京都市右京区南太秦にある京都民医連中央病院は、京都民医連の共同事業として1987年に京都市中京区に開設されました。2019年11月に現在の場所へ新築移転し、中京区と右京区を中心に多くの患者さんを受け入れています。急性期医療・専門的医療と在宅復帰支援を軸に地域医療を支えている同院の役割や今後ついて、院長の松原 為人先生に伺いました。
当院は1960年に右京診療所を開設したのが始まりで、京都民医連の共同事業として1987年に京都民医連中央病院に生まれ変わりました。当時は中京区の西部にありましたが、2018年5月に着工した新病院が2019年8月に完成し、同年11月から現在の右京区南太秦に新築移転して新たなスタートを切りました。病床数は一般病床が359床、療養病床が52床で、合計411床です。
当院がある太秦エリアは西に嵯峨野がある歴史のある街で、神社仏閣が多いことから多くの観光客が訪れています。人口は増加傾向が続いており、そうした地域的な特徴からも、充実した医療施設が求められていました。ただ、当院が移転してくるまで右京区は総合病院がなく、地域の皆さんは上京区の京都第二赤十字病院や西京区の京都桂病院へ赴いていたようです。リニューアルを機に当院が右京区にできたことで、病院へのアクセスがしやすくなったのではないかと思います。
救急では、京都市西部地域のニーズに応えるため、“断らない救急”をモットーに機能の充実を進め、HCU病棟(12床)を設けるなど質の高い治療が提供可能な体制を整えています。2022年度は救急車による搬送患者数が2,903台、救急部門の外来救急患者数が13,193名でした。
消化器内科と消化器外科、腫瘍内科が一体となり、良性から悪性まで消化器疾患を幅広く診断・治療するため、2019年4月に消化器センターを設立しました。これにより消化器疾患の予防や早期発見、診断といった標準的な医療の質が向上し、病気が判明した場合には一層効果的、効率的、タイムリーな治療が可能になりました。
積極的に取り入れているのが内視鏡的治療や腹腔鏡下手術など、患者さんの体の負担を考えた低侵襲治療です。新病院は内視鏡部門が広く快適になりましたので、最新の内視鏡医療機器で診療を気軽に受けていただけると思います。
また、予約なし*で内視鏡検査を受けられるのも当院の特徴です。内視鏡検査は外来で診療して検査を予約し、検査後に再度受診して検査結果を聞くという流れで受けるのが一般的で、その間に最低でも3日ほどかかってしまいます。そこで当院は“予約なしの胃カメラ検査・大腸カメラ検査”ができる体制を整え、早期診断・治療に取り組んでいます。
*当院は2023年8月より紹介受診重点医療機関として公表されています。かかりつけの医療機関からの紹介状が必要となりますのでご注意ください。
腎臓内科では、検尿異常(血尿や蛋白尿)から腎炎、保存期腎不全、透析導入、維持透析まで、どのステージの腎疾患にも対応しています。中でも当院の人工透析は歴史があり、1970年代から行っています。2019年のリニューアルに合わせて、透析ベッドを53床から65床に増床しましたので、患者さんの快適性はさらに向上したのではないでしょうか。腹膜透析(腹膜を使って行う透析で、自宅でできる透析療法)も遠隔操作でできるようになっています。
また、CKD(慢性腎臓病)の患者さんには、かかりつけ医の先生と一緒に診療を行う併診“CKD地域連携パス”を導入しました。ふだんはかかりつけ医の診察を受け、定期的に当院の腎臓内科に受診していただくことで、CKDの患者さんに対するきめ細やかなサポートができます。
循環器内科と連携して診療にあたる“腎循環器センター”も設立しました。“心腎連関”という言葉があるように、腎臓病をお持ちお方は心臓病を、心臓病をお持ちの方は腎臓病を合併しやすいという特徴があります。腎臓内科と循環器内科が密に連携しながら診療を行うことで、スピーディーで包括的な治療が可能になり、心臓病の予防にも効果が期待できます。
泌尿器科では、尿路(腎臓、尿管、膀胱、尿道)、内分泌臓器(副腎)、男性生殖器(前立腺、精巣、陰茎など)を担当しています。たとえば、急に強い尿意を催し、トイレに間に合わず尿を漏らしてしまうこともある“過活動膀胱”では、生活指導と薬物療法が主な治療法になります。それでも治らない場合には、装置を使用した干渉低周波療法(ウロマスター)や仙骨神経刺激療法、尿道から膀胱鏡を挿入して膀胱の筋肉に薬剤を注入するボツリヌス療法などを行います。一方、“膀胱がん”では、早期の場合は尿道から内視鏡を挿入して膀胱腫瘍を切除する経尿道的膀胱腫瘍切除術を、進行している場合には膀胱全摘除術を行います。経尿道的膀胱悪性腫瘍手術は、毎年50件前後*の手術を行っています。このように、泌尿器科は排尿障害など主にQOL(生活の質)に関わる病気から、悪性腫瘍などの命に関わる病気まで幅広く取り扱っているのが特徴です。
*経尿道的膀胱悪性腫瘍手術実績……2018年36件、2019年46件、2020年62件、2021年58件、2022年66件、2023年56件
当院の産婦人科の常勤医師は全て女性です。相談しやすい雰囲気を心がけていますので、婦人科の受診は敷居が高いと感じている方も受診しやすいのではないでしょうか。診療面では他科との連携を密にして、総合的な産婦人科医療を提供しています。
また、当院のお産は基本的に不必要な医療介入を行わず、助産師とともに自然分娩・母乳保育を目標にしています。授乳指導なども丁寧に行っており、妊娠時から退院後まで母乳育児を支援しています。そうした努力が認められ“赤ちゃんにやさしい病院 Baby Friendly Hospital(BFH)”としてWHO・UNICEFより認定も受けました。これからも全てのお母さんと赤ちゃんの笑顔を支援できるよう努めてまいります。
京都市では精神科のクリニックと協働で、アルコール障害の患者さんに対するアプローチを進めています。当院も取り組みに参加しており、アルコールで困っている多くの方々が受診されるようになりました。アルコール障害の患者さんは同時にさまざまな臓器障害を持たれています。総合病院として果たすべき役割を進めてゆきたいと思います。
積極的に取り組んでいるのは、地域の病院・診療所との連携です。太秦にリニューアルオープンし、地域の病院・診療所の皆さんから多くのご紹介をいただき、患者さんが大幅に増えました。今後もさらに多くの患者さんを受け入れていく方針ですが、その一方で、普段の薬の提供だけで済むような患者さんを、地域の病院・診療所に紹介する“逆紹介”も増えています。先述した“CKD地域連携パス”のように、かかりつけ医の先生方と一緒になって、患者さんの健康を守っていきたいと思います。
また、当院の方針をご理解いただいている地域の病院・診療所と共同で、平和で安心して住み続けられるまちを目指す非営利の住民運動組織“京都中・右京健康友の会”を運営しています。健康と福祉・介護のネットワークを広げ、地域の皆さんが主役になった健康づくりをサポートするのが目的で、当院からは医師を派遣して医療の話をさせてもらうこともあります。こうした取り組みを通して健康意識を高め、気軽に受診していただける環境が整うとうれしいです。
当院はすべての人々にとって“なくてははらない病院をめざす”をビジョンに掲げて運営しています。リニューアルオープンを機に、当院が持つ急性期医療機能と在宅復帰支援機能も強化しました。今後も地域の医療拠点としての役割をいっそう果たしていきたいと考えていますので、どうぞよろしくお願いいたします。
*病床数や診療科、提供する医療の内容等についての情報は全て2024年3月時点のものです。
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