問題を解決するための手伝いをすることこそが、内科医としての役目

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問題を解決するための手伝いをすることこそが、内科医としての役目

持っている知識を生かして、患者さんに適した医療を目指す朝倉 太郎先生のストーリー

鶴間かねしろ内科クリニック 院長
朝倉 太郎 先生

高校生の頃に受けた生物学の授業がきっかけで医療の道に

自身の進路を本格的に意識し始めるきっかけになったのは、高校生の頃に受けた生物学の授業です。自然現象を科学の視点で解説する授業を受けて、「生物学って面白い!」と感じたのです。そこから、自分の興味のある学問に関するさまざまな本を読んだり、気になったことを調べたりするうちに、研究者が将来の夢になりました。

高校卒業後の進路を考え始めなくてはいけない時期、最初は理学部と医学部とで迷っていました。そのようななかで、利根川(とねがわ) (すすむ)先生がノーベル生理学・医学賞を受賞した免疫に関する解説記事を読みました。複雑な免疫システムがどのように制御されているかを解き明かした研究は、医学への興味をいっそう強くしました。これが、私の医師への第一歩です。

研究で学んだことを生かしたい

私が糖尿病領域に進んだのは、金城(かねしろ) 瑞樹(みずき)先生(東林間/鶴間かねしろ内科クリニック 理事長)からお話を聞いたことがきっかけでした。

金城先生とは、私が高校生の頃からの付き合いです。大学生になってからも一緒に勉強をさせていただくなど、交流がありました。研究者としての日々を送っていたところ、金城先生から「糖尿病の患者さんに医療を提供するということは、患者さんの人生に入り込んでいくこと」という、糖尿病医療ならではの魅力を教えていただきました。医師になってからは夢であった研究に精を出していましたが、糖尿病に対する医療の魅力を知り、金城先生の下で学ぶことを決意したのです。

2008年から鶴間かねしろ内科クリニックで、金城先生と共に糖尿病の患者さんを診療しています。当初、基礎研究で培った知識を糖尿病医療にすぐに生かすことは難しいと感じていました。しかし今では、臨床の現場で患者さんが抱える問題に直面したとき、研究で培ったものを見る視点や、問題を解決するために必要な視点を生かすことができていると思います。

朝倉 太郎先生

“問題を解決してあげる”のではなく、“解決するための手伝い”をしたい

糖尿病の治療を行ううえで、“教育”や“指導”という言葉を耳にする方もいるかもしれません。しかし、私はそれらの言葉はあまり適切ではないと考えています。

たとえば、食事の管理についても教育や指導という言葉を使うこともあるでしょう。医師が食事に関して、“指導”として「あれは食べたらだめだ」とか「こういうものを食べなさい」と話す。そして、患者さんはそれに恐縮して謝罪する……。このような経験をお持ちの方は結構いらっしゃるようです。糖尿病は、生涯にわたり治療やコントロールが必要になることが多い病気であり、食事など生活習慣が患者さんの状態に影響することがあります。生活習慣をコントロールしたほうが良好な状態を維持するには有利ではありますが、生活に制限を加えることはできる限り少なくして、ストレスのない生活を送ってほしいと思っています。そのために、私自身が身につけた知識を生かして、患者さんの病態を見極め真に必要な治療法を提案する。そのうえで生活習慣に関しては、たとえば食事なら血糖値の上がりにくい食べ方の工夫などをお伝えすることを心がけています。これからも研鑽を続け、患者さんの問題を解決するためのお手伝いをしていきます。

患者さん1人ひとりに適した医療を提供したい

出会った患者さんとのエピソードは1人ひとり記憶に残っているのですが、なかでもとても強く印象に残っている患者さんがいます。

鶴間かねしろ内科クリニックが開院して間もない頃です。その方は1人暮らしをしているご高齢の患者さんで、糖尿病だけでなく認知症もお持ちでした。その患者さんは、クリニックの予約が入っていても、本当に来られるか、来られないかも分かりません。会話などのコミュニケーションも思うように取ることができませんでした。そのため、クリニックのスタッフ全員で“どうすることが患者さんにとってよいのだろうか。そして、私たちは医療スタッフとして何ができるだろうか”と悩んだものです。

そのようななか私が頼ったのは、介護福祉士として働いている実の弟でした。認知症をお持ちであるために、ご自身で病院に来院したり食事の管理をしたりするのが難しいことなど、患者さんの気がかりな点に対してどのようにお手伝いできるのかを相談しました。また、生活状況を伺っていくと、独居でしたが近隣にお住まいの方やお近くのファストフード店の方など、多くの地域の方から支えられて生活が成り立っていることを知りました。1人の生活を支えるにあたり、医療の限界を知り、医療スタッフだけでなく地域、多職種が連携していくことが大切だと気付かされました。

その患者さんの診療がきっかけとなり、当院では介護施設やケアマネージャーとの連携など、ご高齢の患者さんがより受診しやすい診療所となるよう、介護の視点からも患者さんのフォローアップを行える体制を整えました。地域、多職種をまとめるリーダーとして、今後もよりよい医療体制の構築に尽力していきたいです。

患者さんにとっての心の拠り所はコミュニケーションから作り出す

患者さんの問題を解決するお手伝いをするために、日々の診療の中で心がけていることがあります。それは、患者さんと積極的にコミュニケーションを取ることです。

2008年に院長に就任してから、12年が経過しました(2020年時点)。12年もの月日が流れる間には、さまざまな出来事があるものです。「孫が生まれたの」と嬉しい報告がある患者さんもいらっしゃる傍ら、「パートナーが亡くなった」とつらい出来事を打ち明けてくださった患者さんもいらっしゃいました。

特に、糖尿病は生涯にわたり治療やコントロールが必要です。これは、私たち医療スタッフが患者さんの人生に大きく関与しているということを意味します。そのため私は、少しでも患者さんが話しやすい・相談しやすい環境を作ることを心がけています。私たちが、患者さんにとっての心の拠り所となれたら嬉しいです。

未来の糖尿病医療を担う医師を育てたい

今取り組んでいることは、医療の次世代を担う医師を育てることです。

中高生には『医学を志す』という企画を通して、医師の仕事、志をお伝えしています。多くの先生方にご協力いただき、これまでに計9回開催いたしました2020年現在、『医学を志す』はオンラインで開催を続けています。この企画から、実際に医学部に入学する生徒さんが出てきています。大学で卒業生に出会うことも増えてきました。

母校である横浜市立大学では、糖尿病治療薬に関する講義を担当しています。講義では実際に担当した患者さんのエピソードを交えながら解説をしています。臨床で薬剤がどのように使われているかを通して、“病態、治療法をよく理解していれば、患者さんに対してよりよい医療が提供できる”ということを伝えています。患者さんを診療するにあたり、医師が正しい知識を適切に整理できていれば、治療の選択の幅が広がり、患者さんもより安心できるでしょう。これからの医療がよりいっそう安心できるものであるよう、微力ながら後進の育成をお手伝いしていきたいと思います。

*『医学を志す』についての詳細はこちらをご覧ください。

 

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