インタビュー

頸椎後縦靭帯骨化症の手術

頸椎後縦靭帯骨化症の手術
國府田 正雄 先生

筑波大学 医学医療系整形外科 准教授

國府田 正雄 先生

目次
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この記事の最終更新は2015年08月22日です。

椎体骨の後ろには後縦靭帯という靭帯があります。その靭帯が骨となり、固くなってしまう難病があります。靭帯が骨になると、脊柱管が狭くなります。それにより、頸椎症性脊髄症と同様にさまざまな神経症状が出現します。
頸椎後縦靭帯骨化症(OPLL)ではどのような手術をするのでしょうか。筑波大学医学医療系整形外科 准教授の國府田正雄先生にお話を伺いました。

保存的治療(手術などを行わない治療)としては、頸椎症性脊髄症のときと同様に頸椎カラーや痛み止めの薬を用います。手術を選択するときは、やはり機能が落ちて生活に支障があるときです。また、しびれの症状は治りにくいためそれだけではあまり手術療法は行いません。これらは頸椎症性脊髄症と類似しています。

頚椎後縦靭帯骨化症(OPLL)
頸椎後縦靭帯骨化症(OPLL)

頸椎症性脊髄症と同様に手術をします。
基本的な手術の考え方は除圧と固定です。除圧とは脊髄への圧迫を取り去っていくことをいいます。圧迫が取り去られると神経症状が改善されます。また固定とは不安定な椎間を安定させることです。この2つにより、頸椎後縦靭帯骨化症を治療します。

現在ではこれがもっともポピュラーな手術です。実際の手術としては、「椎弓」という部分を開いていき、脊柱管を広げます。これにより、脊髄の圧迫を取り除いていきます。開いた椎弓には、以下に示す2種類の方法で人工骨または本人の骨(棘突起)(きょくとっき)などを入れます。

  • 縦割(じゅうかつ)式:椎弓の真ん中を開く
  • 片開き式:椎弓の端を開く

筑波大学附属病院では片開き式を行っています。この2つの手術成績にはほとんど差がありませんので、施設によってどちらかが選択されます。

椎弓形成術の特徴

あまりに巨大な骨化でなければこの手術で十分に対処することができます。この手術の特徴は手技的に比較的に容易(手術としてそこまで難しくない)というのもメリットです。

椎弓形成術の合併症

どのような手術でも起こる一般的な合併症としては感染・出血などが挙げられますが、それらを除いた代表的な合併症としては以下の2つがあります。

①頸の後ろ側の筋肉が血行障害を起こす
椎弓を切るためには頸の後ろ側の筋肉を切る必要があります。そのため筋肉が痛んだり、頸の痛みやこりが出やすくなります。これらは比較的起こりやすい合併症です。ただし、手術の技術が進歩したことにより、少なくなりつつあります。

②第5頸椎神経の障害
第5頸椎神経は肘の屈曲(くっきょく)(折れ曲がること)と腕の挙上(きょじょう)(持ち上げること)に必要な神経です。これの障害により腕が上がらなくなることが5~10%程度の可能性で起こります。ただし、自然回復する場合が多くを占めます。

これもよく行われる手術です。その名の通り、頸の前側から椎体を削る手術です。椎体を削ることにより神経の圧迫を取り除いていきます。圧を取り除いた後、人工骨や金属製のプレートで椎体を固定します。

前方除圧固定術の特徴

1の椎弓形成術の対象とならない患者さんに用いられます。つまり、後縦靱帯の骨化がしっかりとあるため、直接骨を削っていかないと対応できないケースです。
前からのアプローチなので、筋肉を切らなくてもよいのがメリットです。気管と頸動脈を経て頸椎にアプローチしていきます。切る範囲は狭いので出血量も少なくなります。一方で気管や頸動脈などがあるため、先述したように大きすぎるものを削ることはできません。この前方除圧固定術と3の後方除圧固定術のどちらを用いるかは施設により異なります。

前方除圧固定術の合併症

削り終わった後に「隣接椎間障害」が出ることがあります。これは、手術をした椎間板の隣の椎間板に障害が出る可能性があるということです。気管や食道、頸動脈などの重要な臓器の損傷も起こることがありますが、非常に稀です。気管が手術後に腫れて呼吸器系のトラブルを起こすこともありますが、これも頻度は少ないです。また、声帯における「反回神経麻痺」という症状が一時的に起こり、嗄声(させい)(しわがれ声のこと)になることがありますがこれも基本的には自然回復します。

2の前方除圧固定術か3の後方除圧固定術のどちらが用いられるかは施設により異なります。こちらの手術ではまず、椎弓形成と同じように頸の後ろ側から椎弓を開いていきます。それにより神経の圧迫を取り除いていきます。圧を取り除いた後に、スクリュー(医療用のねじの一種)を用いて椎体を固定していきます。

後方除圧固定術の特徴

この手術のイメージとしては椎弓形成に加えて、椎体をスクリューで固定していくというものです。椎弓形成だけでは対応できない方にも対応できるということです。つまり、椎体が不安定な方にも対応できるということです。

後方除圧固定術の合併症

基本的には椎弓形成術と同じです。しかし、筋肉を切る量は多くなるため筋肉痛が出る頻度が高くなり、感染や出血も起こりやすくなります。

施設ごとにデータが異なりますが、概ね症状の40~60%程度、おおよそ症状の半分程度が良くなると考えられます(半分の方がよくなる、という意味ではなく症状の半分程度が良くなる、という意味です)。神経症状はばらつきがかなりあるため、なかなか点数化したり、きちんと評価をしていくことが難しいという現状があります。
頸椎後縦靭帯骨化症は難病であり、一気に良くするというよりは進行防止のための手術という意味合いも強くなります。つまり、よくするための手術というよりは悪化するのを防ぐための手術です。

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