がないことを確認したうえで手術による切除が行われることもあります。そのほかに肝転移が切除治療の対象となる病気は、GISTといわれる消化管の特殊な腫瘍の肝転移、まれに乳がん、子宮や卵巣のがん、腎がんの肝転移などですが、原則抗がん剤との組み合わせとなります。

手術による切除が難しい場合、がんの進行を抑える目的で抗がん剤治療が選択されます。抗がん剤には内服薬、点滴や注射などがあり、転移性肝がんの場合は原発巣のがんに有効とされる種類が使われます。

また先述のように、抗がん剤治療と手術を組み合わせることで、少しでも根治の可能性を高める目的もあります。手術前に抗がん剤治療を行うことでがんを小さくし、手術可能な状態に導きます。また手術後にがんの再発を遅らせることを目的に投与が行われることもあります。

当院では、転移性肝がんの根治や生存期間の延長を目指して、手術による肝切除を積極的に行っています。手術について議論を行う場を定期的に設け、大腸がん肝転移については大腸肛門外科、消化器内科、腫瘍内科と合同で治療方針を議論し、治療の適応や手術時期など、それぞれの患者さんに適した治療法を探っていきます。胃がんの肝転移の場合はさらに上部消化管を専門とする外科医も加わり議論を行います。

このように複数の科と連携を取りながら、チーム一丸となって患者さんによりよい治療法を提案できるように心がけています。

もともとのがんからの転移によって起こる転移性肝がんは、患者さんによって手術の適応など治療方針が異なります。現在の治療方針に疑問があってほかの先生の話を聞きたくても、他院まで行って意見を聞くのは躊躇してしまうかもしれません。ですが少しでも不安があれば、診断や治療選択などについて、気軽にセカンドオピニオン*を利用していただきたいです。がんで苦しむご自身の、ご家族の1回きりの人生ですので、さまざまな意見を聞き、納得したうえで治療していたければと思います。

*セカンドオピニオン:今かかっている病気や治療法について理解を深め納得するため、ほかの病院の医師の意見を聞いて参考にすること。

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