胃腸炎は、ウイルスや細菌、寄生虫といった微生物によって生じる消化管の感染症です。気道の感染症と並んで子どもに非常に多く見られる病気であり、下痢、嘔吐を主な症状とします。今回の記事では子どもの胃腸炎についてご説明します。
胃腸炎の原因は微生物の種類によって以下の3つに大きく分けられます。
1. ウイルス性
胃腸炎の原因の大半を占めます。冬に流行するロタウイルスやノロウイルスが有名ですが、アデノウイルスの一部の型など、夏にみられやすいものもあります。他にアストロウイルス、ピコルナウイルスなども胃腸炎を引き起こします。
2. 細菌性
細菌そのものや細菌の出す毒素が原因となって起こる胃腸炎で、いわゆる食中毒の多くが細菌性胃腸炎に含まれます。最近の種類としては、一部の大腸菌、サルモネラ、カンピロバクター、腸炎ビブリオなどがあります。
3. 寄生虫
クリプトスポリジウム、赤痢アメーバ、ランブル鞭毛虫などが原因となりますが、子どもで生じることは多くありません。
胃腸炎の主な症状は下痢や嘔吐です。発熱や腹痛も症状のひとつですが、原因となる微生物によってはそれらの症状が現れないこともしばしばあります。一般的に、40℃以上の高熱や明らかな血便などは細菌性胃腸炎を疑い、咳や鼻汁といった気道の症状もある場合は、ウイルス性胃腸炎を疑います。
下痢や嘔吐だけでも十分つらい症状ですが、子どもが胃腸炎に感染した場合、それ以上に注意しなければいけないことがあります。それは下痢や嘔吐を繰り返したり、吐き気により水分・食事の摂取量が低下したりして、脱水状態に陥ってしまう可能性があるということです。脱水になると体内での栄養素や酸素の運搬、老廃物の排出が悪くなり、状態がますます悪くなってしまいます。
脱水を表す徴候としては以下のものがあります。
徴候 |
軽症 (体重の減少が もとの体重の3%未満) |
中等症 (体重の減少が もとの体重の3〜9%) |
重症 (体重の減少が もとの体重の9%を超える) |
意識の状態 |
清明 |
正常〜落ち着きがない |
傾眠、意識不明 |
口の渇き |
正常 |
ある |
ほとんど飲まない |
脈拍の回数や触れ |
正常 |
正常〜増加で 触れは正常〜弱め |
頻脈、重症例では徐脈、 触れは弱い |
呼吸 |
正常 |
正常〜速い |
深い |
眼 |
正常 |
わずかに落ちくぼむ |
深く落ちくぼむ |
流涙 |
あり |
減少 |
なし |
口腔の乾燥 |
湿潤 |
やや乾燥 |
強く乾燥 |
皮膚の弾力 |
あり |
やや弱い |
弱い |
手足 |
温かい |
冷たい |
冷たい、チアノーゼあり |
尿量 |
正常〜減少 |
減少 |
最低限 |
脱水であれば身体に水分を補給する必要があります。上記表における中等症以下の脱水の場合には、家庭でも実施可能な経口補水療法が有効です(具体的な方法は『子どもの胃腸炎—家庭でのケア』)。
胃腸炎には残念ながら特効薬はありません。整腸剤や吐き気止め、下痢止めといった他の薬剤の効果についても根拠が限定的または乏しいといわれています。
特効薬はないものの、水分さえきちんと補給できていれば重症化することはありません。細菌性胃腸炎の場合でも、抗菌薬を投与することなく回復する場合がほとんどです。病原体は自然に排泄されるのです。脱水にならないように水分を補うことが何よりも大事なポイントといえるでしょう。
それでは、どのような場合に病院を受診するのがよいのでしょうか。
一般的には嘔吐が4〜5回/日以上、下痢が7〜8回/日以上であれば、受診したほうがよいでしょう。それ以下の回数でも、脱水の程度が強い場合や経口補水療法がうまくいかない場合には、血液検査や血管からの点滴が必要です。また、6か月未満の小さな子ども、早産児や低出生体重児、高熱や明らかな血便がみられる場合も注意しなければなりません。
嘔吐や下痢は胃腸炎だけにみられる症状ではありません。確かに嘔吐や下痢の理由が胃腸炎である頻度は高いですが、嘔吐を繰り返すのに下痢はしない、腹痛の程度が強い、間欠的に機嫌が悪くなるといった場合には他の病気の可能性も考えなければなりません。このような場合には病院を受診することが勧められます。
病院を受診する際には、症状の経過に加えて、元の体重、周囲に同じ症状の方がいないか、旅行歴、加熱が十分でない肉や卵など食べ物を摂取したかといったことも重要な情報ですので、医師に伝えられるようにしておくとよいでしょう。
国立成育医療研究センター 総合診療部 統括部長(チャイルドライフサービス室長)
吉村 聡 先生の所属医療機関
国立成育医療研究センター 総合診療部 統括部長(チャイルドライフサービス室長)
日本小児科学会 小児科専門医・理事日本先天代謝異常学会 理事日本マススクリーニング学会 理事日本小児栄養消化器肝臓学会 代議員日本小児救急学会 代議員日本SIDS・乳児突然死予防学会 評議員日本小児栄養研究会 運営委員日本小児消化管感染症研究会 世話人
北海道大学医学部、手稲渓仁会病院、埼玉県立小児医療センターを経て、現在は国立成育医療研究センター総合診療部で統括部長を務める小児科医。先天代謝異常症、小児消化器病を専門にしていたが、現在は日本の小児総合診療の確立を目指し、特に成人移行支援や小児在宅医療をテーマに活動している。若手小児科医の育成にも力を注いでいる。日本小児科学会理事。
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