概要
MECP2重複症候群は、X染色体上の特定の遺伝子(MECP2遺伝子)が重複することで発症する先天的な病気です。主に男児にみられ、乳児期からの筋緊張低下や重度の知的発達の遅れ、薬剤抵抗性てんかん、繰り返す感染症など全身にわたる多様な症状を呈します。2026年現在、根本的な治療方法は確立されておらず、症状に応じた対症療法と療育・リハビリテーションが治療の中心となっています。
国内の患者数は約50名と推定されており、極めてまれな病気の1つです。MECP2重複症候群は一般的に、長期的な介護と高度な医療的ケアを必要としますが、2024年4月より指定難病として医療費助成の対象となりました。
原因
MECP2重複症候群の原因は、X染色体に位置するMECP2遺伝子の重複(二重あるいは三重)です。
MECP2遺伝子のはたらき
MECP2遺伝子をもとに産生されたタンパク質は、ほかの遺伝子の発現を調節し、神経細胞の成長やシナプスの形成に関係します。正常な状態では、適切な量のタンパク質が産生されますが、MECP2遺伝子の領域を重複(二重あるいは三重)に持っている場合、タンパク質が細胞内で過剰に作られます。この過剰な状態が脳の機能に影響を及ぼすと考えられていますが、詳細な機序については、2026年現在も研究が進められています。
MECP2重複症候群が男児に多い理由
ヒトでは、男性はXY、女性はXXという組み合わせの性染色体を持っています。MECP2遺伝子はX染色体上に存在するため、女性の場合は、2本のX染色体のうち一方がランダムに休止する“X染色体不活性化”という仕組みによって、通常は正常な遺伝子がはたらくことで症状がみられません。男性の場合は、X染色体を1本のみ持っているため、MECP2遺伝子の重複の影響が直接現れます。ただし、女性でも不活性化のバランスの極端な偏りなどによって、正常なX染色体ではなくMECP2遺伝子を持つX染色体が多くはたらいた場合には、症状が現れることがあります。また、MECP2遺伝子を含む領域の染色体がほかの染色体に結合している転座によってもMECP2重複症候群になります。
症状
症状は多岐にわたり、乳児期の筋緊張低下から始まり、成長とともに上下肢の痙性麻痺(筋肉が収縮して関節が固まる状態)へと進行します。また、重度の知的発達の遅れや薬剤抵抗性てんかん、繰り返す感染症、重度の便秘や胃食道逆流症といった消化器症状、特徴的な顔つき、身体的特徴などが複合的に現れます。そのほか、免疫系の異常がみられることもあります。
筋緊張低下・痙性麻痺と運動発達の遅れ
乳児期早期には、筋肉の張りが弱い“筋緊張低下”が目立ち、母乳やミルクを吸う力が弱いことによる栄養障害や胃食道逆流症による嘔吐などが起こりやすくなります。運動機能への影響としては、お座りや腹ばいなどの発達が大幅に遅れ、歩行機能を獲得しない可能性もあります。
小児期以降は、逆に筋肉が硬くこわばる“痙性麻痺”が下肢を中心に進行します。これにより歩行機能を一度獲得した場合でも、患者の多くは成長に伴い車椅子が必要となります。
重度の知的発達の遅れ
重度の知的発達の遅れにより、日常生活における全般的な支援が必要です。また、言語獲得が得られず、発語がない場合があります。ただし、自発的に話せない場合でも、簡単な言葉の意味については理解している可能性があります。
薬剤抵抗性てんかん
多くの患者が、幼児期以降に薬剤抵抗性てんかんを発症します。薬剤抵抗性てんかんは、複数の抗てんかん薬を組み合わせても発作を完全に抑えるのが難しいことが特徴です。てんかんを繰り返すことで、発達の遅れが目立ってくることがあります。
繰り返す感染症
MECP2重複症候群の患者は、免疫システムの異常によって細菌やウイルスに対する抵抗力が低下した“易感染性”の状態にあります。呼吸器感染症や尿路感染症などを頻繁に繰り返し、重症な肺炎になることがあります。繰り返す感染症は生命予後に影響を及ぼす大きな要因となるため、予防と早期の治療が重要です。
消化器症状
消化管の動きが弱くなり、多くの場合で重度の便秘がみられるほか、胃食道逆流症や嘔吐がみられることもあります。
特徴的な顔つきと体
一般的に、目が落ちくぼんでいる、両目が離れている、鼻が広い、口がテント状になっている、口が小さい、耳が大きいなどの特徴的な顔つきがみられます。身体的特徴として、全体的に手足の指や爪の細長さなどがみられることもあります。
検査・診断
MECP2重複症候群の診断では、まず重度の知的発達の遅れや筋緊張低下、繰り返す感染症などの主な症状がみられることを確かめます。レット症候群やアンジェルマン症候群など、ほかのよく似た病気との鑑別も重要です。そして、遺伝学的検査によってMECP2遺伝子の重複を確認します。免疫系の異常を調べるために、血液・生化学的検査が行われることもあります。さらに、脳波検査や心電図検査なども行われます。
治療
核酸医薬や遺伝子治療の研究は進められていますが、2026年現在、根本的な治療法は確立されていません。そのため、症状を和らげる対症療法と療育・リハビリテーションが中心となります。また、長く治療や介護を続けるうえでほかの家族の方と交流し、情報の共有や互助などを行う手段として、家族会も大切です。
一方、米国ではアンチセンスオリゴという方法で治験が行われています。また、中国ではRNA編集による治験が行われています。日本でも治験が始まることが期待されています。
薬剤抵抗性てんかん
複数の抗てんかん薬を組み合わせて発作のコントロールを図ります。薬物療法で十分な効果が得られない場合には、体に装置を植え込んで神経を刺激する“迷走神経刺激療法”などの外科的治療が選択肢となることがあります。ケトン食療法という食事制限による治療が行われることもあります。
繰り返す感染症
肺炎などの呼吸器感染症を繰り返す場合は、抗菌薬や補液の投与が行われます。呼吸器感染症に伴う呼吸障害に対しては、機械を使って酸素を補う“酸素療法”や、喉に小さな穴を開ける気管切開が検討されます。重度の誤嚥による肺炎を繰り返す場合には、気管切開のほか、口の中のものが肺に入らないように気管を分離する“喉頭気管離断術”などの手術が検討されることもあります。
消化器症状
誤嚥のリスクを減らし、十分な栄養を摂取するために、お腹に細いチューブを入れる“胃ろう造設術”が行われることがあります。胃食道逆流が強い場合には、逆流を防ぐ“噴門形成術”が検討されます。また、慢性的な便秘に対しては、便秘薬(坐薬)や定期的な浣腸によって治療が行われます。
療育・リハビリテーション
筋肉のこわばりや関節が固まることの予防や、残存機能の維持などのため、早期からの療育やリハビリテーションが重要です。患者の状態に合わせて、個別にプログラムが実施されます。
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