院長インタビュー

名古屋掖済会病院の挑戦

名古屋掖済会病院の挑戦
河野 弘 先生

名古屋掖済会病院 前院長

河野 弘 先生

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この記事の最終更新は2018年11月09日です。

愛知県名古屋市にある名古屋掖済会病院は、1880年8月に設立された海員掖済会を母体とする病院です。同院は1948年11月の開院以来、海や港などで働く方とそのご家族の健康を支え続けてきました。今ではその対象を広く地域社会に拡大、救急医療やがん診療、地域医療の担い手として親しまれています。

同院開設の経緯と歴史、診療体制と特徴、独自の取り組みなどについて、河野弘先生に詳しくお話いただきました。

病院外観(名古屋掖済会病院よりご提供)

当院の母体である日本海員掖済会は、近代日本における郵便の父と呼ばれる前島密たちによって、1880年8月に設立されました。

日本は四方を海に囲まれた島国のため、古くより海に関わる仕事を生業とする方は多いです。交易手段の発達した現代においても、日本の輸出入業と経済活動は海運業が支えているといっても過言ではないでしょう。

掖済会では主要な海港のある8都市にそれぞれ病院を設置しました。掖済会という名前には、海運業の担い手である海員とそのご家族に対して「脇に手を添えて助ける」ため尽力したいという思いと願いが込められています。当院は掖済会の東海地方における拠点として1948年11月に開院、医療提供に努めてまいりました。

時代が下るにつれ、海員とそのご家族のみでなく病院のある周辺地域にも医療提供を開始するようになり、現在では救急医療と高度医療を当院の主要な事業に据えて医療提供に努めています。

カンファレンス(名古屋掖済会病院よりご提供)

当院では、船員や湾港関係者を対象にした健康診断、海上保安庁をはじめとする関係団体からの要請による洋上救急、航海中の船舶からの無線を介した医療相談の応需といった独自性の強い事業から、広く地域社会に向けて開かれた診療まで行っています。

特に救急医療、がん診療、緩和医療は当院を支える主要な診療です。また高齢化の進行に伴い地域医療も開始し、年を重ねても病気になっても住み慣れた環境で自分らしく生活する方へのサポート体制を構築しました。

地域医療を開始したことによって、喫緊の対応が求められる急性期医療から社会生活への復帰とそれを目指す方へのサポートまで、一連の対応が可能となりました。

救命センター全景(名古屋掖済会病院よりご提供)

愛知県より救命救急センターに指定されおり、3次救急医療と呼ばれる医療の担い手として、交通事故による高度外傷脳卒中心筋梗塞のように重症かつ緊急度の高い患者さんを、24時間365日体制によるER型救急で受け入れ処置したのち、それぞれ適した診療科へと引き継ぎしています。

救命センター内での処置(名古屋掖済会病院よりご提供)

厚生労働省から災害拠点病院の指定も受けており、救急医療をはじめとする診療のノウハウを災害医療でも活用しています。災害発生時には、傷病者の受け入れ拠点として診療を担うほか、特に重症な方をヘリコプターで移送と処置、各地から駆けつけた医療従事者への受け入れ対応、必要な医療物資のピストン輸送など、医療活動とそのサポートを行います。

特別な訓練を受けた職員で構成された災害派遣チームDMATも結成しており、国内外での災害発生時には現地に急行しています。

手術風景(名古屋掖済会病院よりご提供)

医療の飛躍的な進化によって、がんは治らない病気ではなくなりました。

国は「がん診療拠点病院」を各地に設置して、全国どの地域にいても均質ながん診療が受けられるような体制づくりを進めています。当院はがん診療に注力していたことが県に認められ、がん診療拠点病院と同等の機能を有する「愛知県がん診療拠点病院」に指定されました。

がん診療では、異常を早期発見するための検診、3大治療と呼ばれる外科療法(手術)・化学療法(抗がん剤治療)・放射線治療、そして緩和ケアによるサポートが重要です。当院では、患者さんとしっかり話し合って治療方針を決めたうえで、各診療科の医師と看護師・薬剤師などがそれぞれの専門性をいかしながら連携し合うチーム医療を行います。

緩和ケアに対して、「末期の患者さんに対して行うもの」というイメージを持たれている方も多いですが、本来は病気に伴う心身の苦痛を和らげて穏やかにすごせるようにするためのサポートです。当院では、外来と入院による緩和ケアを実施しています。

どの患者さんやご家族でも、がんと診断されたことに対するショック、病気そのものや治療に伴う心身への負担、療養生活や病気などに対する不安などにさらされます。医師・看護師・薬剤師による緩和ケアチームが皆さんの不安や悩みに耳を傾けて、一緒に解決策を探していきます。どのようなことでも遠慮なくご相談ください。

地域包括ケア病棟(名古屋掖済会病院よりご提供)

地域包括ケア病棟とは、症状や容態が変化しやすい急性期は脱したものの、退院や在宅復帰にはまだ早い方を受け入れる病棟のことです。主に、回復期に必要な継続的な治療とリハビリテーションなどによる訓練を行い、社会生活への復帰を目指します。またこの病棟は、一度は退院したものの体調の変化などの諸問題によって、一時的に入院が必要な方の受け皿となることもあります。

病気の早期発見と早期治療がその後の生活を大きく左右することもあり、健康診断や人間ドックに対する注目度と重要性は年々高まりを見せています。

当院では、「エクセレント検診」という名称の人間ドックを開始しました。日帰りもしくは宿泊による複数のコースを用意しており、異常が見つかった場合には当院で精密検査と診療をお受けいただけます。

使用する検査機器について、詳しくは次章の『名古屋掖済会病院で導入している診療機器』でご紹介します。

320列X線CTとは、造影剤を投与してX線撮影を行う検査機器です。

この機器を使用した検査では、心臓をはじめとする各部臓器の構造や血流の状態などを、より詳細に確認することができます。従来のカテーテル検査のように体内に器具を挿入することがないため、体にかかる負担を抑えることもできます。

3テスラMRIでは通常のMRIよりも画像が鮮明で、特に頭頸部などの細く入り組んだ部分の血管を描出可能です。

このような特性をいかして、当院では脳卒中をはじめとする脳血管障害の懸念がある方、これらのリスクファクターとなる糖尿病高血圧などを有している方には、特に検査をおすすめしています。

PET-CTを用いた検査(名古屋掖済会病院よりご提供)

ブドウ糖に放射性物質を標識した特殊な薬剤を注射した後、専用の装置で撮影・検出します。がん細胞はブドウ糖を大量に必要とする特性を利用して、薬剤の集積具合などから、がんなどの異常を探します。

リニアックとは、がん治療の1つである放射線治療で主に使用される機械で、病巣部に対して放射線を2~3分程度、ピンポイントに照射します。

リニアックが登場したことにより、がんの縮小、再発予防、疼痛緩和など、取り組む治療の選択肢がより広がりました。

2018年4月に健康保険適用が拡大したことが後押しとなり、患者さんに提供可能な治療の選択肢を増やすため、手術支援ロボット・ダヴィンチを2018年9月に導入し、11月より運用を開始しました。

術者が専用のモニターを見ながら腹部から挿入した鉗子を操作して行う手術で、通常の開腹手術よりも傷や出血量、術後の痛みが少ないのが特徴です。

一般的な航海では医師や看護師といった医療従事者は乗船しないため、船舶衛生管理者は衛生管理のみでなく船員の健康管理なども受け持つことになります。

そのため当院では、航海中の船内で衛生管理者として働く方を対象に、船舶衛生管理者講習会を毎年開催しています。ほかにも無線通信を介した医療相談、管理者を対象としたパンフレットの監修なども行っています。

病院の再開発がひと段落ついたことを受けて、2018年より病院主催の「エキサイまつり」が復活しました。模擬店やフリマーケットなど催事のほか、病院探索、手術体験や縫合体験ができるブラックジャックセミナーなども開催しました。

海で働く方とそのご家族への福利厚生のため誕生した当院は、今では地域からの求めにも応える、まさに皆さんの健康を守る中核的な存在へと成長しました。病院の再開発も進んでおり、今後さらなる機能充実を行っていく予定です。

さまざまな経験をしてきた当院ですが、病気に悩む方を医療の力で助けたいという思いは決して変わることはありません。

当院を訪れた患者さんやご家族、地域の方に「この病院に来てよかった」と思ってもらえる、親しまれ愛される病院として活躍できるよう、職員一同邁進してまいります。

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  • 名古屋掖済会病院 前院長

    日本外科学会 指導医・外科専門医日本消化器外科学会 消化器外科指導医・消化器外科専門医

    河野 弘 先生

    消化器外科、腹部救急を専門とし、多数の手術を行ってきた。また、後進の指導にも定評があり、多くの外科医を育成した。

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