おなかの中に赤ちゃんの拍動が見えて妊娠したことがわかると、うれしさの他にいろいろな不安も感じるかもしれません。この記事では、そんな妊娠初期の超音波による診断で、胎児についての何をどこまで見ることができるのかご説明します。山王バースセンター産婦人科部長の深田幸仁先生にお話をうかがいました。
妊娠したことがわかると、まず最初に決めなければならないことがふたつあります。分娩予定日と胎児数です。このふたつを決定してからより具体的な評価を行います。
分娩予定日は、妊娠週数を決定するとても重要な情報です。分娩予定日がわからないと胎児の成長や状態を週数基準と比較することができないため、経過が順調かどうか判定することができないからです。胎児数も同様に、妊娠管理を考えるにあたりとても重要です。これは双胎(ふたご)以上の妊娠は単胎妊娠に比べて確実にリスクが高い妊娠で、特別な管理が必要だからです。
次に、超音波で赤ちゃんの形をチェックしていきます。評価は大きく分けて2つの観点から行います。
以下、各項目についてチェックしていきます。
妊娠初期の赤ちゃんの「かたち」のチェックは、次の観点から行われます。
大きさは正常か? 羊水はきちんとあるか?
頭のチェック
・頭蓋骨はきれいに見えるか?
・脳がきれいに育っているか? 脳内に異常な構造がないか?
脊柱や四肢のチェック
・背骨がゆがまずにきれいにみえているか?
・手足の欠損はないか?
顔をチェック
・眼や鼻に大きな異常はないか?
体内の臓器がきちんと体内におさまっているか?
※心臓、腎臓など臓器の「形」を細かくみていくのは、妊娠中期以降になってからとなることが多いです。
妊娠初期の赤ちゃんは小さいので、それでもわかる形の異常となるとそれなりに大きな異常が多い傾向があります。以下のような例が挙げられます。
診断された疾患によってその後の管理方針は異なります。ご両親の希望によっては、疾患の診断の後に妊娠中絶が選択されることもあります。
構造の異常の中でも染色体異常のリスクと関連しているものが挙げられます。
その中でもよく知られているものがNT(Nuchal Translucency)の肥厚の異常(一般的に3mm以上)でしょう。
超音波による染色体異常のリスク評価はふたつの観点から行われます。それぞれについて、以下に説明します。
(1)ソフトマーカーから評価する(「NT」はソフトマーカーのひとつです)
ソフトマーカーを簡単に説明すると「形の異常はあるが治療の必要はないもの」となります。
たとえば、NT(Nuchal Translucency)というのは妊娠初期に胎児の首のうしろにむくみのように見えるところで、これが厚かったとしても治療の必要はありません(自然消失します)。ただ、この部分が厚いことが染色体異常(と心疾患)の発生リスクと関連しているということが知られているためにNTの肥厚を評価するわけです。
そのほかに知られているソフトマーカーとしては「鼻骨欠損」「耳の位置の異常」「静脈管(血管のひとつです)の血流異常」などが挙げられます。
(2)染色体異常と関連のある病的な構造異常から評価する。
病的な構造異常は、言い換えると「治療の必要があるかたちの異常」ということになります。病的な構造異常の中には染色体異常との関連があるとされるものがあります。妊娠初期にわかるものとそうでないものがありますが、以下に例を挙げます。
染色体異常のリスク評価について注意しないといけない点はふたつあります。
ひとつめは、これはあくまで「リスク」の評価であり、確定診断にはなりえないということです。確定診断のためには羊水検査が必要です。
ふたつめは、これら染色体異常のリスク評価の検査は、一般的に通常の妊婦健診では行われていないことです。検査に時間がかかり、また診断になれていないと行うことも難しいからです。このため希望がある方に対して別枠で行われていることが大半です。気になる方は事前に相談をするとよいでしょう。
山王バースセンター 産婦人科 部長
山王バースセンター 産婦人科 部長
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医日本超音波医学会 超音波専門医・超音波指導医日本周産期・新生児医学会 周産期専門医(共通)日本人類遺伝学会 臨床遺伝専門医
山王バースセンター産婦人科部長。これまでに多くの総合周産期センターにて勤務した経験を持ち、そこで数多くのさまざまなハイリスク妊娠・分娩例の診療に携わり、研鑽を積む。また、超音波機器を使用しての出生前診断 (先天奇形・染色体異常・NTなど) の臨床研究も数多く手がけている。これらの広い経験と深い知見を生かし、分娩する妊婦に安全かつクオリティの高いオーダーメイドの医療ができるよう取り組んでいる。
深田 幸仁 先生の所属医療機関
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