院長インタビュー

未来を担う子どもたちの笑顔を守るために——「高度な専門性」と「地域の手の温もり」を両立する神奈川県立こども医療センター

未来を担う子どもたちの笑顔を守るために——「高度な専門性」と「地域の手の温もり」を両立する神奈川県立こども医療センター
メディカルノート編集部  [取材]

メディカルノート編集部 [取材]

目次
項目をクリックすると該当箇所へジャンプします。

少子化が加速する現代社会において、小児専門病院が果たしている役割はかつてないほど重要になっています。1970年の開設以来、神奈川県立病院機構 神奈川県立こども医療センターは、単に病気を治す場所としてだけでなく、お子さんとご家族が安心して明日を迎えられるための社会のセーフティネットとしての道を歩んできました。

高度な集中治療から心のケア、そして地域と手を取り合う在宅支援まで、同センターの医療の特徴について、産婦人科医としてのバックグラウンドを持ち、胎児期からお子さんの命を見つめ続けてきた病院長の石川 浩史(いしかわ ひろし)先生にお話を伺いました。

当センターが誕生したのは1970年のことです。当時の日本は、年間200万人ものお子さんが生まれており、小児医療の需要が非常に高い時代でした。

その頃の小児の専門的な医療は、大学病院の一部や療養施設で担われることが多く、急性期を含めて幅広く対応できる体制は限られていました。そうした中で、自治体の力によって小児の総合病院として設立されたのが当センターです。

現在では出生数が70万人程度まで減少し、医療を取り巻く状況は大きく変化しています。それに伴い、当センターに求められる役割も時代とともに変わってきました。
それでも、すべてのお子さんに適切な医療を届けるという考え方は、開設当初から変わっていません。その理念を軸にしながら、時代に応じた医療のあり方を模索し続けています。

神奈川県立こども医療センター 外観
神奈川県立こども医療センター 外観

当センターの特徴の1つに、特定の大学医局に依存せず、全国から志を持つ医師を広く受け入れてきた点があります。

その基盤となっているのが、早い時期から整備してきた小児総合診療の研修体制です。専門分野を深めたい医師にとって、臨床経験を積みながら幅広い領域に触れられる環境が整えられてきました。

こうした環境のもとで研修を積んだ医師たちは、その後、各地の医療機関へと進み、それぞれの地域で小児医療に携わっています。結果として、当センターで培われた経験が全国へと広がっていく形になっています。

このように、診療の場であると同時に、人材を育て、各地へとつないでいく役割を担ってきたことも、当センターの大切な側面だと考えています。

当センターでは、一般的に「小児科」と呼ばれる領域を「小児内科」と位置づけ、その中に循環器や内分泌など、複数の専門分野を設けています。大人の内科では領域ごとに診療が分かれることが一般的ですが、小児医療ではそうした専門性を横断して診る場面も多く、特に救急外来では幅広い知識が求められます。

そうした体制を支えているのが、小児内科の医師たちの総合的な診療力です。専門分野を持ちながらも、必要に応じて領域を越えて対応できることが、日々の診療の基盤になっています。

さらに、当センターでは外科系の診療科も幅広く整えています。小児外科をはじめ、整形外科、形成外科、脳神経外科、心臓血管外科、泌尿器科、眼科など、それぞれの分野において小児に特化した診療ができる体制を整えています。

お子さんの体は大人とは異なり、成長の過程も含めて丁寧に診ていく必要があります。そのため、各領域に小児の専門家がそろっていることが、適切な医療を支える基盤になると考えています。

私たちは「こども医療センター」という名前を冠している以上、お子さんのあらゆる疾患に対して可能な限り体制を整えるべきだと考えています。

もちろん、極めて特殊な胎児治療が必要な場合などは東京都の国立成育医療研究センターと協力したり、放射線の血管内治療では横浜市立大学市民総合医療センターと手を取り合ったりすることもあります。しかし、基本的には神奈川県内一円、さらには東京都や静岡県など県外から来られる患者さんに対しても、当センターの機能を最大限に活用して対応しています。一般の病院では対応が難しいことについても、当センターでなら何でもできるという状態を目指すのが、私たちの本来あるべき姿だと考えています。

当センターで重症のお子さんの命を救うための要となるのが、集中治療部門です。ここには10床のPICU(小児集中治療室)がありますが、心臓手術後のお子さんや重症の肺炎、脳炎脳症などで生死の境にあるお子さんのために、ほぼ毎日全ベッドが埋まる状態でフル稼働しています。

また、27床という神奈川県内でも大きな規模のNICU(新生児集中治療室)も、私たちの重要なミッションを支えています。県内のNICU病床の約12%を当センターが占めており、専門の医師と看護師が全力でお子さんの治療にあたっています。

以前、私が別の病院で産婦人科医として働いていた頃は、切迫早産の救急搬送を受け入れたくても「NICUにベッドの空きがないから断ってください」と言われてしまうことがよくありました。しかし、今の当センターではそのような言葉を聞くことはほとんどありません。

産婦人科医にとって「何かあっても、あの病院のNICUが受け止めてくれる」という安心感は、何物にも代えがたいものです。このような集中治療部門をしっかりと運営し、将来を担う医師や看護師を育てていくことは、私たちの病院にとって極めて重要な使命であると考えています。

私たちは2013年に小児がんの拠点病院として指定を受けて以来、大きな責任を担い、多くの専門職が連携して治療にあたってきました。

小児がんは非常に複雑で、抗がん剤治療を行う専門医だけでなく、手術を担当する外科医や、骨の腫瘍であれば整形外科医といった、診療科の垣根を越えたチーム医療が欠かせません。

すでに述べたように、昨今はお子さんの数は減っていますが、それでも小児がんのお子さんは一定数いらっしゃいます。専門的な治療を必要としているお子さんのために、多職種が揃った状態で集学的な治療を提供し続ける体制を、これからも維持していかなければなりません。

当センターは、国内でも比較的早期から「遺伝科」を設置した病院です。私たちは多くの研究を通じて日本における小児遺伝医療の発展を中心となって支えてきたと自負しており、今後も小児の遺伝に関する病気に最前線で取り組んでいく所存です。

なお小児の病気と遺伝の話で見逃せないのは、診断がついて診療が始まればそれでいい、というものではないという点です。遺伝の病気の診断の結果は、ご家族や家系全体にどのような影響を与えるのか、心のケアを含めたトータルなサポートが必要となるからです。
当センターには、国内における遺伝カウンセラーの先駆けとなったスタッフが在籍しており、ご家族の不安に寄り添い、お子さんを支えています。

ここ数年で私たちが強く危機感を抱いているのが、お子さんの「心」の問題です。とりわけコロナ禍以降、小児の精神科領域では患者数が大きく増加しています。実際に、全国的なデータでも摂食障害は約1.5倍に、中高生女子の自殺企図は2倍以上増えているとされており、状況は決して軽視できるものではありません。

こうした背景もあり、当センターの児童思春期精神科には多くのご紹介をいただいており、初診まで半年程度お待ちいただくこともあります。心苦しい状況ではありますが、緊急性の高いお子さんを優先的に診療できるよう体制を整えるとともに、地域の先生方と連携しながら、早期対応につなげる取り組みを進めているところです。

心の問題は、精神科だけで完結するものではありません。例えば重篤な摂食障害のお子さんでは、栄養状態の改善のために外科と連携して胃ろうを検討したり、内分泌の専門医が成長への影響を評価したりする必要があります。

当センターでは、看護師や心理士、各診療科の医師がチームを組み、身体と心の両面から支える体制を整えています。複数の専門領域が連携することで、一般の小児科病棟では対応が難しいケースにも向き合うことができる――その点が、私たちの医療の特徴の1つだと考えています。

私たちは、お子さんとご家族にとって「ご自宅の近くで治療を受けられること」が何より大切だと考えています。だからこそ、当センターですべてを抱え込むのではなく、地域の先生方と役割を分け合うことを重視しています。

例えば、NICUで状態が安定したお子さんは、地域の二次救急病院へとつなぎ、ご自宅に戻るための準備を進めていただきます。こうした連携によって、治療の質を保ちながら、ご家族の移動や生活の負担を軽くすることができます。

医療を一か所に集めるのではなく、それぞれの地域で支えていく。その積み重ねが、お子さんとご家族にとって無理のない医療につながるはずです。

私たちは地域を支える存在であると同時に、地域に支えられている存在でもあります。

例えば、遠方から来られるご家族のための宿泊施設「リラのいえ」を運営してくださっている方々や、院内で活動するボランティアの皆さんの存在は、日々の診療を支える大きな力となっています。こうした支えがあるからこそ、私たちは安心して医療に向き合うことができています。

高度な医療を提供することはもちろん重要ですが、それだけでは成り立ちません。地域の方々の温かな関わりがあってこそ、お子さんやご家族に寄り添う医療が実現できるのだと思います。そうした積み重ねこそが、小児病院として大切にしてきた価値であり、これからも守り続けていきたいと考えています。

医療の進歩により、かつては入院を続けなければならなかったお子さんも、人工呼吸器などの医療的ケアを行いながらおうちで暮らすケースが増えています。現在、当センターが関わっている在宅の医療的ケア児は、2024年度で約1,300人にのぼります。

これらのお子さんを支えるために、最近ではお子さんのことも診てくださる訪問看護ステーションや訪問診療の先生方も少しずつ増えてきました。病院の外に出ても、地域全体でお子さんを支えていく仕組みを支援すること。それもまた、私たちの病院の大切な仕事です。

私たちは大学病院ではありませんが、日々の診療だけでなく、その先を見据えた取り組みも大切にしています。

臨床の合間を縫いながら、多くの医師が研究に取り組んでおり、実際に科研費の採択にもつながっています。診療の現場から得られる気づきを、新たな知見として積み重ねていこうという姿勢が根付いていることは、当センターの誇りとするところです。

こうした積み重ねを支えているのが、「研究・教育・経営」を一体として捉える考え方です。人を育て、知識を蓄え、それを適切に医療へと還元していく。その循環を続けていくことが、将来にわたって小児医療を支えていく基盤になるはずです。

一方で、医療を取り巻く環境は大きく変化しており、人手不足への対応も重要な課題となっています。そのなかで私たちは、DXの活用にも取り組んでいます。

例えば現在進めているのが、PICUへのスマートポンプの導入です。重症のお子さん1人に対して、20台近いポンプが使われることもありますが、現状ではそのすべてを看護師が手作業で管理しています。

これを電子カルテと連動させて一括で制御できるようにするのがスマートポンプです。これを導入することで、機械の確認に費やしていた時間を減らし、お子さんの変化に目を向けたり、ご家族と向き合ったりする時間を確保したいと考えています。
2026年にはクラウドファンディングで資金を募集し、3月時点では10床あるPICUのうち3床にスマートポンプを設置できる目処がつきました。
→クラウドファンディングのページはこちら

効率化は単なる業務改善ではなく、医療のあり方そのものに関わる取り組みです。
DXの導入で人にしかできない部分により多くの時間を使えるようにすることが、結果として医療の質を支え、働く人の負担軽減にもつながっていくはずであり、当センターは今後もDX化を推進していく予定です。

実は私自身は小児科医ではなく、産婦人科医としてキャリアを積んできました。長年、胎児診断に携わり、お腹の中にいる赤ちゃんの状態を診てきましたが、その経験が今の私の医療観の土台になっています。例えば、生まれる前から心臓のご病気が分かっているお子さんの場合、小児科の先生方と連携し、出生直後から適切な治療が行えるよう準備を整えていく必要があります。

こうした経験を重ねる中で強く感じているのは、小児医療は決して1つの診療科で完結するものではないということです。生まれる前から、生まれた後、そして成長の過程に至るまで、多くの専門家が関わりながら、バトンをつないでいく連続的な医療だと思います。実際、全国の小児循環器の先生方とお話しする中でも、「こども医療センターで研修していた」という方に数多く出会い、そうしたつながりの広がりを実感しています。

そのような連続性の中で小児医療を捉えたとき、小児専門病院の存在は単なる治療の場にとどまらないものになります。私はその役割を、「究極の少子化対策」と表現しています。

今の時代、お子さんを産み育てることに不安を感じる方も少なくないと思います。だからこそ、「もし何かあったとしても、この地域には支えてくれる医療がある」と感じていただけることが大切だと考えています。

病気や障がいの有無にかかわらず、地域全体でお子さんの成長を支えていく——その基盤の1つとして、私たちのような小児病院がある。そうした安心感が、次の世代へとつながっていくのではないでしょうか。

これからも私たちは、一人ひとりのお子さんとご家族に寄り添いながら、その役割を果たしていきたいと考えています。
 

医師の方へ

様々な学会と連携し、日々の診療・研究に役立つ医師向けウェビナーを定期配信しています。
情報アップデートの場としてぜひご視聴ください。

学会との連携ウェビナー参加募集中
実績のある医師をチェック

Icon unfold more