沖縄県の中部に位置する宜野湾市に建つ独立行政法人 国立病院機構 沖縄病院は、沖縄県で唯一の「難病医療拠点指定病院」として、筋ジストロフィーをはじめとした神経筋疾患に幅広く対応しています。2015年に完成した神経内科病棟には、神経難病・神経疾患の患者さんが沖縄県全域から治療のため入院されています。沖縄県のがん死亡数でもっとも多い肺がんについては、遺伝子検査を用いた個別医療や難易度の高い手術などを行う、県内でも有数の症例数を誇る病院です。同院が注力している医療や今後の取り組みについて、同院の院長である川畑勉先生にお話を伺いました。
終戦後の沖縄に蔓延していた結核に対する診療・療養施設として、1948年に「沖縄民政府公衆衛生部金武保養院」として創設されました。その後は、「琉球政府立金武保養院」、「国立療養所金武保養院」、「国立療養所沖縄病院」と名称変更がありました。医療の発達とともに、結核は減少しておりますが、当院は沖縄県の結核医療の最後の砦として、これからも結核の診療を続けていきます。
当院の病床数は一般病棟が130床、神経内科病棟が120床、結核病棟が50床、緩和病棟が20床の合計320床を有します。沖縄県で唯一の「難病医療拠点指定病院」として、神経難病や筋ジストロフィーなど神経内科疾患の患者さんを、沖縄全域から数多く受け入れています。
また、肺がん診療の拠点として、年間200例以上の肺がん患者さんの診療に気管支内視鏡治療や、低侵襲(胸腔鏡)手術、放射線治療、化学療法を駆使した総合的な治療を提供しています。
地域の医療ニーズがどんどん高まっている緩和医療については、緩和ケア専門医・心療内科医・認定看護師を含む職種を越えたチームが、患者さんにとって何がもっともよいサポートであるか、充分なコミュニケーションを図りながら、患者さんやご家族とともに考える緩和医療を提供いたします。
当院は、沖縄県の肺がん診療の拠点として、県内各地から紹介される多くの患者さんの診断・治療を行い、豊富な経験と実績を有しております。当院には、肺がんの専門内科医が6名、専門外科医が5名と高度な技術を持った専門医が多数おります。年間の肺がん症例は約200例、肺がん手術症例はおよそ100例にのぼり、呼吸器外科専門医育成基幹病院にも位置づけられています。
当院に紹介される患者さんは、進行がんの患者さんや、一度手術を受けたが再発してしまった患者さんなど、比較的症状が重い患者さんが多くなっております。当院の特徴のひとつとして、呼吸器外科の専門医や、呼吸器内科の専門医、病理専門医、放射線治療専門医が一緒にカンファレンスを行い、患者さんにとってどのような治療が最適かを検討し、治療方針を決定しています。
外科手術では、1992年から患者さんの負担が少ない胸腔鏡下手術を肺がんに対して積極的に適応しています。現在は、年間の外科手術の約7割で、胸腔鏡下手術を実施しています。
また、血管の一部を切ってさらに縫合したり、気管支を切って再建したりするといった方法で可能な限り呼吸機能を温存する、難易度の高い手術を積極的に行い、呼吸機能の温存と根治性を同時に追求し、良好な治療成績を得ています。
放射線治療や抗がん剤治療を実施する場合は、薬剤、もしくは放射線治療との組み合わせなどで、もっとも高い治療効果が期待できる治療方法を提示致します。がんの組織型はもとより、進行度やがんの遺伝子レベルでの検査(バイオマーカー)を行うことによって、もっとも効果が高いと予測される最適な治療方法を患者さん一人ひとりに合わせて選択いたします。最近は肺がんなどの疾患全体に対する治療から患者さん一人ひとりのがんの個性にかなった治療へと代わりつつあります。それがオーダーメイド医療(個別化医療)と呼ばれるものです。当院では豊富な実績に基づき、必要に応じて肺がんの個別化医療に積極的に取り組んでいます。(詳しくは肺がんセンター準備室までお問い合わせください。)
沖縄県は、肺がんによる死亡率が第1位になるほど、肺がん患者さんが多い地域です。沖縄県で日本復帰以前に販売されていた沖縄ブランドタバコには、高濃度のタールが含まれていたことや喫煙開始年齢、ウイルス関連、受動喫煙などさまざまな原因が考えられています。
近年、沖縄県は非喫煙若年者肺がんが増加しており、肺がん=高齢者の疾患ではありません。若い時から非喫煙、自覚症状の無い方でも肺がん検診(当院では肺ドックを実施)をお勧めします。当院の特徴として60歳代、70歳代の患者さんだけではなく、80歳代の肺がん患者さんも数多くおられます。当院で実施する肺がん手術の約2割が80歳代以上の患者さんです。90歳代の患者さんを手術した経験もあります。
ご高齢の患者さんであっても手術を希望される方が増えています。そのため、患者さんの気持ちを優先したうえで、心臓のはたらきや呼吸機能に異常がないか、ほかに病気をお持ちでないかどうか(合併疾患)など、慎重に検査を行ったうえで手術を行っています。手術のほとんどが体に優しい胸腔鏡下手術で行われ、術後経過や治療成績も良好です。手術がお勧めできない場合には放射線治療や支持療法(BSC)を含めた適切な治療方法をご提示します。
各年代層の肺がん治療において、当院の肺がんセンターでは外科部門では肺機能温存と根治性を追求した手術、化学療法部門においては疾患中心の治療から個々の特性に応じた治療の導入(個別化医療)、放射線治療部門においては抗がん剤との併用による治療成績のさらなる向上と病理診断部門を含めたすべての診療科の英知を結集して患者さんに最適な治療方針を示し、高度で良質な医療の提供し、沖縄県民の肺がん患者さんを一人でも多く救えるよう邁進します。
当院の神経内科では、日本神経学会をはじめとする各神経関連学会認定の専門医資格を持つ経験豊富な医師が診療を行っています。県内では唯一の筋ジス病棟があり、筋ジストロフィーをはじめとした神経筋疾患に幅広く対応しています。今後も増えることが予想される認知症・パーキンソン病をはじめとする神経内科疾患の診断と治療において、診療領域の拡大とMRI、脳波、神経超音波検査を駆使し、精度の高い診断を行っています。検査部門との連携もスムーズで、午前中に検査を受けにいらした患者さんを夕方までかけてじっくり丁寧に検査する場合もあるほど、丁寧な診断がモットーです。診断から治療の開始までが早く、投薬治療と合わせてリハビリテーションにも重点を置き、質の高い治療を行っております。
さらに、2014年に「脳・神経・筋疾患研究センター」を開設し、臨床研究面をより充実させ、広く国内外に研究成果を発信しています。
沖縄型神経原性筋委縮症は、30~40代に手足のけいれんが始まり、多くは45〜50歳から四肢近位筋の筋委縮が明らかになり、50代以降から歩行が困難となる疾患です。難病指定されている「筋委縮性側索硬化症(ALS)」と症状が似ています。1985年に沖縄本島にみられる感覚障害をともなう特異な神経原性筋委縮症として、当時の厚生省に報告されましたが、近年、滋賀県やブラジル移民に類似症例の発症が見つかり、決して沖縄だけの疾患ではないことがわかってきました。鹿児島大学と琉球大学、そして当院の脳・神経・筋疾患研究センターによる研究チームが、患者さんの家系など32名の遺伝子を解析し、全員に共通する変異遺伝子を特定しました。
脳・神経・筋疾患研究センターは、国内外に研究成果の発表をしたり、国内の治験に参加したりするなど、神経難病の研究拠点として力を発揮していきたいと思っています。
当院の緩和ケア病棟は、2006年4月から導入し、2010年には現在と同じ20床となりました。今後は25床まで増やす予定です。病棟実績では、2015年度入院患者数164名、平均入院期間は41日であり、近隣の病院・施設からご紹介された患者さんが約75%を占めています。
がんなどの生命に影響を及ぼす病気にかかると、患者さんには身体的苦痛や、精神的苦痛、社会的苦痛など、これまで予想していなかった多くの問題に直面します。また、闘病生活を支えているご家族にも同様のつらさがともないます。
当院では、医師・緩和ケア認定看護師および、がん性疼痛看護認定看護師のほかに、薬剤師、臨床心理士、栄養士、ソーシャルワーカー、医療事務職などの多職種と連携しながらチームで緩和ケアを行い、患者さんにとって、そしてご家族にとってよりよい療養生活が送れるようにサポートします。また、当院に外来通院中・入院中の患者さん・ご家族にも緩和医療が提供できるように、緩和ケアチームが随時対応しております。
当院は、難病医療拠点指定病院として、沖縄の肺がん診療の拠点として、さらに結核医療の最終拠点病院として地域に果たすべき役割が大きく、神経内科、呼吸器内科および外科、緩和医療の専門医が数多くいます。その卓越した技術を、これからの若手医師に伝えていくことが、今後の課題だと思っています。
当院には、とくに神経難病・神経疾患の患者さんが多くいらっしゃり、神経内科の120床の病棟は常に満床です。2018年度に開設する新病院では病床数を増やす予定です。
呼吸器内科や呼吸器外科では、難易度の高い手術を数多く実施しており、ベテラン医師の匠の技を実感するチャンスがたくさんあります。最新の遺伝子検査を用いたオーダーメイド医療も推進している当院で学べることはたくさんあります。
当院のホームページや当職員の学会での発表を聞いて、当院に興味を持ってくれる学生が多くいらっしゃるのは、非常にありがたいことです。これからも積極的に情報発信し、魅力あふれる病院づくりをめざします。
2015年9月に竣工した神経内科病棟に続き、2017年12月末には本館の建て替え工事が完了する予定です。2018年春にはすべての診療科が新病棟での診療となります。新病棟での診療は、地域の医療ニーズにお応えし、患者さんのアメニティ向上にも貢献できるものと考えています。
2017年度の運営方針として、「至誠天に通ず」という孟子の言葉を職員に伝えました。まごころとたゆまない努力をもってことにあたれば好結果がもたらされる、という意味です。
地域のみなさまから信頼・信用される病院となるためには、たゆまぬ努力を積み重ねていくことが必要であると職員一人ひとりが意識し、これからも「安全・安心・信頼・断らない」を常に意識した病院づくりをめざします。
独立行政法人国立病院機構沖縄病院 院長
川畑 勉 先生の所属医療機関
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。