便が漏れる:医師が考える原因と受診の目安|症状辞典

便が漏れる

受診の目安

夜間・休日を問わず受診

急ぎの受診、状況によっては救急車が必要です。
どうしても受診できない場合でも、翌朝には受診しましょう。

  • 意識がない、はっきりしない
  • 転んで強く尻もちをついたなど、腰の打撲に心当たりがある
  • 足にまひ、しびれがある

診療時間内に受診

翌日〜近日中の受診を検討しましょう。

  • 突然激しい便意を感じ、我慢することができない
  • 他の症状はないが、気がつくと便が漏れている

場合によって受診を検討

気になる・困っている場合には受診を検討しましょう。

  • 一時的なもので、その後繰り返さない
  • 出産後まだまもない

埼玉医科大学病院消化管内科 診療部長 教授

今枝 博之 先生【監修】

意思に反して便が漏れる便失禁、どのような原因が考えられるのでしょうか。

自らの意思に反して、液状または固形の便が漏れる症状を便失禁といい、気づかぬうちに漏れる、お腹に力が入ったときに漏れる、トイレに間に合わなくて漏れるなど、状況はさまざまです。

  • 転んでおしりを強く打ってから便が漏れるようになった
  • 最近、腹痛と下痢が続いて便が漏れてしまう。便に血が混じることもある
  • ずっと便秘と下痢を繰り返していて、突然くる激しい便意のときに漏れてしまう

このような場合に考えられる原因とは一体何なのでしょうか。

便が漏れるのは、肛門を締める肛門括約筋(こうもんかつやくきん)やそれを動かす神経の損傷、腸・肛門・体の病気など、さまざまな原因が考えられます。

便が漏れる原因のうち、肛門括約筋などの筋肉や神経が関わっているものとしては、主に以下のようなものがあります。

出産やけがによるもの

出産やけが(おしりを強く打った場合など)などによって、肛門の筋肉である肛門括約筋やそれを動かす神経が損傷すると、括約筋がうまく機能せずに便が漏れてしまう場合があります。

出産においては、出産後すぐに便失禁が起こることもありますが、あとになってから起こることも少なくありません。症状としては通常、損傷した部分に痛みが生じます。

手術の後遺症

の手術や直腸がんなどの手術では、病変を切除するなどの方法がとられます。このとき、肛門括約筋やそれを動かす神経が傷ついたり、病変とともに肛門括約筋を一部切除したりすると、術後の後遺症として便失禁が生じることがあります。

また、肛門括約筋や神経が傷つかなくても、術後に便失禁が起こる場合もあります。

脊椎損傷

脊椎とは、いわゆる首からお尻にかけて伸びる背骨のことで、頚椎・胸椎・腰椎・仙椎・尾骨で構成されています。このいずれかが折れたり、脱臼したものを脊椎損傷といい、損傷した部位に強い痛みと腫れが生じます。

脊椎だけでなく、脊髄(脊椎の中を通る神経)も損傷した場合には、しびれや麻痺などの神経症状、排尿障害排便障害(便秘・下痢・便が漏れる)などが起こることがあります。

認知機能障害や脳神経疾患

脳梗塞の後遺症やパーキンソン病認知症などによる排便にかかわる神経経路の障害が原因と考えられます。

直腸や肛門の病気が原因となって便失禁が起こることがあります。考えられる病気は以下の通りです。

直腸脱

直腸脱とは、直腸(大腸のうちで最も肛門に近い部位)が肛門の外に出てしまう病気です。

直腸が常に外に出た状態になると排便困難になったり、反対に便が漏れてしまったりすることがあります。

また、直腸から分泌される粘液によって、肛門周辺の皮膚や下着が汚れる場合もあります。

直腸脱
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直腸がん

直腸がんとは、直腸に発生した悪性腫瘍のことです。

初期には明らかな症状が現れないこともありますが、自覚できるものとしては便秘や下痢、便が細くなる、便に血が混じる、便が漏れるなど、主に排便に関する症状です。

直腸で出血を起こした場合には、貧血や動悸、疲労感、顔色が悪いなどの症状が現れる場合もあります。

直腸がん
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体の病気の一症状として、便失禁が起こることもあります。

糖尿病

糖尿病とは、血液中のブドウ糖の濃度(血糖値)が高い状態が続く病気です。

発症初期には無自覚・無症状であることがほとんどで、血糖値が非常に高くなると喉の乾き、頻尿、食欲の増加、疲れやすい、体重減少などの症状がみられるようになります。

また、神経が障害されることで、感覚が鈍くなる、発汗量が減る、勃起不全などのほか、排便障害(下痢・便秘・便が漏れる)が生じることもあります。

糖尿病
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過敏性腸症候群

過敏性腸症候群とは、腸の原因となる病気が見つからないにもかかわらず、便秘や下痢などの便通異常、それに伴う腹痛や腹部不快感が慢性的に続く病気のことをいいます。

便秘と下痢を繰り返すのが主な症状ですが、直腸が過敏になることで過剰な便意をもよおし、トイレまで我慢できずに便が漏れてしまうことがあります。

過敏性腸症候群
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急性腸炎

急性腸炎とは、細菌やウイルス感染などによって腸に急性炎症が起こる病気です。

主な症状は腹痛や吐き気・嘔吐、発熱、下痢などで、激しい下痢などの影響で便が漏れてしまう場合もあります。

腸炎
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炎症性腸疾患

潰瘍性大腸炎クローン病など、腸に炎症を起こす病気を総称して炎症性腸疾患といいます。

病気によって症状は異なりますが、共通するものとしては下痢と腹痛で、持続的な下痢などの影響から便が漏れてしまうこともあります。

ほかにも出血による血便貧血、体のだるさや食欲不振、体重減少、発熱などの全身症状が現れる場合もあります。

病気が原因となって便失禁が起こるだけでなく、加齢など、明らかな原因(病気)がないにもかかわらず便失禁が生じることもあります。

加齢

加齢によって排便にかかわる内肛門括約筋や骨盤底筋群の筋力が衰えると便が漏れやすくなるほか、ガスや尿も漏れやすくなります。

65歳以上の高齢者のうち便失禁の有症者は6~8%程度とされ、気づかぬうちに便が漏れることもあれば、咳などの影響でお腹に力が加わったときに漏れる、トイレに間に合わなくて漏れるなど、状況は人によって異なります。

特に、便が柔らかいときや下痢のときに便が漏れやすい傾向にあります。

特発性便失禁

明らかな原因がなく、便失禁を起こしてしまうものを特発性便失禁といいます。

何らかの原因による肛門括約筋の機能低下、直腸感覚の低下、肛門上皮の感覚低下などが関与していると考えられています。

便失禁が続く場合、腹痛や下痢など他の症状が伴っている場合には、一度内科や肛門科、大腸肛門科などを受診しましょう。

また、出産後や腸・肛門などの手術後に便失禁が生じている場合には、そのときにかかった病院に相談するのがよいでしょう。

受診の際には、便失禁が起こるようになった時期、頻度、きっかけ(出産やけが、手術をしたか)、便失禁が起こる状況(無意識に漏れる・お腹に力を入れたときに漏れる・トイレに間に合わないなど)、便の性状(硬い・柔らかい・下痢)、ほかの症状などを具体的に伝えましょう。

原因の自己判断/自己診断は控え、早期の受診を検討しましょう。