痛む場所が違うのみで、三叉神経痛と同じような発作性の痛みを呈するのが舌咽神経痛です。喉の痛みが起こるため耳鼻科やペインクリニックを受診することが多く、ほとんどの患者さんが他科から紹介されてくるのだといいます。福岡山王病院 脳神経機能センター長の松島俊夫先生に舌咽神経痛についてお話を伺いました。
三叉神経痛と同じように刺すような強い痛みを片側に発作性に生じるのが舌咽神経痛です。痛む部位は違い、喉や舌の付け根のあたりから耳にかけて、数秒から数分にわたって痛みが発生します。痛みは、「鋭く」「刺すように」「電気ショックのように」「耐え難い」などと形容されることが多く、通常は咽頭や喉頭・中耳や外耳道・扁桃などに現れます。
発生頻度は、三叉神経痛が10万人に対して12.6〜28.9人であるのに対して、舌咽神経痛は10万人に対して0.2〜0.8人と三叉神経痛と比べるとまれな病気です。50歳代にもっとも多く発症し、女性に多くみられます。また、時に心停止や失神を来すことでも知られています。
舌咽神経痛のトリガーポイント(発痛点)はイラストに示すように咽頭壁や扁桃部、あるいは舌根(下の付け根)です。痛む部位が違うだけで、三叉神経痛と同様に会話をしたり、唾や食べ物を飲み込んだり、咳やくしゃみをしたりすることで痛みが誘発され、寛解(病気の症状が軽減した状態)と再発を繰り返します。
トリガーポイントは深部にあるため同定することが難しく、三叉神経痛と間違われることも少なくありません。症候性舌咽神経痛の原因疾患としては、咽頭や喉頭および舌の腫瘍・頭蓋内腫瘍・頭蓋底腫瘍・咽頭周囲腫瘍・多発性硬化症・ページェット病・シェーグレン症候群などが報告されています。しかし、舌咽神経痛の多くは脳幹と頸静脈孔の間を走行する舌咽神経が血管に圧迫されることで起こると考えられています。舌咽神経を圧迫している血管としては後下小脳動脈・前下小脳動脈・椎骨動脈などがありますが、その中でも椎骨動脈から分枝している後下小脳動脈が圧倒的に多いこともわかっています。(※下記のイラスト参照)
(図:福岡山王病院 松島先生より提供)
舌咽神経領域の強い痛みの神経痛ではあったものの、その原因についてはよくわかっていませんでした。舌咽神経は左右12対ある脳神経の第9番目の末梢神経で、舌の後ろ3分の1の知覚・味覚や唾液腺の分泌などを促す働きがあります。私自身、他の手術を行っている時に舌咽神経に触れている動脈の存在を観察し、解剖学的観点からこれらの血管と舌咽神経痛との因果関係について論文などで報告してきました。
この第9番と第10番の脳神経の間に後下小脳動脈がループを作ってはまり込んでいることがあり、これが舌咽神経痛を起こしていることを突き止めました。そして、手術法としてこのループを引き抜くことを提唱したのです。舌咽神経痛で手術というと驚かれる方もおられますが、三叉神経痛と同様に舌咽神経痛は薬物療法での有効性が高いため、初期段階には抗てんかん薬であるカルバマゼピンを処方します。薬で効果が十分でない場合には手術療法を検討します。また、症候性舌咽神経痛で原因となっている病気が判明している場合にはその原因疾患の治療を優先します。
古賀病院21 脳神経外科
古賀病院21 脳神経外科
微小外科解剖の研究で世界的な権威であるフロリダ大学ロートン教授のもとに留学し、微小外科解剖を学んだ。それ以降、後頭蓋窩の微小外科解剖と手術をライフワークとしてきた。第四脳室病変への「小脳延髄裂経由法」、三叉神経痛に対する「小脳テント吊り輪牽引法」や小脳延髄槽病変や舌咽神経痛に用いる「顆窩経由法」など、微小外科解剖を学んだからこそできる手術アプローチ法をあみ出した。後進への指導も熱心で、微小外科解剖と手術の手引き書「後頭蓋窩の微小外科解剖と手術(日本語)」を2006年に、またそれを改編し、英語版として2014年に出版している。また微小外科解剖に加えて、日本人に多いもやもや病の専門家でもある。
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