甲状腺疾患の専門病院として全国でもトップクラスの隈病院で院長を務める宮内昭先生は、世界に先駆けて甲状腺がんの予後因子を明らかにしました。がんの進行を予測する「ダブリングタイム・腫瘍進行予測計算機」とはどんなものなのでしょうか。宮内昭先生にお話をうかがいました。
髄様がんでは血液中にカルシトニンというホルモンとCEA(Carcinoembryonic Antigen:がん胎児抗原)という物質が増えることが知られています。CEAは髄様がんだけでなく他のがんにおいても有効な腫瘍マーカーのひとつです。
私たちは甲状腺髄様癌に対する手術後に血清カルシトニン値が高値であり、どこかにがんが遺残していると考えられる患者さんの血清カルシトニン値が指数関数的に上昇することを見いだし、この変化のカーブから血清中のカルシトニンが倍加するまでの時間(ダブリングタイム)を個々の患者さんについて計算しました。カルシトニン・ダブリングタイムは、個々の患者さんによって大きく異なること、この値が髄様がんの予後―すなわち転移や再発、その後生存率を左右する要因として重要であることを明らかにし、1984年に世界で初めて報告しました。その後、20年以上の年月を経て、2009年のアメリカ甲状腺学会の髄様癌診療ガイドラインでもカルシトニンのダブリングタイム(Ct-DT)が予後因子として採用されました。
また、最近、私たちの研究チームは、乳頭がんにおいてはサイログロブリンのダブリングタイムがもっとも強力な予後因子であることを明らかにしました。サイログロブリンは甲状腺ホルモンの元になる前段階の物質で、甲状腺のさまざまな病気の指標として調べられています。
乳頭がんや濾胞がんで甲状腺を全部摘出した患者さんは、サイログロブリンの値を腫瘍マーカーとすることができます。甲状腺全摘によって低下していた血中のサイログロブリン値が高くなった場合は、頚部のリンパ節での再発や、肺や骨などへの遠隔転移が考えられるのです。
このほか、サイログロブリンのダブリングタイムを診断に利用するための条件としては、抗サイログロブリン抗体があると測定結果が不確かになるため、抗サイログロブリン抗体が陰性でなければなりません。また、TSH(脳下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン)が一定の条件下(0.1μIU/ml以下)で測定されたデータのみを使うことが妥当です。
隈病院では予後因子としてのダブリングタイムを診療に役立てていただけるよう、ダブリングタイム・腫瘍進行予測計算機(Doubling Time & Progression Calculator)を作成し、ホームページ(http://www.kuma-h.or.jp)で公開しています。Microsoft Excel®がインストールされているパソコンで使用できるエクセルファイルで、以下のような機能を持っています。
医療法人神甲会 隈病院 名誉院長
医療法人神甲会 隈病院 名誉院長
日本外科学会 指導医・外科専門医日本内分泌外科学会 内分泌外科専門医
甲状腺・副甲状腺疾患の診療・研究に40年以上携わってきた。特に甲状腺がんの診断と治療を専門とし、この手術にともなう反回神経麻痺に対する頸神経ワナ・反回神経吻合による再建を日本で最初に考案・施行した。また急性化膿性甲状腺炎の原因となる一種の発生異常の存在を世界で初めて発見し、下咽頭梨状窩瘻と名付けた。カルシトニンのダブリングタイム(Ct-DT)が髄様がんの予後因子であることを世界で初めて報告し、最近ではサイログロブリンのダブリングタイム(Tg-DT)が乳頭がんの強力な予後因子であることを見出している。最近、小さい甲状腺乳頭癌が世界的に増加し、その取扱いが問題となっている。宮内の提唱により1993年から隈病院では世界で初めて低リスクの甲状腺微小乳頭癌に対して、非手術経過観察を行っており、大多数の微小癌は進行しないこと、少し進行してもその時点で手術を行えば手遅れとはならないこと、隈病院のような専門病院で手術を行っても、手術群の方が経過観察群より声帯麻痺などの不都合事象が多いことを明らかにした。この成果は2015年版アメリカ甲状腺学会の甲状腺腫瘍取扱いガイドラインに大きく取り上げられた。
宮内 昭 先生の所属医療機関
関連の医療相談が15件あります
甲状腺がん(乳頭がん)について
妻が今年1月に甲状腺がん(乳頭がん)と診断されました。発見された悪性腫瘍の大きさは4mmでしたので主治医の先生からは3ヶ月おきに定期検査して、腫瘍が大きくなったら治療〜手術の検討の必要があるが現状では投薬、手術は行わない場合が多いと仰られました。腫瘍は大きくならないケースもあるとのことでしたので少し安心しましたが、悪性腫瘍があるのに治療や手術をしないで経過を診るのは不安が残ります。主治医の先生が仰られているとおりに考えても宜しいでしょうか。
手術後の生活について
甲状腺全摘後にホルモン剤を飲む事になりますが、疲れやすい、体力の減退などがおこると聞きました。仕事も体力を使う仕事です。夜勤もあります。これまでのように生活が可能でしょうか?
数値から見た腺腫様甲状腺腫の悪性の可能性
先日、健康診断結果で左葉)腺腫様甲状腺腫(疑い)要精密検査と診断されました。 色々なサイトを見ましたが全体的に低い場合の症状の記載が無く、一応基準内の数字ではあるようですが精密検査の扱いになった事もあり不安は残ります。 全体的に甲状腺機能低下症の太りやすい、寒がり、浮腫みといった症状は感じています。 全体的に低い数値から悪性の可能性は考えられるのでしょうか。 2018年度 TSH 0.650 FT4 1.14 FT3 2.69 2017年度 TSH 1.060 FT4 1.27
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妻が甲状腺癌と診断されました。全摘出術を勧められたようです。私は診察に付き添っていないので彼女から話を聞くだけなのですが、まだ意思を決めていないのにどんどん手術前の検査等の予約をされているようです。幸いガンは初期で小さいようです。であれば、リンパ節等もとってしまうと後でいろいろと不都合があるらしいので、妻も最小限の手術にしたいと言っています。都内に住んでいます。どこか良い病院を教えていただけないでしょうか。もしくは治療法と先生のお名前だけでも構いません。無理かと思いますが、よろしくお願いします。
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