男児も女児も赤ちゃんもかかることがある「尿路感染症」とはどのような病気なのでしょうか。この記事では、その原因・症状・検査・治療から予防法までをご説明します。
尿をつくり体の外に排泄するまでの通り道を尿路(にょうろ)といいます。下図のように、尿は腎臓、尿管、膀胱、尿道というルートを経て、体内から体外へ排泄されます。尿路もそこを流れる尿も、通常は無菌状態で保たれています。しかし、なんらかの原因で尿路に病原体が侵入し、炎症を起こしてしまうことがあります。この状態を尿路感染といいます。
前述したように、尿路感染は男児も女児も赤ちゃんでもかかる可能性のある病気です。1歳までの男女比は2.8~5.4:1と比較的男児に多いですが、1~2歳以降は男女比が1:10と圧倒的に女児に多くなります。これは、女児の尿道が太く短いため、細菌が外から侵入しやすいことと関連しています。
尿路感染を起こす病原体には細菌・ウイルス・真菌などが挙げられますが、細菌が原因であることが最も多いです。細菌の中でもとくに原因となる菌は「大腸菌」で、尿路感染症の原因菌として80~85%にも及びます。
感染経路としては、外陰部周辺の細菌が尿道から膀胱、尿管、腎臓という、尿の流れとは逆の方向に侵入してくることがほとんどです。膀胱の排尿機能が未成熟なことが尿路感染になりやすい原因と考えられます。それに加えて、男児では包茎による外尿道口の汚染、女児では便による外尿道口の汚染などが問題となります。便秘が続くと尿路感染を起こしやすくなるともいわれています。また、生まれつき膀胱に溜めた尿が逆流しやすかったり、尿路の一部が狭くなっていたりすると尿路感染を起こす危険が高まります。
尿路感染症の主な症状には、以下のようなものがあります。
・発熱
・排尿時痛
・頻尿
・腹痛
・腰部痛(腰を叩くと痛みが生じる)
・尿失禁
など
上記のような訴えができないほど小さな子どもが尿路感染症にかかった場合には、嘔吐や不機嫌、母乳・ミルクをあまり飲まないといった症状が出ることがあります。しかし発熱以外に症状があらわれない場合もあるため、積極的に尿路感染を疑わなければ見逃してしまいます。尿が濁って悪臭がすることで気付く場合がありますが、普段とほとんど変わらない尿の状態であるケースもあり、次項で解説する尿検査で初めて尿路感染だと判明することが多いです。
尿路感染症が疑われる場合、尿検査をはじめとした各種検査をおこないます。
尿路感染症の診断をするためには、尿検査が欠かせません。尿検査で尿中に白血球が出ているとわかった場合(膿尿)や、細菌が出ている場合(細菌尿)に尿路感染を疑います。自分で排尿を知らせることができる子どもの場合は、陰部を清潔にしたうえで中間尿(出始めて少し経ってからの尿)を採取します。それができない乳幼児の場合では、陰部にパックを貼って尿を採取する方法があります。
ただしこの方法だと、皮膚についている菌も混入してしまいます。そのため、一般的には上記のような検査が行われますが、尿路感染を起こしている原因菌を確実に知るためには、カテーテルという細い管を尿道から膀胱まで通して、清潔な状態で尿を採取する必要があります。
炎症の程度や血流感染の有無を調べる目的で血液検査もおこなわれます。他の病気を鑑別するために、レントゲン検査や超音波検査も必要に応じておこないます。
尿路感染を繰り返す子どもの場合、生まれつき腎臓や尿路に逆流・奇形がある可能性があります。この疑いがある際は超音波検査や排尿時膀胱造影(排尿時の膀胱から尿管への逆流の有無を調べる)をおこないます。
逆流が強い場合は、抗菌薬の予防的内服や手術による治療も検討されます。
尿路感染の治療は、重症化すると細菌が血液を通して全身に広がったり(敗血症)、腎臓に障害を残したりする危険性があります。重症化を防ぐためにも、原則的には入院をして抗菌薬の点滴をすることが必要です。
適切な抗菌薬を7~14日間使用することで、ほとんどの場合は服用終了後24~48時間以内に症状が改善します。症状が改善して経口摂取ができるようになれば、点滴から内服に変更することもできます。
最後に尿路感染症の予防のポイントを紹介します。重要な点は、外陰部を清潔に保つことと、水分を十分に摂取して長時間尿を我慢せず、こまめに排尿することです。また尿道口が汚染されないように、女児は排便後に前から後ろに拭くように指導してください。
国立成育医療研究センター 総合診療部 統括部長(チャイルドライフサービス室長)
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国立成育医療研究センター 総合診療部 統括部長(チャイルドライフサービス室長)
日本小児科学会 小児科専門医・理事日本先天代謝異常学会 理事日本マススクリーニング学会 理事日本小児栄養消化器肝臓学会 代議員日本小児救急学会 代議員日本SIDS・乳児突然死予防学会 評議員日本小児栄養研究会 運営委員日本小児消化管感染症研究会 世話人
北海道大学医学部、手稲渓仁会病院、埼玉県立小児医療センターを経て、現在は国立成育医療研究センター総合診療部で統括部長を務める小児科医。先天代謝異常症、小児消化器病を専門にしていたが、現在は日本の小児総合診療の確立を目指し、特に成人移行支援や小児在宅医療をテーマに活動している。若手小児科医の育成にも力を注いでいる。日本小児科学会理事。
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