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インタビュー

骨盤臓器脱の治療―「何がどう具合悪いのか」「何をどう治したいのか」に集中することが重要

骨盤臓器脱の治療―「何がどう具合悪いのか」「何をどう治したいのか」に集中することが重要
中田 真木 先生

社会福祉法人三井記念病院 産婦人科 医長

中田 真木 先生

「骨盤臓器脱とは―臓器が膣から落ちてくる病気」で、骨盤臓器脱についてお話しいただきました。今回は、骨盤臓器脱の治療法について三井記念病院の産婦人科・骨盤底婦人科 医長の中田真木先生にお話を伺いました。

骨盤臓器脱の治療には主に次のようなものが挙げられます。

  • 生活指導:対症的な管理

腟口からはみ出してこすれる部分(子宮頸部)に保護用の軟膏を塗布する、丁字帯様の下着ではみ出す部分を下から支える、トイレで排尿や排便するとき腹圧を加えるだけでなく腟の出口の側から手を添えてはみ出す組織を押し込みいきみやすくする、などの工夫をします。その他、コルセットなど胴回りをしめつける着衣はできるだけ避ける、便通を整える、などの心得も必要です。骨盤臓器脱のほとんどは、残念ながらこれらの工夫をしても少しずつ弛緩下垂が進行していきますが、まずは生活指導を受け養生することで時間の余裕ができます。養生しながらペッサリーによる保存管理を行うか手術に進むかを本人が主体的に決断するのがよいでしょう。

  • 保存療法:ペッサリー療法

膣内にリング状やM字形状のプラスチック器具(=ペッサリー)を挿入し弛緩下垂を押し戻す方法です。長い眼でみると手術が必要になるとしても、とりあえずの治療としてペッサリー療法は手軽かつ簡便です。特に、50歳くらいまでの女性は骨盤臓器脱になっていても骨盤底筋が比較的堅固で半分以上の人がペッサリーを使いこなすことができます。子育てに余裕がない場合などは、数年間ペッサリーによる保存管理を行ってから手術治療に進むというプランを立てましょう。

ペッサリーの使い方には、ペッサリー管理をすべて医療機関に任せる「連続装着方式」と、自分で朝装着し夜抜去する「自己着脱方式」があります。広く行われている連続装着方式は、ペッサリーの手軽さを活かす万人向きの方法ですが、装着したまま定期的に通院することを怠り腟の周りの組織に炎症が広がるなどのトラブルがあとを絶ちません。自己着脱方式にはペッサリーを自分で管理する煩わしさが伴いますが、腟壁を傷つけることが少なく性生活にも支障がないため、日々の自己着脱が順調に行えれば生活の質は大幅に改善されます。

ペッサリー療法
  • 手術療法

下がった子宮や外側に反った腟を、外科手術によって元の位置に戻すことを「骨盤臓器脱の整復手術」といいます。以前から生体の支持組織を縫い縮めたり、縫い合わせたりして骨盤臓器脱を整復することは広く行われていましたが、最近10年間の骨盤臓器脱整復手術の進歩は特にめざましく、腟の中から剥離操作を行ってプラスチック製のメッシュを引き込んだり、腹腔鏡を使って腹膜の下にメッシュを通して腟断端を骨盤腔の最上部に引き上げたりするなど、骨盤底の支持力の不足を力学的に埋め合わせる術式がいくつも登場しています。

骨盤臓器脱の手術治療では、支持補強の必要になる箇所にプラスチック製のメッシュを埋め込むことがあります。中でも、前腟区画を補強するために膀胱の後方や尿道の下にテープ状やパッチ状に切り抜いたメッシュを挿入する手法は、広く行われています。

メッシュは生体にとって異物です。メッシュ手術を受けた方は、術後一定期間の経過観察は必須ですし、時間が経ってから追加処置が必要になることもあります。このように異物の埋没には明らかなデメリットが伴いますが、それでも膀胱・尿道周りにメッシュを埋没する手術の開発は続いており世界的にも施行数は増えてきました。膀胱・尿道周りにメッシュを埋没する手術が盛んになっている理由は、膀胱・尿道が下がってしまった場合にメッシュなしに支持補強することは難しく、さらに、十分な補強を行えるかどうかがその後の膀胱尿道機能に大きな影響を及ぼすということがあるからです。

現在、骨盤臓器脱を整復する手術においてカギとなる役割を果たすのは「尖端補強処置」であると目されています。尖端補強とは、子宮もしくは腟の断端(子宮を摘除した場合に残る腟の天井部分)を上後方に向けて引き上げる外科処置を指します。尖端補強処置には、メッシュなど人工素材を使う術式と生体組織による術式があり、両者を比較した研究によるとどちらの術式も安定した良好な結果を残しています。

尖端補強処置は骨盤臓器脱の手術治療のほとんどに必要となります。しかし手術治療の実際は、多くの場合尖端補強単独ではなく前方もしくは後方の区画を補強する処置との組み合わせになります。尖端補強だけを行うよりも、それぞれのケースに必要な前腟区画と後腟区画の補強を追加する方が治療成績が良好なためです。

健康な女性の体内にメッシュを埋め込む手術は、習熟した専門医にとってさほど難しい処置ではありません。適切な材料を用い、適格な患者さんに必要な注意を守って最小量のメッシュを導入するのであれば、メッシュに感染を起こす、術後に正体不明な痛みに襲われるなどの心配は無用です。しかしながら、メッシュは生体からみて異物です。異物の埋め込みを受けた生体は異物に敵対的に反応する傾向があります。メッシュ埋没手術には、生体の異物への反応を利用しているという性格もあります。異物を埋め込んだ箇所が少々硬くなる(線維組織が作られる)ことがないと、埋め込まれたメッシュは生体の中で滑ってしまい、メッシュ手術は成立しません。

一方、埋め込まれたメッシュの周りに過度の線維組織増生が生じると、メッシュの周りには拘縮(こうしゅく)といわれる病的な変化が起こります。あまりに強い拘縮が起こると、メッシュを入れた箇所に疼痛や違和感を感じるようになることがあります。また、尿道下に回したメッシュが強く拘縮すると、排尿しづらさや排尿時の違和感が問題になります。埋没されるメッシュが少ない方が拘縮の問題は起こりにくくなります。

生体は異物を体外に送り出そうとする働きを持っています。この働きによって、手術から5年も10年もたってからメッシュの一部が直腸内や膀胱内へ顔を出すことがあるといわれます。ただしこれはたいへん珍しい現象です。このような現象がみられる場合には、直腸や膀胱より外でメッシュを切り離せば問題の部分は自然に直腸や膀胱の中から体外へ排出されていきます。

30歳代から50歳代前半の比較的若い方は、子宮脱などを抱えていても日々の暮らしに忙しく受診を先延ばしにする傾向があります。しかし、他に病気や身体的不自由のないこの年代の女性が骨盤臓器脱のために日々の不自由を強いられるのは残念なことです。失った時間は後からは取り戻せません。この年代の方には、①ほとんどの場合いずれは手術治療が必要になる、②すぐに手術を受けられない場合、ペッサリーでしばらく具合よく管理できることがある、という2点を踏まえて計画的に対処していただきたいと考えています。

骨盤臓器脱かどうかが明らかでない尿もれの場合は、なおさらのこと、放置せず尿もれを動機として受診してください。女性の膀胱・尿道の不具合は、子宮疾患や前腟区画の弛緩下垂によることがしばしばです。最初の受診先は産婦人科で構いません。50歳代後半から60歳代までの年齢層は、多くの場合、特別な家族の助けを借りずに骨盤臓器脱の手術治療を受けられます。むしろ問題は、当の本人が家族や親族へ日々援助を行う役割を担っており自分の病気の治療は後回しになる傾向があることです。

一方、若い年齢層と比較すると閉経後のこの年齢層はペッサリー管理で炎症や出血などのトラブルを起こしやすく、ペッサリー管理から脱落すれば旅行やスポーツなどのレジャーからも切り離されてしまいます。この年代の方は、骨盤臓器脱を抱えながらも身内や家業の諸事にも追われ、しばしば心理的に追いつめられて行きます。ですからこの年代の方には、③骨盤臓器脱は病気である、④病気は病院で治療してくれる、⑤手術治療には本人が療養の余裕を持つ必要がある、これら3点を踏まえて対処していただきたいと思います。

70歳以降の年齢層では、入院・手術を計画しようとすると術前検査で何か注文がつく(精密検査を求められる、新たな健康問題が発覚する)、身内のサポートが必要になるなど少しずつ手術治療にハードルが見えてくるようになります。そこでこの年代の方には、受診もさることながら、⑥まず身内の頼りになる方に骨盤臓器脱で具合がよくないことを相談する、⑦1週間ほどの入院、1カ月ほどの療養期間の間、ご家庭の日常をやりくりできる態勢を整える、の2点をお願いしています。⑥については、身近な女性親族がいないと骨盤臓器脱という病気は本人がひとりで抱え込んで悩んでしまうことが多いのですが、入院や手術にあたっては最低限の情報を男性の身内に知らせる必要があります。このサイトを男性のご家族に読んでいただくなどすればよいでしょう。

骨盤臓器脱は強い痛みや多量の出血など危機的な事態になってしまう病気ではありませんが、そのまま治療しないでいられるものでもありません。診療の場ではいつも「何がどう具合悪いのか」という診療の軸を離れないようにしましょう。以前にかかった病院についての論評や、忙しくてなかなか治療を受けられなかったという言い訳などは忙しい外来診療では全くムダです。「何がどう具合悪いのか」「何をどう治したいのか」に集中しましょう。

年齢が上がれば上がるほど、骨盤臓器脱に随伴する膀胱尿道の不具合は深刻なことが多く、しかもその一部は骨盤臓器脱の手術を受けても残ってしまいます。むしろ、膀胱・尿道の性能低下が骨盤臓器脱の進行する原因として作用します。骨盤臓器脱の治療に臨むときには、手術で整復できそうか、術後に膀胱・尿道の具合はどのようになりそうか、これら2点のそれぞれについて十分に説明を受けるようにしましょう。

 

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