DOCTOR’S
STORIES
独学で習得した内視鏡の技術を惜しみなく後進に伝授する大圃 研先生のストーリー
私が医師になったばかりの1998年頃は、ほとんどの医師が大学卒業と同時に医局に入局することが当たり前の時代でした。一般的には医局に入局すれば、その附属病院や医局の教授、先輩医師の下で1つずつ手技を教えてもらえますし、さまざまな病院での勤務や学会発表を経験していくことができます。そのような時代に、私は“医局に入らない”、すなわちフリーランスの道を選びました。その理由はシンプルで、内視鏡に出会ってからその魅力に取りつかれてしまったからです。
フリーランスであるがゆえの苦労をした時代もありました。当然のことですが、フリーランスの医師には何のカリキュラムも用意されていません。自分でカリキュラムを考える自由がある反面、“皆は自分よりもずっと苦労してたくさん勉強しているはずだ”という強迫観念にいつも駆られていましたし、周囲に置いて行かれないようにとにかく必死でした。
とはいえその勉強法は完全に我流。たとえば、胃カメラの操作を練習したいと思ったときも、個人では病院にあるような疑似モデルは金額的に買うことができません。ですから私の場合、空のティッシュ箱を胃袋に見立てて箱の内側にポリープの絵を描き、横側に開けた穴に食道代わりのトイレットペーパーの芯をくっつけた手作りのモデルを用いて、胃カメラの操作練習をしていました。
また、こうした練習だけでは限界があるので、当時内視鏡検査で名の知られていた医師の元を訪ねては「先生が院内で開催している勉強会に参加させてください」と頼み込みました。その医師との面識はありませんでしたが、ありがたいことに返事はOK。それからはその医師の直属の部下に混ざって勉強会に参加させていただいたり、勤務の合間にできた少しの時間を使って病院間を移動しては内視鏡検査を見学させていただいたりしていました。
今振り返ってみるとなかなか大変だったなと思います。しかし、フリーランスである私は自分で動かなければ教えていただくチャンスを得られませんし、技術を磨かなければという強迫観念のほうが大きかったので、当時はつらいとも苦しいとも感じませんでした。
私が現在専門としている内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)の手技が確立され始めたのは1998年。偶然にも、私が医学部を卒業した年と同じタイミングでした。そして、私自身が初めて内視鏡治療に携わったのは2000年、研修医を修了してすぐのことでした。
そうやって振り返ってみると、ESDの歴史と私の医師としてのキャリア形成はかなりシンクロする部分があると思います。未完成な頃のESDに出会えたおかげで、未完成な技術を完成系へと作り上げるための過程を体験することができましたし、だからこそ今でもESDへの強い思い入れがあります。これほどまでに自分が夢中になって取り組めるものが医師になりたての時期に見つかったのは、本当に幸運なことでした。
ESDは原則的に早期がんに適応される治療法であり、リンパ節転移のリスクが低い症例であれば一度のESDでがんを治癒させることも可能です。もちろん、それとは別に新しいがんが将来発生するかどうかはまた別問題ですから定期検査は必要ですが、切除したがんそのものについては“再発リスクはほとんどない”といえる状態まで治せるという
患者さんにとって、早期であろうと“がん”は“がん”であり、病気になった時点で健常者としての人生からがん患者としての人生へと一変してしまいます。しかし、ESDによってきれいに病巣を取り除くことができれば、患者さんが病気になる前の人生を取り戻せるのです。このことは、ESDを専門とする私にとって日々の大きなやりがいになっています。
NTT東日本関東病院には、“
私は完全に独自のやり方でここまで来てしまったので、実は“自分のやり方は本当に正しいのか”“自分に人を教える資格があるのか”と、今でも自信がありません。正直な話、私よりも地位のある先生や、さまざまな学会・施設へのコネクションをお持ちの先生はたくさんいらっしゃいますから、“本当に彼らを受け入れてしまってよいのだろうか?”と考えてしまうこともあります。
けれど、今大圃組にいるメンバーは皆、数々の選択肢の中から、あえて“大圃の下で内視鏡の技術を学ぶ”という選択をしてくれた方たちです。ほかの誰でもない、私のところに来てくれたのは本当にありがたいことですし、“私の下で学ぶことを選んでくれたのだから彼らを絶対に成長させてあげたい”という私自身のモチベーションにつながっています。
教育に力を入れ出してから、周囲に“内視鏡教育の大圃”と言われることが増えてきたように感じます。実はそのように呼ばれだした当初は、自分はもともと内視鏡という技術職なのに教育が強みとはいかがなものか……と、どこか納得できない気持ちがありました。
しかし、あるとき知人から「どの業界にも、個人プレーヤーとして抜きんでる人は一定数いる。個人の技術を高めることは大変だし重要だけれど、人を育てることのほうがより難しくて重要なことであり、その分野を継続して発展させるためにとても大切なこと」とアドバイスをされてから、教育に対する考え方もイメージも変わってきました。
特定の技術を専門にしている医師であれば、通常、自分の技術や手技を周囲に認められることは何よりもモチベーションになるでしょう。私も昔は“自分の腕を認めてもらいたい”という思いが大きかったです。けれど今は、自分が患者さんを治療できた瞬間もうれしいのですが、それよりも自分の部下が内視鏡をうまく使ってESDを行えるようになった瞬間のほうが喜びを感じます。医師が育てばより多くの患者さんを治療できますし、私が教えなかったらこんなにうまく腫瘍を取れるようにならなかっただろうと思いますからね。一人ひとりの後進の手技上達に喜びを感じながら、これからも内視鏡治療の担い手の育成に力を注いでいきたいです。
人を教えるにあたり、私が大切にしているのは、内視鏡やESDの“面白さ”を伝えることです。
内視鏡は面白い、もっとやりたいと感じられる方は、仕事以外の時間を使っても一生懸命勉強して技術を習得したいと思うはずです。これに対して、“面白さ”を知らずに何となく勉強している方は内視鏡を仕事以上のものと考えられないので、ほどほどに上達するにとどまってしまうでしょう。
“面白い”と思えるかどうかは、ささいなことであってもよいのでまずはきっかけが大切で、指導者から教えてもらうことがなければ永遠に気付けないかもしれませんよね。だからこそ、指導者の最大の役割は、内視鏡を一生懸命勉強した先の“面白さ”を見せたり、日々の指導の中で“面白さ”に気付くきっかけを作ってあげたりすることだと思うのです。
これからも、大圃組に入ってくれた医師の方々が“面白さ”に気付くきっかけを与えられる指導者でありたいと考えています。
以前、大腸内視鏡を積極的に行っている施設についてピックアップしている記事をたまたま見かけました。すると、私の下で内視鏡を学び、卒業していった医師の在籍している施設がいくつも書かれていたのです。その中にはNTT東日本関東病院の近隣施設もあったため、多くの症例が他施設やライバルに取られていっているという見方もできます。症例数という意味では、もはや自分で自分の首を絞めていますよね。けれど“私の下を卒業した後輩医師が、それぞれ自分たちのチームを作り上げて、こんなにも立派に活躍している”と思うと、誇らしい気持ちでいっぱいになります。
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NTT東日本関東病院
NTT東日本関東病院 院長、ロコモ チャレンジ!推進協議会 委員長
大江 隆史 先生
NTT東日本関東病院 乳腺外科部長・がん相談支援センター長・遺伝相談室長
沢田 晃暢 先生
NTT東日本関東病院 整形外科・スポーツ整形外科・人工関節センター
高木 健太郎 先生
NTT東日本関東病院 泌尿器科 部長 兼 前立腺センター長
中村 真樹 先生
NTT東日本関東病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 部長
中尾 一成 先生
NTT東日本関東病院 肝胆膵内科 医長
藤田 祐司 先生
NTT東日本関東病院 脳神経外科 部長/脳卒中センター長
井上 智弘 先生
NTT東日本関東病院 ロボット手術センター センター長
志賀 淑之 先生
NTT東日本関東病院 血液内科
臼杵 憲祐 先生
NTT東日本関東病院 脳血管内科 部長、脳神経内科 部長
大久保 誠二 先生
NTT東日本関東病院 ガンマナイフセンター長
赤羽 敦也 先生
NTT東日本関東病院 スポーツ整形外科部長
武田 秀樹 先生
NTT東日本関東病院 緩和ケア科部長
鈴木 正寛 先生
NTT東日本関東病院 肝胆膵内科部長
寺谷 卓馬 先生
NTT東日本関東病院 副院長・予防医学センター長
郡司 俊秋 先生
NTT東日本関東病院 形成外科 部長
伊藤 奈央 先生
NTT東日本関東病院 呼吸器外科 部長 呼吸器センター長
松本 順 先生
NTT東日本関東病院 心臓血管外科 部長
華山 直二 先生
NTT東日本関東病院 整形外科・スポーツ整形外科・人工関節センター
柴山 一洋 先生
NTT東日本関東病院 整形外科 医長/人工関節センター長
大嶋 浩文 先生
NTT東日本関東病院 外科 医長
樅山 将士 先生
NTT東日本関東病院 整形外科 部長・脊椎脊髄病センター長
山田 高嗣 先生
NTT東日本関東病院 外科 医長
田中 求 先生
NTT東日本関東病院 消化管内科 医長
港 洋平 先生
NTT東日本関東病院 循環器内科 部長
安東 治郎 先生
NTT東日本関東病院 産婦人科 部長
塚﨑 雄大 先生
北青山Dクリニック 脳神経外科
泉 雅文 先生
NTT東日本関東病院
高見澤 重賢 先生
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