インタビュー

食物アレルギーの原因とは―アレルギーとの付き合い方

食物アレルギーの原因とは―アレルギーとの付き合い方
藤澤 隆夫 先生

国立病院機構三重病院 院長

藤澤 隆夫 先生

この記事の最終更新は2015年12月23日です。

お子さんにアレルギーの傾向が見られた場合、ご両親は食物に細心の注意を払うことでしょう。現代、さまざまな調査・研究を踏まえたうえで、私たちはアレルギーに対してどのような認識を持つべきなのでしょうか。引き続き、国立病院機構三重病院院長・日本小児アレルギー学会理事長の藤澤隆夫先生にうかがいました。

現在の研究結果では、ハイリスク(アレルギー体質が強い)のお母さんでも妊娠中に食べるものや離乳食の開始時期などは、赤ちゃんのアレルギー発症に関係ないとされています。

2000年頃までは、お母さんが摂取した卵や牛乳が胎盤や母乳から伝わりアレルギー発症にかかわると考えられていました。そのため、ハイリスクと考えられる赤ちゃんの場合、妊娠した段階から出産後まで卵や牛乳、小麦粉などを完全に除去するなどの大規模な臨床試験が行われてきました。しかしいずれも効果がないことが判明しています。

さらに、ハイリスクと考えられる赤ちゃんには離乳食を遅らせる、固形の食物を与える時期を遅らせる、アレルギーを起こしやすい食物を食べさせないということも推奨されていたのですが、最近の疫学調査の結果、実際には離乳食やアレルギーを起こしやすい食物を与える時期が遅いほうがかえってアレルギーを発症させるということが分かってきています。

イギリスで発表された研究(出生コホート研究)の結果によると、アトピー性皮膚炎である人、それが重症化した人、スキンケアにピーナッツオイルを使っていた人がアレルギーを発症しやすいことが分かっています。イギリスでは赤ちゃんのスキンケアにピーナッツオイルを使っていますから、アレルギー因子は皮膚から取り込んでいるだろうと考えられたわけです。

また、イスラエルに住むユダヤ人とイギリスに住むユダヤ人のピーナッツアレルギーの発症率の比較から、幼少期の早い段階からピーナッツを食べさせたほうが発症率が低いことも分かっています。これは、「イギリスではアレルギーに対する回避意識が高く、ピーナッツを幼少期から食べさせる習慣がないのに、アレルギー発症率が高い」一方で「イスラエルではピーナッツに対する回避意識がないため、早いうちからピーナッツを食べさせるが、アレルギーの発症率が低い」という従来のアレルギーに対する認識とはまったく逆の研究結果でした。その後、新たな研究(介入研究)が行われ、乳児期からピーナッツを摂取させることで、ピーナッツアレルギーの発症を抑えるということが証明されました。

ただし、日本とこれらの国との食生活や生活環境は同じではありません。そして、早い段階からアレルギー症状(アトピー性皮膚炎などの皮膚症状)が見られる赤ちゃんと、まったく何も症状が見られない赤ちゃんに同じ対応をすることはできません。つまり、妊娠中のお母さんはアレルギーの原因となる食物を食べてよいかよくないか、お子さんにアレルギーの原因となる食物を食べさせるべきか食べさせないべきかを一概に語ることはできないのです。

最近はアレルギーに対して意識の高いお母さんが増えていますが、なんの根拠もなく(アレルギー症状と見られる傾向がまったくないのに)むやみにアレルギーの原因となる食物を避けてしまうと、お子さんの栄養バランスにも影響することがあります。つまり、卵にアレルギーがないお子さんに卵を食べさせない、小麦粉にアレルギーがあるから牛乳もりんごも与えないという方法は誤った認識です。もしお子さんにアレルギーの傾向が見られるようなら、医師とよく相談して正しい認識を持つことが大切なのです。

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