インタビュー

増え続けている食物アレルギー−食物アレルギーの症状と種類−

増え続けている食物アレルギー−食物アレルギーの症状と種類−
足立 雄一 先生

富山大学学術研究部医学系小児科講座 教授、富山大学附属病院小児総合内科 科長

足立 雄一 先生

この記事の最終更新は2017年04月06日です。

近年食物アレルギーは増加傾向にあります。乳幼児にも多くみられるため、小さなお子さんをもつお母さんで悩んでいらっしゃる方も多いのではないでしょうか。

今回は食物アレルギーの症状や種類、アレルギー増加の原因について富山大学附属病院小児総合内科科長 足立雄一先生にお話を伺いました。

ヒトの体には、細菌やウイルスなど異物に対抗するための免疫機能が備わっています。この免疫機能にアンバランスが生じるとアレルギー疾患などが発症しやすくなります。

特定の食品を摂取した際にアレルギー反応が起こることを、食物アレルギーといいます。食物アレルギーは、食品を摂取することによるものばかりでなく、食品が皮膚についたり、空中に浮遊しているものを吸い込んだりすることで起こることもあります。

アレルギーを引き起こす原因物質をアレルゲンと言いますが、食物アレルギーでは主に食品に含まれるたんぱく質の一部がアレルゲンになります。

最も多いアレルギー症状は蕁麻疹など皮膚への症状ですが、人によっては消化器や呼吸器に症状が現れることもあります。

近年、食物アレルギーをもつ子どもは増え続けています。食物アレルギー診療ガイドライン2016によると、日本の食物アレルギーの有病率は乳児で約5〜10%、幼児で約5%、学童期以降が1.5〜3%程度と報告されています。

食物アレルギーは、食品によって引き起こされるアレルギーの総称であり、たとえば、卵アレルギー・そばアレルギー・ピーナッツアレルギーなど食物アレルギーを引き起こす食品は人によって異なります。

食物アレルギーの原因となる食品の割合は、三大主要原因食品といわれている卵・牛乳・小麦が全体の約60%以上を占めます。次いで甲殻類・果物類の割合が多いです。

食品によっては年齢を重ねるにつれて、アレルゲンへの耐性(食べられるようになること)ができていきます。卵・牛乳・小麦は耐性ができやすく、たとえば、乳児の頃には卵アレルギーをもっていたとしても、徐々に食べられるようになって5歳になる頃には普通に食べられるようになる、ということがあります。一方、甲殻類・果物類・ナッツ類は年を重ねても耐性を獲得しにくいとされています。

そのため、三大主要原因食品である卵・牛乳・小麦が原因アレルゲン全体に占める割合は年齢を増すにつれて減っていきますが、甲殻類・果物類の割合は年齢とともに増加していることがわかります。

食物アレルギーを持っている方がアレルゲンとなる食品を食べると、皮膚症状、粘膜症状、消化器症状、呼吸器症状、神経症状、全身症状、循環器症状などを引き起こします。

具体的には以下に挙げられるような症状です。

・皮膚症状

蕁麻疹、むくみ、かゆみ、赤くなる など

・粘膜症状

目の充血・かゆみ、涙が止まらない、目の周りが腫れる、鼻水、口や喉の違和感 など

・消化器症状

腹痛、嘔吐、下痢 など

・呼吸器

息苦しくなる、声がかすれる、咳込み、呼吸困難、くしゃみ など

患者さんによってアレルギー症状の生じ方は異なります。時にアナフィラキシーなど生命に危険が及ぶことがあるので、注意が必要です。

皮膚症状、消化器症状、呼吸器症状が複数同時にあらわれる全身性のアレルギー反応をアナフィラキシーといいます。さらに血圧が下がったり意識が朦朧(もうろう)となったりするなどの生命を脅かす危険な状態をアナフィラキシーショックといいます。

アナフィラキシーは食品以外にも薬物やハチ毒が原因で起こることもあり、迅速で適切な対応が重要です。

症状を速やかに抑える薬としてアドレナリン自己注射薬があります。アナフィラキシーのリスクがある方は自身でアドレナリン自己注射薬を携帯するなど、救急時に正しい対処ができるようかかりつけ医と相談しておくのがよいでしょう。

そもそも食物アレルギーはどのような仕組みで起きるのでしょうか?

私たちの身体には免疫という機能が備わっています。有害な細菌やウイルスなどの異物が侵入した場合、この免疫が体を守ります。

食物アレルギーでは、食品に含まれるアレルゲン(主にタンパク質など)に免疫が過剰に反応して、本来無害なはずのものを異物と認識して食品に対するIgE抗体を産生するようになります。

このIgE抗体が体内に存在するマスト細胞にくっついた状態でアレルゲンと出会うと、ヒスタミンなどの化学物質がマスト細胞から放出され、この反応によってさまざまなアレルギー症状が現れるのです。

食物アレルギーの中には主に学童期以降に発症する特殊なものがあり、たとえば口腔アレルギー症候群や食物依存性運動誘発アナフィラキシーが挙げられます。

・口腔アレルギー症候群(花粉関連食物アレルギー症候群)

口腔アレルギー症候群(花粉関連食物アレルギー症候群)では、花粉症をお持ちの方が新鮮な果物や野菜を食べた直後に口の中の違和感やしびれ、かゆみや腫れを起こしてしまいます。

原因となる果物や野菜を除去することでアレルギーの発症を防ぐことができます。また、加熱処理をすることで症状が緩和することもあります。

・食物依存性運動誘発アナフィラキシー

食物依存性運動誘発アナフィラキシーは、中学・高校生から青年期にみられる、比較的稀な疾患です。原因となる食物は小麦、次いで甲殻類が多くなっています。原因食品を摂取するだけでは症状は起こらず、また運動しただけでは起こりませんが、原因食品を摂取した後に運動をするとアナフィラキシーを発症します。

運動前に原因食品を摂取しないことや、原因食品を摂取した場合は最低2時間運動をしないことで発症を防ぐことができます。症状が重症化する場合も多いので、自身はもちろん周りの人も含めて正しく対応方法を理解することが重要です。

一般的にアレルギーの原因には遺伝因子と環境因子の関与が考えらますが、過去数十年間でアレルギーをもつ子どもが増加してきたのは主に環境の変化によると考えられています。

たとえば以下に挙げられる環境因子です。

・住宅の西洋化

 気密性の高い住宅はダニが繁殖しやすい環境です。

・スギの植林促進

 戦後、日本では木材として加工しやすく成長の早いスギの木を大規模に植林しました。

・ペットの増加

 ペットの室内飼育によってアレルゲンに接する機会が増えました。

・大気汚染

 大気汚染によってアレルギーが発症したり、症状が悪化したりすることがあります。

・受動喫煙

 親の喫煙が子どものアレルギーに関係しているという研究結果も出ています。

・学校、クラブ活動、いじめ

 ストレスによって免疫のバランスが崩れ、アレルギーの症状が出る場合があります。

スギの木の花粉

このように現代社会はアレルギー増加の原因と考えられるものが多く存在しています。

近年、衛生的な環境はアレルギー疾患を引き起こしやすくなるのではないかという「衛生仮説」が注目されています。戦後、衛生状態がよくなった先進国ではアレルギーの有病率が上がりました。
乳幼児期の細菌やウイルスへの曝露がアレルギーの発症に関わっているという研究結果が多数報告され、説得力のある学説のひとつとして認められています。

その他にも、最近では納豆やヨーグルトなどのプロバイオティクスを摂取することによってアレルギーを予防できるのではないかといった研究も行われています。

このようにきれいすぎる環境に身を置くことが必ずしもよいわけではなく、「菌と触れ合う」ことで免疫系の発達を促し、アレルギーを防げるのではないかと考えられてきています。

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