「緩和ケア」という言葉から、みなさんは何を思い浮かべるでしょうか。3人に1人ががんで亡くなる時代を迎え、緩和ケアの役割は従来から大きく変わってきています。横浜市立大学大学院医学研究科 がん総合医科学主任教授の市川靖史先生に、これからの緩和ケアをテーマにお話をうかがいました。
緩和ケアとは、がん患者やその家族のみなさんの心とからだの苦痛を和らげ、自分らしい生活を送れることを目指すケアです。がん治療と同時に始めることができます。緩和ケアの専門チームが心とからだの痛みを和らげ、吐き気・だるさなど、さまざまな症状に対応します。また、気分の落ち込みや精神的なつらさへのサポートなど、患者さんご本人だけでなくご家族の相談にも対応いたします。
ちなみに、緩和ケアは医療保険の適応になっています。
これまでは病気が進行して完治が見込めない―手の施しようがないという段階になったときに「緩和ケア」について考えはじめることが多かったのではないでしょうか。
しかし、現在推進されている緩和ケアの考え方では、がん治療の初期の段階から、診断・治療・在宅医療などさまざまな場面で切れ目なくサポートしていくことが求められています。たとえば、がんと診断されたそのときから、社会的差別や経済的な不安など、患者さんはさまざまな問題に直面します。それらを一緒に考えていくことから緩和ケアははじまっています。
肺がんの治療と並行して早いうちから緩和ケアを受けていた患者さんは、緩和ケアを受けなかった場合に比べて平均余命が長くなったというデータもあります。平均余命はあくまでもひとつの指標に過ぎませんが、緩和ケアのあり方を考える上で重要なエビデンス(科学的根拠)であるととらえています。
緩和ケアは専門の施設で行うものというイメージが強いかもしれません。しかし、治療を中心とする一般の医療機関の中にも緩和ケア専門の部署やチームを持っているところがあります。痛みのコントロールや病気に対する不安を解消するカウンセリングなどを受けることができます。
また、ご自宅で治療を続けるご高齢の方や一人暮らしの患者さんもいらっしゃいます。このような場合には往診や訪問看護で緩和ケアを受けることも可能です。また担当医師と地域のソーシャルワーカー・ケアマネージャー・訪問看護師らが連携し、自宅で過ごされる患者さんをサポートしていきます。
これらのどこででも、緩和ケアを受けることは可能です。そしていずれの場合でも患者さんをもっとも身近でケアできる存在、それは家族のみなさんです。
医師の役割は病気を治すことだけではありません。医師は治療の過程で患者さんの痛みにきちんと対処する責任があります。痛みをコントロールするためには医療用麻薬が使われます。モルヒネという薬の名前はみなさんも聞いたことがあると思いますが、これは医療用麻薬の代表的なものです。
医療用麻薬には「だんだん効かなくなる」「依存症になる」といったイメージがあるのではないでしょうか。医療用麻薬は痛みのある方に適切な場面で使用すれば安全で効果的な薬剤ですが、欧米では必要のない状況でも使い続けたり、本来の目的から逸脱した使い方がされている部分があるのも事実です。医療用麻薬の常習性に関しても、エビデンスに基づいたうえで、日本人の体質やメンタリティに合った疼痛ケアを考える必要があります。
「この痛みに耐えて頑張りたい」「麻薬は使いたくない」という気持ちがもし患者さんにあるとしたら、それを否定してまでモルヒネを使うことは、はたして患者さんが自分らしく生きることにつながるのか―緩和医療に携わる医師やスタッフはそういったことも念頭に置きながら、患者さんの状態を評価し、最善の治療を共に考えていくべきではないでしょうか。
市川靖史先生が最新のがん治療情報を分かりやすく発信している2020年度横浜市民講座『がん放射線治療最前線 in KANAGAWA』もぜひご覧ください!
横浜市立大学大学院 医学研究科がん総合医科学主任教授、横浜市立大学附属病院 臨床腫瘍科・乳腺外科 部長
横浜市立大学大学院 医学研究科がん総合医科学主任教授、横浜市立大学附属病院 臨床腫瘍科・乳腺外科 部長
日本外科学会 外科認定医・外科専門医・指導医日本消化器外科学会 消化器外科認定医・消化器外科専門医・消化器外科指導医日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡指導医日本臨床腫瘍学会 暫定指導医・がん薬物療法専門医日本癌治療学会 会員日本がん治療認定医機構 がん治療認定医
北海道大学医学部を卒業後、沖縄県立中部病院を経て現在は横浜市立大学がん総合医科学講座で主任教授を務める。乳がん、消化器がんなど悪性腫瘍の薬物療法を中心としたがん治療全般を専門とする。治験や臨床研究に企画・立案から取り組むとともに、がん治療のもうひとつの柱である緩和医療の充実にも力を注いでいる。
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