インタビュー

「声がかすれる」―機能性発声障害とは? そのさまざまな種類について

「声がかすれる」―機能性発声障害とは? そのさまざまな種類について
渡邊 雄介 先生

国際医療福祉大学 教授、山王病院/国際医療福祉大学 東京ボイスセンター長

渡邊 雄介 先生

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この記事の最終更新は2015年07月09日です。

「声がかすれる」という経験は、誰にでも起こることです。特に歌手など、声を仕事にしている方にとって、声は大切な器官です。また、歌手のようなプロフェッショナルに限らず、私たち一般人でも、声を思い通りに出せないことは大変なストレスとなります。言いたいことをスムーズに伝えられないだけでなく、言葉に意思を乗せて伝えることが出来ないのですから当たり前です。また、大人の患者さんに限らず、子どもの患者さんにとっては、言葉の正常な発達にも関わります。

声がかすれる原因となる病気には「声帯ポリープ」や「声帯結節」などがあります。しかし、実はこれらの器質的な病変(ファイバースコープや喉頭鏡でも肉眼的に確認できる病変)がなくても、声がかすれてしまうことはあります。このことを「機能性発声障害」と言います。これはどのようなものなのでしょうか。発声障害において日本でトップの患者数を診察されている山王ボイスセンター長の渡邊雄介先生にお話をお聞きしました。

機能性発声障害の患者さんの割合は、全発声障害の患者さんの中の8%です。
機能性発声障害の種類としては様々なものはあるのですが、代表的なものとして“心因性失声症”、“音声衰弱症”、“変声障害”、“仮声帯発声”の4つがあげられます。では、それぞれについて詳しく見ていきましょう。

この障害が起こると、ささやき声や息もれのような声になってしまいます。声帯の運動に問題があるわけでもなく、またその他の病変もないため、重篤な障害ではありませんが、精神的ショックをきっかけに発症します。なかでも失恋や嫁姑問題で悩む女性に見られます。馴染みが深いところでいえば、皇后美智子様がかかられたことで有名です。

声が弱々しくなったり、ふるえ声になったりすることを言います。音声衰弱症の患者さんは、低音で割れるような声になります。この疾患は歌手やお坊さんなど、声を専門的に使う人が多くかかる疾患です。具体的な人物としては、映画「カサブランカ」で有名なハンフリー・ボガートさんやローレン・バコールさんのような少しかすれた声を想像してもらえたら良いと思います。実際海外の論文では ボガート・バコール症候群という名前も付けられたりしています。

音声衰弱症の原因は、はっきりしていませんが、声帯の使いすぎや誤使用により筋肉が緩むことによってなると考えられています。ファイバースコープや喉頭鏡では病変は見られないため、問診と実際に声を出してもらうことによって診断されます。

変声障害は一般には変声期を過ぎた男性の声が低い声ではなくいわゆる、「うら声発声」になってしまうことを言います。別名「声変わり障害」と呼ばれます。わかりやすい例としては「安田大サーカス」のクロちゃんの声を想像して頂ければ良いでしょう。しかしながら男性ばかり注目されがちですが、女性にも出現することがあります。

男性の場合、第二次性徴が終わると、のど仏が出て、声帯が伸びることによりその分だけ低い声へと変化していきます。しかし、変声障害の場合、声帯が伸びているにも関わらず声の誤使用により高い声で話してしまいます。
女性の場合も、通常、体の成長に伴い声も低くなっていくものですが、やはり声の誤使用によって高いまま話をされる方がいます。

声帯には低い声を出す筋肉と高い声を出す筋肉があります。

声帯の筋肉の仕組み
声帯の筋肉の仕組み

高い声を出す筋肉は「輪状甲状筋」と呼ばれ、この筋肉が優位に働いてしまうことにより高い声となります。輪状甲状筋が優位に働く理由として、間違った声の使い方をしていたことが原因とされています。

また、患者さんの精神面の問題がある場合もあります。具体的には「のど仏が出ていない時の自分のほうが格好良かった」「学級委員をやっていた頃の自分が忘れられない」など少し精神的な悩みを抱えていたり、過去の栄光が忘れられず声変わりをした自分を受け入れることが出来ない患者さんに比較的多く見受けられる疾患です。

粗ぞう性の強い声が特徴です。例としては、アメ横の物売りのおじさんのような声を想像してもらえれば良いでしょう。
これは声帯そのものの問題ではなく、その上部構造である仮性帯が過内転することによることで起こります。

声帯付近の縦断面図
声帯付近の縦断面図

仮声帯発声は、発声時にのどを詰めて発声してしまう癖から仮声帯に強い摩擦が生じ、本来の声帯振動に仮声帯帯部分の呼気の乱れによる音声障害が生じます。

機能性発声障害の検査では、患者さんの声の特徴やその原因をつかみます。声帯をファイバースコープ(内臓などを見るのに用いられる光学器械)などで観察することによって、器質的な病変がないかを確認することがメインの検査となります。
ファイバースコープでしっかりと確認できなかった場合に用いられる検査としては以下のようなものがあります。

  • ①ストロボスコープ

ファイバースコープではっきり病変がわからない場合は、声帯の振動を細かく見ることのできる「ストロボスコープ」という機器を用いる場合があります。ストロボスコープであれば、成人男性だと1秒間に100回と言われる声帯の振動をも確認することが出来ます。

  • ②音響分析検査

シンプルな検査で、声の質を音響的に分析します。

  • ③発声機能検査

音は空気の振動ですが、この空気の振動をキャッチする検査がこの発声希望検査です。声帯振動時に使用する空気の量(平均呼気流量)がどの程度あるのか音圧はどれほどあるか などを検査します。

  • ④声に関する質問表(Voice Handy Index)

世界で標準化されている声に関する質問表です。“機能”、“身体”、“感情”の3つの視点から声を評価することが出来ます。この質問表は、機能性発声障害に関わらず、全ての発声障害で用いられます。
このアンケートにより声嗄れを点数によって評価することが出来ます。具体的には、120点満点のうち15点以上の方はほぼ病気の状態であると診断されます。

記事1:「声がかすれる」―機能性発声障害とは? そのさまざまな種類について
記事2:「声がかすれる」―機能性発声障害の治療法と予防法とは? 基本的には「切らない治療」

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