先天性心疾患は、その名のとおり、先天性(生まれつき持ったもの)の心臓の病気のことです。ひと口に先天性心疾患と言っても様々な種類があり、また、大人の心臓疾患とも治療方法が異なります。先天性心疾患とはどのような病気なのか、大阪医科大学附属病院小児心臓血管外科診療科長の根本慎太郎先生にお話をお聞きしました。
正常の心臓は、静脈からやってきた血液を、右心室系をとおして肺に運び、肺で酸素を取り込んで赤くなった血液を、左心室系を通して全身に運ぶ働きをしています。これを直列循環と呼び、心臓が健康な方であれば自分で意識せずとも心臓がこの働きを生涯続けています。
先天性心疾患(せんてんせいしんしっかん)は、この直列循環が生まれつき出来上がっていない心臓疾患の総称です。
生まれてくる子どもの約100人に1人が発症するといわれています。また、ダウン症候群の子どもが先天性心疾患を合併している場合も少なくありません。
ただし近年の小児先天性心疾患は著しい発展を見せており、先天性心疾患を持つ子どもの9割は成人まで無事に成長することができるまでになっています。
先天性心疾患には様々な種類があり、非チアノーゼ性心疾患とチアノーゼ性心疾患に大きく分けられます。非チアノーゼ性心疾患は先天性心疾患の6~7割を占めており、比較的軽症であることが多いとされています。非チアノーゼ性心疾患には心室中隔欠損症や心房中隔欠損症があります。とくに心室中隔欠損症は全体の半数以上を占める病気です。
一方チアノーゼ性心疾患は先天性心疾患全体の1%にも満たないものが多く、ファロー四徴症や完全大血管転位症などが挙げられます。
ひとくちに先天性心疾患といっても、その治療法や症状は異なる場合が多く、複数の心疾患が同時発症することも珍しくありません。しかし、一般的には手術による修復が適応されます。
先天性心疾患の治療は心臓の異常を修復することが目的です。それにより、チアノーゼ(顔色や皮膚、指先、唇などが紫色に変色し、血液が酸素不足になる状態)や心不全といった症状の改善が見込めます。
大人の心臓病の多くは、長い間生きてきたことによる弁や動脈の多少の故障が原因として発症します。その手術では、故障した部品の修復や交換が主体となります。心臓自体はすでに完成されているため、故障部分を治してあげることで長期的な改善が見込めます。
一方、子どもの心臓は、多くの場合で解剖学的な異常があり、前述した基本的な循環構造である直列循環が、そもそも確立されていません。さらに、子どもの心臓はまだ形成途中であり、成長の過程で心臓自体の大きさが変わります。その混沌としている心臓を誘導してあげなければいけません。そのため、将来的な形や構造を予測して手術を施す必要があり、長期にわたるサポートとケアが必要になります。
大阪医科大学附属病院 小児心臓血管外科診療科長
日本外科学会 外科専門医日本循環器学会 循環器専門医日本胸部外科学会 認定医・指導医日本移植学会 会員日本集中治療医学会 会員
新潟大学医学部を卒業後、東京女子医科大学、米国サウスカロライナ医科大学、米国テキサス州ベイラー医科大学、豪州国メルボルン王立小児病院、マレーシア心臓病センターなど海外各地での経験を経て、大阪医科大学附属病院小児心臓血管外科診療科長。フォンタン手術などの難手術をこれまでに数多くこなし、先天性心疾患をもつ多くの幼い命を救ってきた。自らが数多くの臨床を受けるかたわらで、医師や大学、企業などの垣根を超えた地域全体での医療体制に向けた取り組みや、新しい手術製品の新開発など、未来を担う子どもたちのために幅広い活躍を見せている。
根本 慎太郎 先生の所属医療機関