インタビュー

小児科医は子どもの総合医

小児科医は子どもの総合医
五十嵐 隆 先生

国立研究開発法人国立成育医療研究センター 理事長

五十嵐 隆 先生

この記事の最終更新は2015年04月29日です。

すべての子どもの病気・健康をみるのが小児科医の仕事です。一見当たり前のことのようですが、専門によって分かれている多くの診療科と比べると、小児科医には幅広い知識と、それに対応する能力が必要とされる仕事です。小児科医のあるべき姿とこれからについて、国立成育医療研究センター理事長、日本小児科学会会長の五十嵐隆先生にお話をうかがいました。

小児科医はどのような専門分野の診療を中心として活動する場合でも、あらゆる子どもの問題に適切に初期対応できる技量を持つことが小児科専門医の基本であると考えています。

2017年に刷新される専門医認定制度で、専門医として総合診療医が新たに認定される運びとなりました。しかしながら、計画されている小児科研修期間は3ヶ月間と短く、総合診療医は従来の小児科専門医とは性質の異なる医師となることが予測されます。

日本小児科学会はこれまで優れた小児科専門医制度を運営してきました。小児科専門医は小児科のすべての専門分野(subspecialty)の分野での一定の知識と技能だけでなく、発達の評価、栄養指導、予防接種、こころの問題などに関する知識と技能を有することも必要と考え、研修制度を発展させてきました。

とはいえ、これまでの日本小児科学会の教育と研修も、健診の標準化、発達の評価法、栄養指導、予防接種の知識、こころの問題への対応などについては必ずしも十分ではありませんでした。また、日本小児科学会が成人になるまで子どもの健康問題に対応すると宣言はしたものの、思春期や青年の医療・保健に造詣の深い小児科医はまだまだ少ないのが実情です。

さらに、わが国の小児科医の活動は主として疾病指向(disease oriented)でした。それは病気の患者さんが多かったからです。しかしながら、いわゆる健康な子ども(well-child)であっても様々な悩みや健康問題を抱えています。今後、わが国の小児科医はwell-child and disease orientedにシフトしていくこと、つまり健康な子どもも、子どもの病気も、バランスよくみることができるようになることが必要と考えます。
 
現在、日本小児科学会は健診、食育、予防接種、こころの問題、思春期医療、在宅医療などに関する講習会に力を入れて活動しています。また、思春期の成長過程(transition)の問題に対応すべく、慢性疾患を有する子どもが成人後にどのような医療的問題が生じるかについて、検討を始めています。
 
米国では、21歳になるまで、子どもはかかりつけ医のもとで健康チェックを受けることが義務づけられています。さらに、相談や診療に要した時間に応じて、医療費が支払われる体制も構築されています。思春期の子どもや青年にとって、年1回ではあっても、こころと体の健康問題を個別に相談できることは大変重要な機会になります。わが国の健診制度が今後米国の制度から学ぶべきことが多々あると考えています。