子どもの便秘:医師が考える原因と対処法|症状辞典
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気になる・困っている場合には受診を検討しましょう。
佐久総合病院佐久医療センター 小児科 医長
坂本 昌彦 先生【監修】
便秘とは排便が順調に行われない症状のことで、排便の回数や排便量の減少がみられます。一般的には排便のない日が3日続くと便秘が疑われます。しかし、毎日排便がみられた場合でもごく少量のみで、お腹の張りなどの症状がある場合は便秘の可能性があるため注意が必要です。
子どもは消化管の機能が未熟であり、排便習慣も整っていないことが多いため、便秘になりやすいといえます。10人に1人程度は治療が必要な便秘であると考えられています。また、中には何らかの病気が原因で便秘となることもあるため注意が必要です。
これらの症状がみられた場合、原因としてどのようなものが考えられるのでしょうか。
子どもの便秘はよくみられる症状ですが、中には次のような病気によって排便がうまくいかなくなることがあります。
小腸や大腸などの病気によって便秘が引き起こされることがあります。子どもが発症しやすい病気には、以下のようなものが挙げられます。
便秘のために治療が必要な状態を“便秘症”と呼びます。一般的に、週に3回未満の排便や、5日以上排便がない場合を便秘と考えます。毎日排便があっても、排便時に痛みを伴ったり、肛門に傷ができて出血したりする場合も便秘に含まれます。このような便秘が続いて、本来体外に排出すべき十分な便を出せなくなる状態を便秘症としています。
主な原因には、食物繊維の少ない食事、水分不足、運動不足、ストレスなどがあります。そのほかの症状としては、お腹の張り、残便感、腹痛、食欲不振、イライラ感などが現れます。また、腸に便が過度にたまると、少量の便が頻繁に漏れ出ることがあります。そのため、小さなコロコロ状の便や軟らかい便が少量ずつ1日に何度も出る場合も、便秘症の疑いがあります。
普段は毎日排便がある子が一時的に便秘になることを“一過性便秘”といいます。この場合、治療を開始するとすぐに元の状態に戻ります。
慢性便秘症は、便秘症の症状が1~2か月以上継続する状態を指します。原因は通常の便秘症と同様ですが、長期化することで腸の機能低下や排便反射の鈍化(便意の鈍化)が起こり、症状が悪化する悪循環に陥りやすくなります。また、排便を我慢する習慣や、不適切なトイレトレーニング、生活環境の変化なども影響します。慢性便秘症では、便秘症と同様の症状が長期にわたって続きます。さらに進行すると、便がたまりすぎてお腹に便の塊ができるようになり、意志とは関係なく便を漏らす状態(遺糞症)を発症することもあります。
ヒルシュスプルング病は、腸の動きを制御する神経細胞が生まれつき欠如している病気です。別名で先天性巨大結腸症とも呼ばれます。腸が正常に動かないため、便の通りが悪くなり、重い便秘を引き起こします。症状が続くと、腸に便が詰まる腸閉塞を起こすことがあります。乳児期に発見されることが多く、便秘のほかにもお腹の張りや嘔吐がみられます。また、腸内容物の停滞により大腸が異常に拡張し、重症例では大腸穿孔(大腸に穴があく状態)を引き起こすケースもあります。
便意はさまざまな神経によって司られており、実際に排便する際には、いきむ力も必要となります。これらに異常がみられる場合にも便秘が引き起こされることがあり、主な病気としては以下のものが挙げられます。
二分脊椎とは、生まれつき脊椎(背骨)の形に異常がみられ、脊髄*が背骨の外に出てしまう病気です。便意は、便が直腸にたまったときに生じる刺激が脊髄神経を通って脳に伝わることで感じられます。しかし、二分脊椎のように脊髄神経に異常がある場合、この便意をうまく感じ取ることができません。これを膀胱直腸障害といい、便秘になったり自力で排尿できなかったりする原因となります。
脊髄:脊椎の中を通る神経の束で、脳の指令や体の感覚情報などを伝達するはたらきを持つ。
生まれつき、甲状腺ホルモンの分泌が低下したり、作られなかったりする病気です。
甲状腺ホルモンは全身の代謝を活発にするはたらきがあります。このホルモンの分泌が低下すると疲労感や悪寒、むくみ、抑うつ気分などの症状が現れるようになります。また、甲状腺ホルモンには腸の動きを促す作用もあるため、不足すると腸の動きが弱まり、便秘を引き起こします。現在では出生後のスクリーニング検査で先天性甲状腺機能低下症が発見されやすくなっていますが、発症している場合には生後1か月頃から便秘がみられる場合があります。
子どもの便秘はよくみられる症状であるため、特にほかの症状がない場合は軽く考えられがちです。しかし、中には思いもよらない病気が潜んでいることもあるため、見過ごすことのできない症状でもあります。
特に、強い腹痛を伴う場合、血便など便の性状に異常がある場合、頻回の嘔吐がみられる場合、強いお腹の張りがある場合などは、なるべく早く病院を受診するようにしましょう。
受診する診療科はかかりつけの小児科がよいです。ぐったりしているなど緊急性が高いと思われる症状がある場合には、休日・夜間を問わず救急外来を受診することがすすめられます。
また、受診の際には、いつから、どれくらい便秘が続いているのか、便秘以外の症状の有無、普段の排便習慣などについて詳しく医師に説明するようにしましょう。
子どもの便秘は日常生活上の習慣が原因になっていることがあります。主な原因とそれぞれの対処法には以下のものが挙げられます。
水分摂取量が少し減っただけですぐに便秘になるわけではありませんが、脱水傾向は便の硬さに影響を与えると考えられています。便が硬くなると、排便時に硬い便が肛門を傷つけたり、大きくなった便が肛門から排出できずに便秘を引き起こしたりすることがあります。
便が硬くなるのを防ぐには、脱水にならない程度に水分補給を心がけることが大切です。ただし、水分摂取だけで便秘を防げるわけではありません。脱水になるほどの水分不足状態でない限り、水分を多く摂っても便秘の解消にはつながらないという報告があります。
食物繊維は、野菜を始めとする多くの食品に含まれています。体内で消化できないため、便の量を増やし、腸を刺激して便を出しやすくします。また、腸内で水分を保持し、便を軟らかくするはたらきがあります。このため、食物繊維は便通改善効果があり、摂取量が不足すると便秘の原因となることがあります。
食物繊維を多く取るには、野菜やこんにゃく類、穀物などを積極的に取り入れるようにしましょう。ただし、注意が必要な点もあります。すでに便が詰まった状態で食物繊維の摂取量だけを急に増やすと、かえって腹痛が悪化することがあります。そのような場合には病院で便秘の治療も一緒に進める必要があります。
トイレトレーニングは、適切に行わないと便秘を悪化させることがあります。便秘がある場合には、まず治療を行い、規則的な排便習慣が確立してからトレーニングを開始するのがポイントです。また、失敗しても怒らないことが大切です。子どもはなぜ怒られたのか分からないことも多く、結果的に「叱られるから便をしない」という方向に向かうことがあるため注意が必要です。
上手にトイレトレーニングを進めるには、まず適切な環境づくりが大切です。トイレには、座った状態で子どもの足を安定して置けるフットサポートがあるとよいでしょう。
また、褒め方も重要です。排便がうまくいった事実ではなく、座っていられたという努力 を褒めることが子どもの自信につながります。食後の腸の動きは朝食後がもっとも活発です。早寝早起きの習慣をつけ、登園・登校前にトイレに座る習慣をつけるのがよいでしょう。ただし、朝の時間に余裕がない場合は、夜でも構いません。
日常生活上の習慣を改善しても便秘が解消しない場合は、便秘薬(下剤)の服用などが必要なケースもあり、中には思わぬ病気が原因となっていることもあります。軽く考えずに早めに病院を受診するようにしましょう。