甲状腺がんの発見・診断には超音波検査(甲状腺エコー)が有効であることが知られていますが、すべてがそれだけで分かるわけではありません。甲状腺疾患の専門病院として全国でもトップクラスの隈病院で院長を務める甲状腺がんの第一人者、宮内昭先生に甲状腺がんの検査についてお話をうかがいました。
甲状腺がんの検査では通常、下記の検査を行います。
血液中の甲状腺ホルモンや、がんの場合に数値が上がる腫瘍マーカーを調べます。乳頭がんや濾胞がんではサイログロブリンという物質が増加し、髄様がんでは、甲状腺ホルモンのひとつであるカルシトニンと、CEAという腫瘍マーカーが増加します。また、未分化がんでは白血球などの炎症物質が増加します。
ただし、サイログロブリンは甲状腺がん以外の理由でも上昇するため、それ自体が乳頭がんや濾胞がんの診断に直結するものではありません。
また、髄様がんでカルシトニン値が上昇することから、ヨーロッパでは甲状腺に結節のある人に対してカルシトニン値を測定し、髄様がんを見逃さないようにしています。しかし、アメリカや日本では、髄様がん自体の頻度が低いため効率的ではないとして否定的な立場をとっています。むしろ、他の消化器がんなどで検査をした結果、CEAが高いことから髄様がんが見つかるケースがあります。
甲状腺の画像診断ではもっともよく行われる検査で、プローブ(探触子)と呼ばれる器具をからだの外から当て、そこから発する超音波の反射を解析することで体内のようすを画像化します。痛みもなく負担の少ない検査ですが、短時間で甲状腺にあるしこりの形状や性質、血流のようすを調べることができます。
がんが進行して食道や気管に浸潤している(拡がっている)場合にはCTやMRIの検査を行うこともありますが、エコーの方が解像度に勝るため、通常は最初の検査としては、CTやMRIは使いません。
静脈から放射性ヨウ素を体内に入れ、甲状腺に集まったヨウ素から出ている微量の放射線をガンマカメラという特殊な装置で撮影すると、がん細胞の部分が白く抜けて写ります。しかし、がんがある程度大きくなければ写らないため、必ずしも必要な検査ではありません。
アメリカではこのシンチグラフィーに比較的こだわって検査が行われますが、日本ではTSH(脳下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン)が抑制されている場合のみ行います。TSHが抑制されているということは、T3, T4などの甲状腺ホルモンの値が高いということを意味します。このような場合には甲状腺の中のどこかでホルモンをたくさん作っていたり、バセドウ病(甲状腺機能亢進症)と腫瘍が合併していることが考えられるので、これらを鑑別する(区別をつける)ために行います。
のどに針を刺して甲状腺にあるしこりから細胞を吸引し、顕微鏡で観察します。これを穿刺吸引細胞診(せんしきゅういんさいぼうしん)といいます。多少の痛みをともないますが麻酔は必要なく、外来で検査が可能です。しこりが小さい場合は超音波で位置を確認しながら細胞を採取します(エコーガイド下穿刺吸引細胞診検査)。
がん細胞の有無を直接見て調べることができるので、がんであることの確定診断を行なう上で重要な検査です。乳頭がんであれば98%程度はこの検査で確定診断が可能です。がんの性質を詳しく調べて治療方針を決定するためには、再度細胞を採取したり、まれには腫瘍の組織を切除して病理組織診断をすることもあります。
医療法人神甲会 隈病院 名誉院長
医療法人神甲会 隈病院 名誉院長
日本外科学会 指導医・外科専門医日本内分泌外科学会 内分泌外科専門医
甲状腺・副甲状腺疾患の診療・研究に40年以上携わってきた。特に甲状腺がんの診断と治療を専門とし、この手術にともなう反回神経麻痺に対する頸神経ワナ・反回神経吻合による再建を日本で最初に考案・施行した。また急性化膿性甲状腺炎の原因となる一種の発生異常の存在を世界で初めて発見し、下咽頭梨状窩瘻と名付けた。カルシトニンのダブリングタイム(Ct-DT)が髄様がんの予後因子であることを世界で初めて報告し、最近ではサイログロブリンのダブリングタイム(Tg-DT)が乳頭がんの強力な予後因子であることを見出している。最近、小さい甲状腺乳頭癌が世界的に増加し、その取扱いが問題となっている。宮内の提唱により1993年から隈病院では世界で初めて低リスクの甲状腺微小乳頭癌に対して、非手術経過観察を行っており、大多数の微小癌は進行しないこと、少し進行してもその時点で手術を行えば手遅れとはならないこと、隈病院のような専門病院で手術を行っても、手術群の方が経過観察群より声帯麻痺などの不都合事象が多いことを明らかにした。この成果は2015年版アメリカ甲状腺学会の甲状腺腫瘍取扱いガイドラインに大きく取り上げられた。
宮内 昭 先生の所属医療機関
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