赤ちゃんの胎動を感じ、日々おなかも大きくなっていく妊娠中期以降、お母さんたちは幸せを実感するとともに、いろいろな不安もより具体的になっていくことでしょう。そんな時期に行う超音波を用いた診断では、赤ちゃんのどんなところをみていくのでしょうか。引き続き、山王バースセンター産婦人科部長の深田幸仁先生にご説明いただきました。
妊娠初期スクリーニング超音波では、予定日を決めた後に病的な構造異常がないかを確認し、希望に応じて染色体異常のリスク評価も行うことができる点を説明しました(参照:「妊娠初期の超音波による出生前診断」)。妊娠中期・後期の超音波検査でも、評価する点は基本的に同じです。ただ、見るポイントが初期とは異なります。
まず病的な構造異常の評価に関してですが、妊娠中期以降は胎児臓器の観察ができるようになってくるため、妊娠初期にはわからなかったような構造異常が診断できるようになります。
そして、染色体異常のリスク評価に関してですが、妊娠中期以降にはあまりソフトマーカーによる染色体異常のリスク評価は行いません。一方で、染色体異常と関連のある病的な構造異常の中には、妊娠中期以降になってはじめて診断できる異常も存在します。
赤ちゃんの全身を系統的にみるという点では妊娠中期と後期の超音波検査は同じです。 ただ、週数の違いにより、若干注目する箇所が変わってきます。以下に詳しく述べます。
心臓から出てくる血管の異常や小さな口唇口蓋裂など、妊娠中期には小さくて見えない構造物が妊娠後期になると診断できるようになります。
水腎症や腸管の異常など、妊娠中期に問題がないことがわかっていた場所に妊娠後半になって新しく問題が出現することがあります。そのため、こういった新しい問題が出現していないかを妊娠後期には再度チェックしなければなりません。
心臓病や横隔膜ヘルニアなどの病気では、診断されてから生まれるまでに時間があると所見が変化することがあります。その場合は治療方針が変わる場合もあるので、妊娠中期に診断された病気は妊娠後期や生まれる直前に再評価をすることが多いです。
逆に体内にある小さな嚢胞(ふくろ)などが自然に消えてしまうこともあります。
※実際にどのような手順で行われているかは、施設や検査者によって異なります。このため、ここに挙げる手順もあくまで一例として理解してください。
A 赤ちゃんの向き、大きさ、羊水量をみる。
赤ちゃんの向きは妊娠中期ではよく変わるためあまり重要ではありませんが、妊娠32~33週ころに骨盤位(逆子)や横位になっている場合には帝王切開になる可能性が高いです。大きさと羊水量は「週数基準内」に入っていることが重要です。
大きさと羊水量については、別記事をご参照ください(参照:「胎児超音波検査で何がわかる? 検査の基礎知識」)
B 赤ちゃんの体を順番にみていく。
各部分をどのような順番でみていくかは、検査者によって異なります。実際の順番で述べると混乱するので、この記事では頭から(体の上から順に)説明します。
頭
顔面
脊柱
四肢
※補足説明
手足の異常は、生まれて実際に見ればすぐにわかります。一方、超音波検査で指のこまかい部分を評価することにはかなり時間がかかります。そのため、地域や施設によっては(特に産婦人科医の不足している地域では)、手足の詳細な評価は省略されていることがあります。
胸部
心臓
腹部
(※胃は左側、肝臓は右側、腎臓がふたつ、膀胱がしっかり見える、など)
このなかでも心臓の異常や横隔膜ヘルニアなどは生まれてからすぐに対処が必要な症状であり、特に注意が必要です。
現在は、赤ちゃんが産まれるまでにたくさんの選択肢があります。妊婦さんご本人もそのご家族の方も、よく話し合って考え、出生前診断に向き合って頂ければと思います。私たち医師も、患者さんに取って最良の選択ができるよう、最善を尽くして参ります。
山王バースセンター 産婦人科 部長
山王バースセンター 産婦人科 部長
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医日本超音波医学会 超音波専門医・超音波指導医日本周産期・新生児医学会 周産期専門医(共通)日本人類遺伝学会 臨床遺伝専門医
山王バースセンター産婦人科部長。これまでに多くの総合周産期センターにて勤務した経験を持ち、そこで数多くのさまざまなハイリスク妊娠・分娩例の診療に携わり、研鑽を積む。また、超音波機器を使用しての出生前診断 (先天奇形・染色体異常・NTなど) の臨床研究も数多く手がけている。これらの広い経験と深い知見を生かし、分娩する妊婦に安全かつクオリティの高いオーダーメイドの医療ができるよう取り組んでいる。
深田 幸仁 先生の所属医療機関
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