前の記事「乳頭がんは怖くない-乳頭がんの予後と症状など」で、甲状腺がんのひとつである乳頭がんの多くは、過剰に恐れなくてよいというお話しをしました。その乳頭がんを分類する方法に「危険度分類」があります。危険度分類という考え方、低危険度がん・高危険度がんは何を基準にして分けられているのかについて、日本医科大学付属病院 内分泌外科 部長 杉谷巌先生にお話しいただきました。
記事2「乳頭がんは怖くない-乳頭がんの予後と症状など」で述べたような低危険度がん・高危険度がんは、それぞれ別の種類の疾患であると考えます。低危険度がんは、時間がたっても進行がんにはならず、ずっと低危険度がんの状態で経過するものです。たとえある程度の大きさで発見されたとしても、治療を行えば命にかかわる問題はないのです。一方、高危険度がんは従来のがんの常識のとおり、時間とともに進行がんへと進行します。現在はこの危険度分類に合わせて治療方針を決定するようになってきました。
この「危険度に合わせた治療」を世界に先駆けて行っていたのは日本でした。以前のアメリカでは、乳頭がんが発見されれば危険度にかかわらず甲状腺を全て摘出し、放射性ヨウ素治療とTSH抑制療法(ホルモン療法)と呼ばれる補助療法が行われていました。
しかし日本では、患者さんの術後の負担や合併症などのQOL(生活の質)を考え、低危険度の乳頭がんに対しては、できるだけ甲状腺を残す手術(葉切除)を行っていました。前項で述べたように、残した甲状腺から再発する可能性は1〜2%にすぎません。もちろん、この数字を高いと考える方は全摘出を選択されるかもしれません。いずれにせよ、患者さんと相談しながら治療を進めることが重要なのです。このような危険度分類に合わせた治療は、近年世界中に広まりつつあります。
低危険度と高危険度を分ける要素としては、主に年齢・転移・浸潤が挙げられます。
多くのがんでは若いほどがんの進行が早く予後が悪い(治りにくい)とされますが、甲状腺がんの場合、高危険度がんは高齢の方に多く見られます。しかし注意が必要なのは、高齢者で見つかった乳頭がんが全て高危険度がんというわけではないということです。高齢者であっても、大きくもなく、転移も浸潤もない場合は低危険度がんです。中にはそのまま残しておいても悪くならないケースもあります。
転移には、がん細胞が血液の流れに乗って起こる血行性の遠隔転移(肺や骨などへの転移)とリンパ液の流れに乗って起こる頸部や縦隔(左右の肺の間の領域)のリンパ節への転移があります。遠隔転移は乳頭がんの5%程度で起こり、それがあれば高危険度がんと分類されます。一方、乳頭がんは比較的リンパ節に転移しやすいのですが、顕微鏡検査で初めてわかるような小さなリンパ節転移は予後に影響しません。しかし、原発部位のがん(もとになっている甲状腺がん)よりもリンパ節転移のほうが大きいような場合、とくに高齢者では注意する必要があります。
浸潤とは甲状腺の中にできたがんが周囲の臓器にまで直接侵攻して、傷害を起こすことです。気管や食道の内部(粘膜)までがんが浸潤している場合には血痰や呼吸、飲み込みの異常が現れることがあります。声帯の動きを司る神経(反回神経)に浸潤して麻痺が起こると声がかすれてしまいます。このような高度の浸潤は若年者には少なく、高齢者に多く見られ、高危険度がんに分類されます。
具体的な危険度分類法には、いくつかのものがあります。たとえば、がん研有明病院の分類では、遠隔転移のあるもの、50歳以上で3cm以上の大きなリンパ節転移または高度の浸潤(反回神経麻痺や気管・食道粘膜に及ぶ)があるものを高癌死危険度群、これらに該当しないものを低癌死危険度群に分類しています。前者の10年生存率は70%程度ですが、後者のそれは99%以上です。
日本内分泌外科学会と日本甲状腺外科学会が編集した「甲状腺腫瘍診療ガイドライン(2018年版)」では、2cm以下で転移や浸潤の徴候のないものを低リスク群、4cmを超えたり、激しいリンパ節転移や浸潤のあるもの、遠隔転移のあるものを高リスク群、その中間を中リスク群としています。そのうえで、低リスク群には葉切除を、高リスク群には甲状腺全摘と術後補助療法を推奨しています。中リスク群の治療方針は、予測される再発・生命予後と手術合併症(反回神経麻痺、副甲状腺機能低下など)の発生頻度とのバランスをもとに、個々の状況に応じて決めるのがよいとされています。
日本医科大学 大学院医学研究科 内分泌外科学分野 大学院教授、日本医科大学付属病院 内分泌外科 部長
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