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甲状腺がんの手術治療とは? ~手術法の適応や種類、術後の注意点について解説 ~

甲状腺がんの手術治療とは? ~手術法の適応や種類、術後の注意点について解説 ~
小野田 尚佳 先生

医療法人神甲会 隈病院 外科 診療本部 本部長、治験臨床試験管理科 科長

小野田 尚佳 先生

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甲状腺がんとは、喉仏の下にある“甲状腺”という臓器に生じるがんです。主な症状は首元に生じるしこりで、これには痛みなどがないことが一般的です。また甲状腺がんは組織型分類によって複数に分類され、それぞれに予後などの特徴が異なることで知られています。

甲状腺がんの治療方法としては、手術治療、放射線治療、薬物療法などが挙げられます。このページでは、手術治療について詳しくご紹介します。

甲状腺がんではほとんどの場合、手術治療が検討されます。しかし、がんの組織型分類上悪性度が高いことで知られる“甲状腺未分化がん”などの場合、手術ができないほど周りに広がっていたり、甲状腺から離れた場所の別の臓器や骨にがんが転移したりしている(遠隔転移)ことも多く、手術を行わずに放射線治療や薬物療法を組み合わせて治療することもあります。

甲状腺がんの治療では、がんの組織型分類や進行度合いに応じて手術後に放射線治療や薬物療法が検討されることもあります。

たとえば甲状腺がんのおよそ90%を占める“甲状腺乳頭がん”や、5%程度を占める“甲状腺濾胞(こうじょうせんろほう)がん”、1%未満といわれる“甲状腺低分化がん”などでは、全摘術を行った後に、再発予防や手術で取り切れなかった病変の制御を目的として術後に放射線治療の1つである“放射性ヨード内用療法”が検討されることがあります。

手術が適応となる甲状腺がんの場合、腫瘍(しゅよう)の組織型分類、位置、大きさ、転移の有無などによって切除範囲が異なります。甲状腺には、代謝などに関わる甲状腺ホルモンを分泌する役割があるため、甲状腺を全て切除してしまうと、このホルモンが分泌されなくなってしまい、術後生涯にわたって甲状腺ホルモンを補う治療が必要になります。一方で甲状腺を残して切除すると、残存部分への再発の懸念や放射性ヨウ素内用療法が行えない、血液中サイログロブリン値測定による再発の早期発見ができないという欠点もあります。そのため手術をする際は、再発リスクを考慮しながら個々の病状に見合った適切な切除範囲が検討されます。手術の種類は切除範囲によって以下のように分けられます。

  • 全摘術……甲状腺全てを摘出する手術です。
  • 亜全摘術……甲状腺のおよそ2/3以上を切除する手術です。過去にはよく行われましたが、最近は行われません
  • 葉峡部切除術……甲状腺の右半分、左半分のどちらかと併せて境目部分の“峡部”も切除する手術です。

甲状腺乳頭がんは、気管の側面にある“気管傍リンパ節”や“頸部(けいぶ)リンパ節”などに転移することがあります。これらのリンパ節への転移が疑われる場合には、通常甲状腺の摘出・切除と併せて甲状腺周辺のリンパ節を切除する“リンパ節郭清(かくせい)”が検討されます。

甲状腺がんの手術では、以下のような合併症が生じる恐れがあります。一般的に合併症は、がんの進行具合や切除範囲が広いほど生じやすいといわれていますが、どんな小範囲の手術でも確実に合併症を回避できるものではありません。

前述のとおり甲状腺には甲状腺ホルモンを分泌するはたらきがあり、手術によって甲状腺組織が減少すると、このはたらきが低下してしまいます。甲状腺ホルモンの分泌が不十分になると、新陳代謝が悪くなることによって、寒さに弱くなる、体のだるさ、疲れやすさ、手足のむくみ、食欲の低下などの症状が現れることがあります。そのため甲状腺の全摘術を受けた方や、残った甲状腺のはたらきが不十分な方は、生涯にわたって甲状腺ホルモン薬を服用し、甲状腺ホルモンを補うことになります。

また甲状腺の裏には“副甲状腺”という米粒大の臓器があり、この臓器もまた“副甲状腺ホルモン”という別のホルモンを分泌しています。副甲状腺ホルモンの分泌が不十分になると、血液中のカルシウム濃度が低下し、手足のしびれなどの症状が現れます。そのため、手術によって副甲状腺機能が低下した場合には、術後ビタミンD製剤やカルシウム剤を服用することが検討されます。

甲状腺の裏には“反回神経”といって、声を出すために声帯を動かす神経があります。手術によって反回神経に麻痺が起こると、声のかすれ(嗄声(させい))が生じることもあります。ただし、反回神経の麻痺は多くが一時的で、その場合は長くても術後半年程度で回復することが一般的です。

甲状腺がんは一般的には治療をしなければ進行してしまう病気です。しかし腫瘍の大きさが1cm以下で、下記にある高リスク因子がない場合には、手術を行わず、経過観察を選択することもできます。

甲状腺がんの高リスク因子

  • リンパ節転移がある
  • 甲状腺の周りの重要臓器(気管、反回神経、食道、血管)に広がっているあるいは広がりつつある
  • 遠隔転移をしている

甲状腺がんには複数の治療方法があり、がんの組織型分類や進行度合い、位置などによっても治療方針が異なります。また場合によっては手術をせず経過観察を選択することもできます。いわゆる民間療法は、治療効果が証明されていないので推奨されません。

甲状腺がんと診断されたらまずは自身の病気の状態について詳しく説明を受け、医師と相談しながら治療方針を決定するようにしましょう。

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