インタビュー

フォンタン手術とは。ひとつの心室に対する手術

フォンタン手術とは。ひとつの心室に対する手術
根本 慎太郎 先生

大阪医科大学附属病院 小児心臓血管外科診療科長

根本 慎太郎 先生

この記事の最終更新は2015年10月12日です。

先天性心疾患にはふたつの心室が残っている場合(二心室)とひとつの心室しか残っていない場合(単心室)の二通りがあります。二心室の場合は、ふたつの心室を使った正常の直列循環を作っていける可能性が高く、それを目指した手術を施します。単心室の場合は、ひとつの心室で直列循環(『先天性心疾患とは? 子どもが生まれ付き持ってしまった心臓の病気』参照)をつくらなければいけません。この、ひとつの心室で直列循環をつくる手術を、フォンタン手術といいます。直列循環をつくるということで、根治手術と呼べます。

単心室の代表は三尖弁閉鎖症や左心低形成症候群などです。肺動脈バンディングやブラロック・タウジッヒシャントといった準備のための姑息手術を行った後、諸条件が整ったら、フォンタン手術に至ります。

では、フォンタン手術とは具体的にどのような手術なのでしょうか。フォンタン手術をこれまで数多く執刀してきた大阪医科大学附属病院小児心臓血管外科診療科長の根本慎太郎先生にお話頂きました。

たとえば心室がひとつしかないお子さんは、酸素がたくさんの動脈血と、酸素が少ない静脈血がひとつの心室内で混ざりあってしまい、チアノーゼ状態になってしまいます。

そのような単心室(心室がひとつしかない状態)の心臓を持って生まれてきた赤ちゃんに対する手術の最終到達点として、フォンタン手術があります。

フォンタン手術とは、全身から心臓に戻ってくる静脈血を、上大静脈は直接、そして下大静脈は人工血管を通して、肺動脈に流す手術です。右心室の働きがないため、“右心バイパス術”とも呼ばれます。肺から戻ってきた、酸素を十分に蓄えた動脈血は心室を通り大動脈へと全身に送られるため、チアノーゼ(顔色や皮膚、指先、唇などが紫色に変色し、血液が酸素不足になる状態)はなくなります。

フォンタン手術と術後の流れ

ただし、フォンタン手術を受けるにはいくつかの条件があります。肺に血液が十分に流れやすい状態であること、そしてひとつしかない心室の機能が十分であることが要点です。それらがそろって初めてフォンタン手術を受けることが可能になります。

右心室というポンプのない状況で肺に静脈血が流れるためには、先にある肺動脈が、広く大きな川のように滞りなく流れるように調整がされていなければなりません。

正常な心臓の場合、血液を両方の心室で循環させますが、単心室の子の場合は、ひとつの心室で循環させます。そのため、唯一残った心室が、ふたつ分の力を出せるほどに力強く動いている必要があります。これは口で言うのは簡単ですが、実際は非常に難解な条件です。ですからフォンタン手術はそこにたどり着くまでのハードルが高く、受けられる人も限られてきます。

つまり、肺動脈の条件を徹底的に整えなければならないのです。そのために姑息手術(『先天性心疾患の手術治療 姑息手術と根治手術について』を参照)や薬を使い、コンディションを万全にする必要があります。そこで初めてフォンタン手術ができるのです。

最近では、フォンタン手術が順調に受けられるように、赤ちゃんがお母さんのお腹のなかで先天性心疾患と診断がついたときから治療のスケジュールを立てていくようにしています。

それでも課題は残っており、治療コースがうまくいく子もいれば、姑息手術の中継地点で止まってしまっている子がいるという現実も直視しなければなりません。

私は患者さんのご家族に、「フォンタン手術はゴールではなく新しい人生の始まりです」と説明しています。フォンタン手術までたどり着いたら病気は治っているのではないのか? と思う患者さんもいらっしゃるかもしれません。それなのになぜこのようなことをあえて言うのでしょうか?

ようやくフォンタン手術までたどり着いた状態であっても、それはまだ完全な正常ではないため、成長するにしたがって破綻する可能性がないとも言い切れません。フォンタン手術後に特徴的な静脈圧の上昇によって肝臓や腸がうっ血し、様々な合併症を引き起こしてしまう場合もあります。

このように、フォンタン手術が終わっても、そこから通常通り生活していくためには様々な工夫や考慮が必要なのです。このような経緯があるからこそ、私は「新しいスタート」と患者さんのご家族にお話しています。

フォンタン手術を受けたあとには小児科はもちろん、成人になってからは循環器内科にも診療してもらうことが大切で、医師同士の連携が必要となってきます。

また、心理カウンセラーや精神科の先生との連携による心のケアも重要になってきます。なぜなら、先天性疾患になった子どもたちが大人になると、これまでお母さんと医師で話していた病状を、今度は本人が直接循環器内科の先生と話していく必要があるからです。特に反抗期の患者さんは、治療をサポートしていくうえで大変な面もあります。

このように、先天性心疾患の患者さんは、手術が終わったとしても一生医療機関とのお付き合いが必要です。

基本的に厳しい制限はありません。

ただし、術後は激しい運動をすることは控え、あまり水分を多くとりすぎないようにします。(静脈の圧力が上がり、肝臓や腸の障害を起こしやすいため)

また、血液を凝固させない薬をしっかり飲んで静脈内に血栓ができないようにすることが大切です。そして、当然ですがタバコは危険なので将来的に禁煙を心がけてください。

現在、日本において毎年9000件の小児手術が行われています。そのうち6~7割の患者さんは、成人後も医者に関わらなければいけない生活を送っているという現状があります。

かつては、小児手術は救命、すなわちとにかく命を救うことが急務でした。しかし現在は手術の質も上がり、フォンタン手術のような術式も開発されたことで、救命よりも命を救った後の生活の質をいかにして上げるかが重要になってきています。

繰り返しますが、フォンタン手術を受けた患者さんは、そこがゴールではなくスタートです。そこから長い人生をどうやって力強く、楽しんで生きてもらうか。それを考えていくのが、これからの小児心臓外科医の任務ではないでしょうか。