甲状腺がんの手術では、手術をするのかしないのか、いつ行なうかという判断が非常に重要になります。甲状腺疾患の専門病院として全国でもトップクラスの隈病院で院長を務める宮内昭先生に、甲状腺がんの手術とその合併症についてお話をうかがいました。
大きさが1cm以下の小さながんを微小がんといいますが、甲状腺がんの大多数を占める乳頭がんの場合、ほとんどの微小がんは進行することがなく、たとえ進行してもその速度がきわめて遅いことが明らかになっています。隈病院では危険性が低い微小がん(低リスク微小癌)であると診断された方には、半年〜1年に1回の経過観察でしばらく様子を見て、進行すれば手術をすることをご提案しています。ただし、以下に当てはまる場合は高リスク微小癌と考えられるので、すぐに手術をお勧めします。
です。安全のため、反回神経の近くにあるもの、気管にくっついているものも高リスクとしました。
濾胞(ろほう)がんの場合、ひとつひとつの細胞の形は良性の濾胞腺腫とよく似ているため、細胞診だけは判断が困難です。最終的には手術で腫瘍全体を摘出した後、病理組織検査で診断します。次のいずれかに当てはまる場合は濾胞がんと診断されます。
また、以下のような場合には濾胞がんを疑って総合的判断で手術を勧めます。
甲状腺がんの治療では、基本的に甲状腺の切除と頚部リンパ節の郭清(かくせい・がん根治のため転移の有無にかかわらずリンパ節すべてを取り除くこと)を行います。甲状腺の切除範囲とリンパ節郭清の範囲は病気の進行程度に応じて決められます。肺や骨などに遠隔転移が見つかった場合は、甲状腺をすべて切除した上で放射性ヨードによるアイソトープ治療を実施することがあります。
遺伝性の髄様(ずいよう)がんは甲状腺の両側にがんができるので、必ず甲状腺をすべて摘出してリンパ節の郭清を行います。また褐色細胞腫を合併している場合には、その手術を先に行ないます。ただしRET遺伝子診断などでごく早期に診断された場合、甲状腺はすべて摘出しますが、リンパ節郭清は気管周囲のみの限定された範囲でよいとされています。一方、散発性髄様がんに対しては、欧米では甲状腺全摘を推奨していますが、我が国の内分泌外科医は病気の進行度に合わせた甲状腺切除範囲で良い、甲状腺一側葉に腫瘤が留まっておれば、必ずしも甲状腺全摘は必要ないと考えています。
手術後は、甲状腺ホルモン剤の服用が必要な場合があります。甲状腺を全部摘出した場合には、甲状腺ホルモンが作れなくなるため、薬によって補うことが必要です。甲状腺全摘手術後には副甲状腺機能低下症となることがあります。このような場合にはビタミンD剤やカルシウム剤の服用が必要となることがあります。内分泌外科医はこのような事態を避けるため手術時に色々と努力しています。
未分化がんは進行が早く悪性度が高いため、がんを取り残すことなく手術を行なうだけでなく、さらに放射線や抗がん剤による化学療法が必要になります。隈病院ではパクリタキセルによる抗癌剤療法を先に施行し、その後で手術を行う試みをしており、最近国内の甲状腺未分化癌研究グループでこの手法が認識、採用されるようになりました。
手術の合併症として、嗄声(させい・声のかすれ)・副甲状腺機能低下症・低カルシウム血症による指のしびれ・リンパ漏(りんぱろう・リンパ液が漏れること)・大声や高い声の出にくさ・出血などが起こる可能性があります。
医療法人神甲会 隈病院 名誉院長
医療法人神甲会 隈病院 名誉院長
日本外科学会 指導医・外科専門医日本内分泌外科学会 内分泌外科専門医
甲状腺・副甲状腺疾患の診療・研究に40年以上携わってきた。特に甲状腺がんの診断と治療を専門とし、この手術にともなう反回神経麻痺に対する頸神経ワナ・反回神経吻合による再建を日本で最初に考案・施行した。また急性化膿性甲状腺炎の原因となる一種の発生異常の存在を世界で初めて発見し、下咽頭梨状窩瘻と名付けた。カルシトニンのダブリングタイム(Ct-DT)が髄様がんの予後因子であることを世界で初めて報告し、最近ではサイログロブリンのダブリングタイム(Tg-DT)が乳頭がんの強力な予後因子であることを見出している。最近、小さい甲状腺乳頭癌が世界的に増加し、その取扱いが問題となっている。宮内の提唱により1993年から隈病院では世界で初めて低リスクの甲状腺微小乳頭癌に対して、非手術経過観察を行っており、大多数の微小癌は進行しないこと、少し進行してもその時点で手術を行えば手遅れとはならないこと、隈病院のような専門病院で手術を行っても、手術群の方が経過観察群より声帯麻痺などの不都合事象が多いことを明らかにした。この成果は2015年版アメリカ甲状腺学会の甲状腺腫瘍取扱いガイドラインに大きく取り上げられた。
宮内 昭 先生の所属医療機関
関連の医療相談が15件あります
甲状腺がん(乳頭がん)について
妻が今年1月に甲状腺がん(乳頭がん)と診断されました。発見された悪性腫瘍の大きさは4mmでしたので主治医の先生からは3ヶ月おきに定期検査して、腫瘍が大きくなったら治療〜手術の検討の必要があるが現状では投薬、手術は行わない場合が多いと仰られました。腫瘍は大きくならないケースもあるとのことでしたので少し安心しましたが、悪性腫瘍があるのに治療や手術をしないで経過を診るのは不安が残ります。主治医の先生が仰られているとおりに考えても宜しいでしょうか。
手術後の生活について
甲状腺全摘後にホルモン剤を飲む事になりますが、疲れやすい、体力の減退などがおこると聞きました。仕事も体力を使う仕事です。夜勤もあります。これまでのように生活が可能でしょうか?
数値から見た腺腫様甲状腺腫の悪性の可能性
先日、健康診断結果で左葉)腺腫様甲状腺腫(疑い)要精密検査と診断されました。 色々なサイトを見ましたが全体的に低い場合の症状の記載が無く、一応基準内の数字ではあるようですが精密検査の扱いになった事もあり不安は残ります。 全体的に甲状腺機能低下症の太りやすい、寒がり、浮腫みといった症状は感じています。 全体的に低い数値から悪性の可能性は考えられるのでしょうか。 2018年度 TSH 0.650 FT4 1.14 FT3 2.69 2017年度 TSH 1.060 FT4 1.27
甲状腺癌の手術の方法について
妻が甲状腺癌と診断されました。全摘出術を勧められたようです。私は診察に付き添っていないので彼女から話を聞くだけなのですが、まだ意思を決めていないのにどんどん手術前の検査等の予約をされているようです。幸いガンは初期で小さいようです。であれば、リンパ節等もとってしまうと後でいろいろと不都合があるらしいので、妻も最小限の手術にしたいと言っています。都内に住んでいます。どこか良い病院を教えていただけないでしょうか。もしくは治療法と先生のお名前だけでも構いません。無理かと思いますが、よろしくお願いします。
※医療相談は、月額432円(消費税込)で提供しております。有料会員登録で月に何度でも相談可能です。
「甲状腺がん」を登録すると、新着の情報をお知らせします
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。