インタビュー

尿漏れなど女性の下部尿路症状とは

尿漏れなど女性の下部尿路症状とは
中田 真木 先生

社会福祉法人三井記念病院 産婦人科 嘱託

中田 真木 先生

この記事の最終更新は2016年02月13日です。

「女性の悩みに向き合う診療科―ウロギネコロジーとは」で、ウロギネコロジーの三大主要疾病や今後の展望についてお話しいただきました。今回はウロギネコロジーで診療される女性の下部尿路症状について、三井記念病院の産婦人科・骨盤底婦人科 医長の中田真木先生にお話を伺いました。

女性の下部尿路症状は、排尿するときだけでなく尿を溜めているときも全てひっくるめての膀胱や尿道の不具合や異変を指します。女性の下部尿路症状はさらに次のように分類されます。

  • 尿を溜めている間に起こるもの
  • 尿の排出に関わるもの
  • 排尿によって引き起こされるもの(違和感や痛みなど)

一般に、尿漏れや尿意切迫感(トイレへ行きたい感じの増強)を多くの方が気にする傾向にありますが、医学的にはうまく排尿できないという症状も非常に問題となります。スムーズに尿を全部排出できないと、逆に膀胱が不安定になって尿もれする、膀胱炎を起こしたり腎臓を傷めてしまう、いきんで出すために子宮脱膀胱瘤になるなどのトラブルが起こってくるからです。すっきり出せない、途切れ途切れにしか出ないなど、尿の排出に異変を感じる場合も早めに病院を受診されることをお勧めします。

女性の下部尿路症状の原因は、膀胱や尿道そのものの機能低下、関連の神経の機能低下、および、膀胱や尿道の働く骨盤・骨盤底の環境の問題の3つがあり、たいてい複数の原因が重なっています。膀胱や尿道と神経の機能低下は加齢のほか出産による影響が重要で、糖尿病など一部内科の病気も関わりがあります。骨盤・骨盤底の環境からくる女性の下部尿路症状は、子宮脱膀胱瘤になって膀胱と尿道がぐらついたり落ち込んだりする状態や、子宮筋腫で変形・増大した子宮が膀胱や尿道を引っ張ったり押したりする状態が代表的です。

子宮筋腫については、子宮の重さが500gほどになると膀胱・尿道の不具合が出やすくなります。また、近年医学の進歩により手術による治療を受けず比較的大きな子宮を抱えたまま閉経を迎える女性が増えていますが、骨盤底は年を取るとたわみやすくなるため、閉経後長い時間がたってから増大した子宮が下部尿路症状を引き起こす場合もあります。その他、出産を控えている女性は骨盤底がたわみやすくなるため、妊娠後半には大きくなった子宮とたわんだ骨盤底という条件によって尿漏れや排尿しづらさなど排尿面の異変がさまざまにあらわれます。下部尿路症状は、女性の誰にでも起こる可能性があるのです。

単純性の尿漏れには、主に次のような種類があります。

  • 腹圧性尿失禁(尿道を締める仕組の問題で、お腹の中で強い圧力が発生するときに尿が漏れてしまう)
  • 切迫性尿失禁(尿意を感じるときにトイレが間に合わずに粗相(そそう)してしまう)
  • 混合型尿失禁(「腹圧性尿失禁」と「切迫性尿失禁」の2つの要素が混合している)

この中で、腹圧性尿失禁が40〜50代の活動期の女性に多くなっています。アンケート調査の結果、40〜50代女性のうち約1/3の方が腹圧性尿失禁の傾向を自覚していることがわかりました。一方の切迫性尿失禁は、加齢とともに右肩上がりに増加し、80歳代女性のうち約1/3の方が1日1回以上の切迫性尿失禁を自覚しています。なお、背景に排尿しづらさを抱えている複雑性の尿漏れは、単純性の尿漏れとは成り立ちや治療戦略が異なります。

尿漏れなどの下部尿路症状は非常にデリケートな問題で、どの程度の尿漏れがあったら受診の必要があるかは単純には決められません。大まかに言うと、尿漏れや頻尿・尿意切迫感のためにやりたいことができず精神的にもへこんでいる状態、尿漏れのためにパッドをあてっぱなしで局所の不快感や皮膚のトラブルを抱えた状態、災害発生時などもしも生活が一変したら尿漏れの手当に困ってしまいそうな情況などは、受診を推奨するケースです。

治療のターゲットは、女性の下部尿路症状のひとつひとつではなく生活の中のハンディキャップの軽減です。これにより女性の生活の質を高め社会参画を推進します。女性下部尿路症状は、子宮筋腫による頻尿や腹圧性尿失禁のように比較的シンプルな治療戦略を立てられるものから、膀胱と尿道の尿を排出する能力が低下したことが原因となっている膀胱瘤のように、問題が複雑で細やかな対応が必要になるものまでさまざまです。複雑な症例の場合、対症療法を繰り出すだけでなく、問題の所在とその成り立ちを十分に確認した上で治療を行うことが重要です。

腹圧性尿失禁の治療戦略には、骨盤底トレーニングと中部尿道スリング(尿失禁手術)と呼ばれる手術があります。日本では、効果的な骨盤底トレーニングは一部の地域で一部の女性にしか提供できていません。また海外の報告によると、比較的骨盤底トレーニングが広まっている地域でも、効果的な骨盤底トレーニングで一定の治療効果を上げた後に、最終的にはかなりの数の女性が手術による治療に進みます。日本では、効果的な骨盤底トレーニングを提供することがそもそも難しい訳ですから、生活の中のハンディキャップが明らかな腹圧性尿失禁については、骨盤底トレーニングをとばしていきなり手術が選択されることが多くなります。慎重に評価した上で手術治療を優先する情況が当面は続いて行くものとみられます。

高齢者の尿失禁や頻尿については、おそらく女性骨盤底医学より老年病学的なアプローチの方が重要です。下部尿路の機能と骨盤・骨盤底の環境だけでなく、認知能力、動機づけ、さらには移動や衣服の取扱い等々、健全な排尿行動を妨げる多くの要因が関与しています。高齢者の尿失禁や頻尿については、あらゆる角度から問題点を探索した上で生活面に手を触れることのできる身内やスタッフによってアプローチする必要があり、この技法は老年病学の課題なのです。

下部尿路症状の原因は広い範囲にわたります。自分で予防できることは、まず妊娠・出産のときの骨盤底防護です。妊娠中は十分な休養をとり適正な体重増加をはかりましょう。妊娠高血圧症になると分娩の進行はその分スムーズでなくなります。妊娠後半になると、骨盤底には負荷がかかっています。この時期、腰掛けた姿勢でできることは腰掛けてするよう習慣づけましょう。医師から帝王切開による出産を勧められる場合は、帝王切開で産むことを受け入れましょう。35歳以上の年齢で第一子を産む高年初産の場合、複数の産婦人科医による管理態勢、麻酔科医の常駐、まさかのときに備える血液準備など帝王切開に手厚い分娩施設を選びましょう。

出産がすんでからは、腹圧性尿失禁を防止するために骨盤底復古の促進と排尿リハビリテーションの2つのアプローチがあります。骨盤底復古の促進については、分娩で緩み傷ついた骨盤底が急速に回復していくおおよそ産褥1ヶ月までの期間に、腹部を締めることをせず、まめに臥床時間(寝る時間)をとって骨盤底の回復を促進することが原則です。骨盤底トレーニングは、出産によるフェミニンゾーンの痛みが引いたら開始し、少なくとも3ヶ月くらい続けるようにします。ただし、もともと骨盤底を締める動作ができない人や締めようとすると強いいきみが加わってしまう人などでは、かえって骨盤底トレーニングが有害なこともあります。そのような場合は、骨盤底トレーニングをしばらく禁止します。

産褥期(出産後の母体の回復期間)の排尿リハビリテーションでは、特に排出障害のある場合をのぞき、早め早めの排尿をしないよう指導します。早めの排尿は腹圧による排出を招きやすく、腹圧による尿の絞り出しが強化されることで腹圧性尿失禁になりやすくなります。反対に、尿意があって排尿をこらえている時間を持つことで、尿禁制(ためてもらさない能力)はアップします。排尿動作はひと続きに穏やかに排出するのがよく、排尿の途中で締め動作をしたり一度止まったところからいきんでまた絞り出すなどのことを繰り返すと、健常な排尿反射は撹乱されかえって尿漏れしやすくなります。

ふつうの人は1日5〜10回排尿しており、一生涯の排尿回数は14万〜37万回という莫大な数になります。膀胱と尿道の働きを保つために排尿において理想となるのは、ほどほどの尿意によって排尿行動に導かれ、本人にとって心地よい排尿環境に身を置いた上で排尿を我慢していた神経の状態から開放され、自律神経系の排尿反射が展開して自然に尿が身体の外に出て行くことでしょう。以上はあくまで排尿の理想像ですが、いつもの排尿をこの理想像に近づけられれば膀胱と尿道の養生になることは確実です。

皮肉なことに、大人では、いつもの排尿が理想像からそれてくる場合、単に習慣的に排尿パターンが崩れるとは限らず、たいていは尿意の異常や排出能力の低下など膀胱・尿道側の条件が作用しています。理想の排尿に近づける努力は膀胱と尿道の機能を守るのに役立ちますが、それは膀胱・尿道の機能低下のためにその努力が難しいこともあるのです。

子供の場合は、もしも異常な排尿習慣があれば、それが発端となって後々までも膀胱・尿道の機能が損なわれることがあります。成長期は臓器機能の育つときですから、膀胱と尿道についても正常な排尿パターンを保って育成する必要があります。学童期までのお子さんで、きまった場所でしか排尿しないなど極端な排尿習慣の偏りがある場合には、放置せず小児科もしくは泌尿器科へ相談してください。

 

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