インタビュー

甲状腺がんの新たな治療薬-今後の展望とは

甲状腺がんの新たな治療薬-今後の展望とは
杉谷 巌 先生

日本医科大学 大学院医学研究科 内分泌外科学分野 大学院教授、日本医科大学付属病院 内分泌...

杉谷 巌 先生

この記事の最終更新は2015年11月24日です。

前の記事「乳頭がんの予後-経過観察でも問題ないか」で、甲状腺がんのひとつである乳頭がんは、超低危険度と判断された場合、手術をせずに経過観察することもあることをご説明しました。一方で、高危険度がんのように命に関わる甲状腺がんも存在します。手術治療や従来の補充療法のみでは効果がない場合の選択肢のひとつとして最近、分子標的薬による薬物治療が登場しました。本記事では、分子標的薬について、そして甲状腺がんの今後の展望について、日本医科大学付属病院 内分泌外科 部長 杉谷巌先生にお話しいただきました。

高危険度の甲状腺がんの根治を目指した手術では、甲状腺の全摘出やリンパ節の切除などが行われます。浸潤性のがんであれば、気管・食道・喉頭などを切って再建する、いわゆる頭頸部領域の外科治療のような大がかりな手術が行われる場合もあります。甲状腺付近には空気の通り道(気管、喉頭)や食事の通り道(食道、咽頭)、発声装置(声帯、反回神経)や心臓と脳を結ぶ血管(頸動脈)など重要な臓器があり、甲状腺の進行がんは呼吸や嚥下の機能に影響を与える可能性があるため、局所制御(頸部にがんを残さないこと)が重要になります。また、高危険度がんに対しては、放射性ヨウ素治療やTSH抑制療法(ホルモン療法)などの全身治療も行なわれます。

しかし、進行性のがんでこれらの治療法が効かない場合、他に有効な治療法はありませんでした。そうした中で2014年以降現在までに、2種類の分子標的薬が新たに保険適応になりました。
ともに日本を含む国際的な臨床試験で、放射性ヨウ素内用療法が効かない進行性の分化がん(乳頭がん、濾胞がん)の患者さんの、進行を遅らせる効果が証明されたものです。あくまでも分子標的薬は甲状腺全摘出後に放射性ヨウ素治療を行っても効果がなく、病状が進行する場合に用いられるもので、患者さんの容態を悪化させない効果を期待するものです。従来の治療を省いて最初からこれらの薬を使って、がんを消し去るといったものではありません。また、分子標的薬には手足の皮膚異常や高血圧など独特の副作用があります。それにうまく対処しながら、できるだけ長く薬を服用していく(飲み薬です)ことが大切です。

これまで説明してきた乳頭がんは、超音波検査と穿刺吸引細胞診を用いることで比較的診断しやすいがんです。しかし、甲状腺がん全体の5%程度を占める濾胞がんは、濾胞腺腫と呼ばれる良性腫瘍との区別が非常に難しいという特徴があります。まれに良性腫瘍と診断されたにもかかわらず、後になって遠隔転移が見つかる場合もあります。かといって、濾胞がんかもしれないという理由で、甲状腺にしこりのある人に片端から手術をしていたら、無駄に手術を受ける人ばかりになってしまします。そこで、濾胞がんに対する分子マーカーの開発が期待されます(分子マーカーとは、がんに特徴的な遺伝子変化で、細胞診で判定できれば、手術すべき腫瘍を見分けることができます)。精度の高い分子マーカーがあれば、濾胞がんの早期治療に大きく貢献するのではないでしょうか。

髄様がんは非常にまれながんですが、放射性ヨウ素治療やTSH抑制療法(ホルモン療法)が効かず、手術治療が基本となります。根治切除不能で進行性の髄様がんに対しても分子標的薬が保険適用となりました。予後が非常に悪い未分化がんも含め、甲状腺がん領域において新たな治療の選択肢が増え続けることが期待されています。

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  • 日本医科大学 大学院医学研究科 内分泌外科学分野 大学院教授、日本医科大学付属病院 内分泌外科 部長

    杉谷 巌 先生

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