近年増えつつある腹腔鏡手術。傷跡が小さくてすむことや短期間の入院ですむことなどより、今後も、手術における割合は増加していくと考えられています。
今回は、開腹手術との違い、どんな時なら腹腔鏡で手術ができるのか、危なくないのかなど、腹腔鏡手術の基本的なことがらについて、婦人科の腹腔鏡手術の第一人者・堤 治先生に聞いてみました。
腹腔鏡とはお腹の中をみる内視鏡のことです。腹腔鏡手術とはこの腹腔鏡を用いた手術のことであり、腹部に3-10ミリ程度の穴を4、5カ所あけて、そこから筒状のスコープや器具を入れて操作を行います。
これに対して、従来から行われている開腹手術は、腹部を大きく切り開くことにより、様々な操作を行います。
従来から行われている開腹手術ではおなかを100-150ミリほど切開しなければなりませんでしたが、腹腔鏡手術ではおなかに3-10ミリほどの穴を開けるだけで済みます。 手術後のおなかの痛みの原因は、開腹したことによる傷の痛みがほとんどですので、おなかの傷が小さくてすむことにより手術後の痛みも小さくて済みます。また、早く回復出来るため、入院日数も少なくて済み、社会復帰もスムーズにできます。
腹腔鏡手術と開腹手術の入院日数比較
腹腔鏡手術開腹手術
子宮筋腫3-5日間8-10日間
卵巣腫瘍3-4日間8-9日間
一度手術をした箇所は、様々な理由により術後に癒着が起こってしまいがちです。癒着は腸閉塞や、また若年の方だと不妊症の原因にもなりうる大きな問題です。この点、腹腔鏡手術の場合は、臓器を空気にさらすことなく、より繊細な操作が出来るため、癒着が少なくてすむのです。
肉眼でおなかの中を直接観察し、操作することの出来る開腹手術の方がより安全な場合もあります。例えば、異所性(子宮外)妊娠の卵管破裂などの緊急時、大量の出血を起こしてしまった際には、腹腔鏡手術では対処しきれないことがあります。
また一部施設の例外はありますが、現段階では悪性腫瘍の手術のように「腫瘍を残さず取りきる」手術は開腹手術が好まれる傾向にあります。一方、良性腫瘍で、とくに腫瘍の大きさが小さい場合には腹腔鏡手術が好まれる傾向にあります。
また産婦人科医は昔から、患者さんに「腹腔鏡手術で手術を開始した場合でも、癒着がひどい場合や予期せぬ合併症が発見された場合、開腹手術に切り替えなければならない場合もある」と説明してきました。しかし 私自身は30年間そうした事態に至ったことはめったにありません。 手術中の開腹手術への移行は、それほど多いことではないのではないでしょうか。
最後に、一般の産婦人科で腹腔鏡手術がすすめられる病気と、開腹手術をすすめられる病気についてまとめておきます。
腹腔鏡手術のほうが良いとされる病気卵巣嚢腫、単発の筋腫(500g以下まで、あまり大きいとやはり大変)
腹腔鏡手術だと難しいとされている病気開腹が良い場合
卵巣がん、子宮がん
いずれにしても、リスクが伴わない手術はありません。事前に今回紹介したメリット・デメリットを医師とよく話し合い、同意の上で手術に向かうことが大切です。
山王病院(東京都) 名誉病院長
堤 治 先生の所属医療機関
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