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インタビュー

乳頭がんの予後-経過観察でも問題ないか

乳頭がんの予後-経過観察でも問題ないか
杉谷 巌 先生

日本医科大学 大学院医学研究科 内分泌外科学分野 大学院教授、日本医科大学付属病院 内分泌...

杉谷 巌 先生

この記事の最終更新は2015年11月23日です。

乳頭がんの「危険度分類」により、生命や再発のリスクと治療による身体への負担のバランスを考慮した治療方針を決めることができるようになりました。命への影響がほとんど考えられない「超低危険度がん(無症候性微小乳頭がん)」では、手術を受けずに経過観察を選択される患者さんも多くいらっしゃいます。本記事では、このような患者さんの経過について、日本医科大学付属病院 内分泌外科 部長 杉谷巌先生にお話しいただきました。

記事2「乳頭がんは怖くない-乳頭がんの予後と症状など」でも述べたように、乳頭がんの90%は低危険度がんで、生命にかかわる可能性が高い高危険度がんとは本質的に異なるがんと考えられています。この2つの異なるがんを、なるべく手術前の情報だけで区別できるようにするのが危険度分類です。そして、高危険度がんには甲状腺全摘手術と術後補助療法(放射性ヨウ素内用療法、ホルモン療法)から成る十分な治療を、低危険度がんには最小限の手術で身体への負担を軽くした治療を行うのがよいと考えられています。

一方、最近では検査の精度が上がったため、検診などで偶然に、治療の必要すらないと思われるようなごく小さな甲状腺がんが発見されることが増えています。その結果不要な治療を受けることになってしまえば、「知らないほうがよかったかもしれない」という状況となってしまいます。がんの存在を放置したままでも生活ができる超低危険度がんであれば、手術をせず経過観察という選択肢もあります。つまり、「危険度分類」によって身体や経済的な負担を考慮した治療方針を決めることができるのです。

日本の2つの病院(隈病院、がん研有明病院)で1990年代から、転移も浸潤も見当たらない1cm以下の無症候性微小乳頭がんを対象に、手術をせずに経過観察する方法を治療選択肢に含めることが始められました。これまでに約2000人の患者さんの経過が、平均で7〜8年にわたり超音波検査などで追跡されました。その結果、甲状腺がんが悪化して亡くなった方はひとりもおらず、反回神経麻痺や肺転移などの重篤な状態になった方もいませんでした。

経過観察中にリンパ節転移が現れた方はわずかにいましたが、もともと存在していたが転移がエコーで確認できる大きさになったというものだと考えられます。この場合はリンパ節転移がわかった段階で手術治療を行い、その後の経過はよいものでした。およそ90%の方においては手術をしなくてもがんの大きさは変わりませんでした。また残り10%の方においても、がんがある程度大きくなった時点で手術を行い、重篤な状態になることはありませんでした。

健康診断などでがんが発見されると非常に驚かれると思います。また専門病院で手術を受けるとなると、数か月待たなければならない場合もあり、パニックに陥ってしまう患者さんもいらっしゃいます。しかし低危険度の乳頭がんの場合、数か月待っても通常は問題がない点は、繰り返しとなりますが強調してお伝えしておきます。

超低危険度乳頭がんの経過観察中の検診は基本的に半年に一度行われます。患者さんによっては3ヶ月ごとや年に一度というケースもあります。また最初は経過観察を選択されても、のちに人生のタイミングに合わせて手術を選択される患者さんもいます。微小ながらもがんが残ったままの状態が続く経過観察と合併症などのリスクがわずかながらある手術と、それぞれメリット・デメリットがありますので、医者とよく相談して検診の頻度や治療方針を決められるとよいでしょう。

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  • 日本医科大学 大学院医学研究科 内分泌外科学分野 大学院教授、日本医科大学付属病院 内分泌外科 部長

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