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インタビュー

甲状腺がんの手術と反回神経再建

甲状腺がんの手術と反回神経再建
宮内 昭 先生

医療法人神甲会 隈病院 名誉院長

宮内 昭 先生

この記事の最終更新は2015年12月20日です。

甲状腺がんの手術では、ときに神経を傷つけてしまうことによる合併症も起こりえます。また、手術にともなって声帯の動きにかかわる反回(はんかい)神経の再建が必要になる場合もあります。隈病院で院長を務める宮内昭先生が考案した頸神経ワナ・反回神経吻合による反回神経再建で、多くの患者さんがより普通に近い声を取り戻せるようになっています。この記事では宮内昭先生に神経モニタリングや反回神経再建術についてお話をうかがいました。

甲状腺がんの手術では、合併症のひとつとして嗄声(させい・声のかすれ)や高い声や大きな声が出にくくなることがあります。

高い声や大きな声が出にくくなると、女性の声が男性のような低い声になってしまうため、女性に多く発症する甲状腺疾患の患者さんにとっては大きな問題です。その原因は手術によって上喉頭神経(じょうこうとうしんけい)を傷つけてしまうことによります。

甲状腺と付近に分布する神経

上喉頭神経は内枝(ないし)と外枝(がいし)に枝分かれしていますが、神経の走り方には個人差もあるため、手術の際にこの外枝は非常に傷つけられやすく、細心の注意を払う必要があります。そこで手術中に電気で神経を刺激して、神経がどこにあるか、また神経が働いているかどうかを確認するようにしています。これを神経モニタリングといいます。隈病院ではこの神経モニタリングによって上喉頭神経外枝の走行を正確に把握し、安全な手術を心がけています。

実は2015年10月31日、48回日本甲状腺外科学会学術集会の翌日に、第2回甲状腺副甲状腺術中神経モニタリング研究会が開催されることになっています。(編注:この取材は2015年10月28日に行われました)5月に行われた第1回の研究会には予想を大きく上回る参加者があり、大変盛況でした。神経モニタリングの技術はこれからますます注目されることでしょう。

手術前に声帯麻痺がなくても、手術中にがんが声帯の動きにかかわる反回神経を侵していることが分かり、神経を切除しなければならなくなる場合もあります。反回神経は大変デリケートなため、通常の手術で温存していても麻痺が起こることがありますが、多くは一時的なものであり、ほとんどの場合3ヶ月から半年ほどで回復します。

手術の中でどうしても反回神経を切断しなければならない場合は、再び神経をつなぎ合わせる再建術を行います。神経をつなぎ合わせても、声帯を閉じる神経と開く神経の間に過誤再生(神経が再生するときのチャンネル間違い)が生じるので、残念ながら声帯の動きは回復しません。しかし神経麻痺のため萎縮していた声帯が萎縮から回復し、発声時の声帯の緊張も改善するので、音声はかなり良好に回復します。また、飲み込んだものが誤って気管に入る誤嚥(ごえん)も少なくなります。

甲状腺がんが反回神経に浸潤している場合、神経の一部を切除する必要があるため、そのままつなぎ合わせることができない症例も少なくありません。このような場合、別の神経を移植して神経の欠損部を埋める方法(遊離神経移植)があります。この場合も、切られた反回神経の吻合(縫い合わせ)の場合と同様に声帯の動きは回復しませんが、声帯の萎縮は回復し、声もほぼ正常近くまで回復します。

甲状腺がんが反回神経に浸潤している場合、神経の一部を切除する必要があるため、そのままつなぎ合わせることができない症例も少なくありません。このような場合、頸神経ワナという別の神経を移植して再建する方法(頸神経ワナ・反回神経吻合)があります。

前項で述べたように切った反回神経をつなぎ直したときと同じく、頸神経ワナ・反回神経吻合を行うと声帯の動きは回復しないが音声が回復するということを1986年に報告したのですが、残念ながらCrumleyという医師がひと足先に報告していたため、世界初ではなく2番目となりました。

頸神経ワナは頸(くび)の前にある前頸筋(ぜんけいきん)という筋肉に行く運動神経で、この神経を切ってしまうと前頸筋は萎縮してしまいますが、外見上も機能的にも大きな影響はありません。このデメリットよりも声が良くなることのメリットの方が患者さんにとってはるかに大きいでしょう。

もっとも良い例では、健康な人と変わらない程度に声が出せるようになることもあります。また、手術前からがんの浸潤によって声帯麻痺があった人でも、同じように声が良くなるという効果があります。

 

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