香川県高松市にあるKKR高松病院は、総合内科医と全内科領域の医師が連携し、全人的医療に取り組んでいる病院です。
特に総合内科に力を入れており、診療を受けられない患者さんをなくすべく「谷間のない医療」に努めています。のどの痛み、発熱といった、コモンディジーズをしっかりと診療しながらも、呼吸器や女性泌尿器科の分野で独自の強みを持つKKR高松病院の地域での役割や今後について、院長である森 由弘先生に伺いました。
当院は、1951年に国家公務員共済組合連合会によって設立され、70年以上にわたり高松市の地域医療に貢献してきました。現在は一般病床179床を有し、内科、外科、循環器内科、泌尿器科など19の診療科と人間ドックセンターを擁する病院となっています。
当院の強みは、総合内科医と各学会が認定した専門医が連携した総合的な内科診療体制です。専門領域の谷間に落ちて診療を受けられない患者さんをゼロにできるよう、診療科の境目を埋める横断的な体制を取っています。
女性泌尿器科にも力を入れており、女性の医師とスタッフによる対応で女性の患者さんに安心して診療を受けていただけるよう配慮しています。また、充実したチーム医療により、患者さん中心の質の高い医療を提供しています。
施設面では2014年に人間ドックセンターを増改築し、年間約7,000人の健康診断を実施。同年に臨床研究部を設置し、先進的な臨床研究や治験にも積極的に取り組んでいます。
研修医教育や人材育成にも力を入れ、地域医療を担う病院として発展を目指しています。2025年より基幹型の初期臨床研修病院として指定され、既に認定されている基幹型内科専門研修病院と合わせて充実した体制となっています。
当院は大病院のように人材や機能が豊富ではないからこそ、高度な専門領域に特化するのではなく“選択と集中”で当院にしかない強みをつくり出しています。
強みの1つが女性泌尿器科外来です。泌尿器科領域においては、治療により改善が望める場合でも、医師が男性であるといった理由から女性が受診や相談をためらってしまう場合があります。女性の方々が安心して自身のお悩みを相談することができるよう、当院では2016年より女性の医師とスタッフによる女性泌尿器科外来を開設しました。診察室に立ち入れるのも女性のみとし、プライバシーが保てるよう配慮しています。
そのほか、今後増加すると考えられる脂肪肝の診療実績が豊富であることも当院の強みです。健診で肝臓数値やコレステロール値が高いと分かっても、医師に知識がなければ指導の方法が分からないケースもあります。当院では、人間ドックセンターで年間約7,000名を診ており、詳細なデータが蓄積されています。肝硬変などのリスクがある脂肪肝なのか、それとも問題がないのか検査で確認でき、対処が必要な場合には適切な治療や指導が可能です。
日本の医療では専門分化が進んでいますが、当院では診療科横断的・臓器横断的な診療を行っています。当院の総合内科では広い視野を持って診療しており、初診の段階で診断がつけられない場合でも患者さんを拒むことはありません。患者さんが専門分野の谷間に入ってしまい、適切な治療が受けられない事態をなくすよう努めています。
そのためには、コモンディジーズ(患者数が多い病気)をしっかり診ることが非常に重要です。一般診療を行うだけでなく、なんらかの理由で急激に病状が悪化してしまう“急性増悪”も当院内で対応できるよう体制を整えています。たとえば人工呼吸器の管理をしっかり行うといった危機管理はもちろん、スタッフにも診療技術の向上を目指して教育を行っています。
総合内科の体制を充実させるため、研修医の育成にも注力しています。当院の初期研修では、幅広い診療科を診るよう指導します。そして裾野の広い専門医師を育てます。その指導を受けた研修医が後輩にその重要性を伝えてくれており、当院の研修医は増加傾向です。
当院では総合内科を充実させる取り組みを20年ほど行ってきました。高齢者救急では多臓器を診る必要があり、高齢化が進む我が国においては診療科横断的な診療が避けて通れなくなると考えています。今後ますます総合内科、総合診療科が果たす役割の重要性が高まってくるでしょう。
高松地区では2次救急医療を当院が担っています。患者さんの立場に立った救急医療を実践するために、医師とメディカルスタッフが共にフラットな関係でチーム医療を行っています。
方向性は医師が明示しますが、その周りを理学療法士や臨床工学技士などのメディカルスタッフが固め、それぞれの専門性を活かして多職種で救急医療に対応します。このような体制はお互いのレベルが高くなければ成り立たちませんが、当院ではこの体制を20年以上にわたり続けています。
当院では救急医療以外でも、医師とメディカルスタッフとの垣根をなくし風通しのよい体制でチーム医療を行っています。当院のメディカルスタッフは非常に優秀で、なかでも臨床工学技士と理学療法士の活躍は全国でも知られています。
たとえば、DAT(血液浄化アフェレーシスチーム)という血液浄化(透析)のためのチームでは、臨床工学技士が大きな役割を担っています。臨床工学技士は循環器領域でもCCT(心臓血管ケアチーム)に参加し、呼吸器領域では睡眠・呼吸センターで睡眠時無呼吸症候群の治療において活躍をしています。
また、呼吸器では理学療法士がRST(呼吸ケアサポートチーム)のチームリーダーとなり、患者さんのQOL向上のために長く奮闘してきました。
このようにさまざまな分野で臨床工学技士や理学療法士がチーム医療を率いているケースは、なかなか見られないのではないでしょうか。
当院は大学病院などと比較するとそこまで大きい病院ではないからこそ、専門性に特化しすぎることにこだわらず、総合的に広い目で診療をすることが大事であると考えています。これからも総合内科に力を入れ各分野の専門医と密に連携し、患者さんを谷間に落とさない体制を築き、困ったときに頼りになる病院となるべく、スタッフ一同これからも切磋琢磨していきます。
また、女性泌尿器科やチーム医療の実践などのオンリーワンの取り組みはさらに磨いていきたいとも考えています。
職員が働きたい・働いてよかったと思える、そして患者さんがかかりたい・かかってよかったと思える病院を目指して、当院だからこそできる医療を発展させてまいります。
様々な学会と連携し、日々の診療・研究に役立つ医師向けウェビナーを定期配信しています。
情報アップデートの場としてぜひご視聴ください。