インタビュー

下垂体腺腫とは-下垂体に良性の腫瘍ができることによって、元気に生きるために必要な「ホルモン」のバランスが崩れてしまう病気

下垂体腺腫とは-下垂体に良性の腫瘍ができることによって、元気に生きるために必要な「ホルモン」のバランスが崩れてしまう病気
高橋 裕 先生

奈良県立医科大学 糖尿病・内分泌内科学講座 教授

高橋 裕 先生

この記事の最終更新は2016年02月20日です。

下垂体は、全身のホルモン分泌の司令塔の役割を果たす器官です。そこに腫瘍ができてホルモンが過剰になったり、低下したりする病気が「下垂体腺腫」です。神戸大学大学院医学研究科 糖尿病分泌内科学 准教授の高橋裕先生に、下垂体の働きと下垂体腺腫の概要についてお話を伺いました。

「下垂体」は、脳の視床下部からの指示のもと、環境の変化やストレスなど外界の影響に対して適切に対応するためのホルモンの調節をつかさどる臓器です。ホルモンは全身の血管を通して甲状腺・副腎・性腺はじめ全身の内分泌臓器に働きかけ、どの臓器からどのくらいの量のホルモンを出すかを指示します。下垂体は主に「前葉」と「後葉」に分けられます。前葉からは分泌されるホルモンは以下の6つです。

● 子供の成長を促し、大人では代謝を調節する「成長ホルモン」

● 乳汁の分泌を促進する「プロラクチン(催乳ホルモン)」

● 甲状腺ホルモンの分泌を促す「甲状腺刺激ホルモン」

● 副腎皮質を刺激し、コルチゾール分泌を促す「ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)」

● 生殖器官に働き精子と卵子の発育、性ホルモンの分泌を促進する「性腺刺激ホルモン(卵胞刺激ホルモン・黄体形成ホルモン)」

また後葉から分泌されるホルモンは2つあります。

● 腎臓に働いて水分調整を行う「バソプレシン(抗利尿ホルモン)」

● 乳腺を刺激し乳汁を射出させたり、分娩時に子宮を収縮させたりする「オキシトシン(子宮収縮ホルモン)」

ホルモンは上記のように身体の様々な機能を調節するだけではなく、心も調節しています。例えば、大人で成長ホルモンが足りなくなると気力や体力が衰え、やる気が失われることがわかっています。また、オキシトシンやプロラクチンには赤ちゃんをかわいがりたいというような母性本能や、人と人の信頼関係、癒しなどの心の状態とかかわっていることもわかっています。このほか、コルチゾールは、ストレスがかかったときに多く分泌されますが、身体だけではなく心のストレスに対する準備を促すことが知られており、ホルモンが心身に及ぼすさまざまな影響や臨床応用が注目を集めるようになってきています。

ホルモンを出す下垂体の前葉細胞の一部が腫瘍になる病気で、ほとんどは良性腫瘍です。ホルモンは必要なときに出て、そうでないときには出ないように適切に調節されなければなりませんが、腫瘍ができると過剰にホルモンが出されるようになったり、正常の前葉細胞が圧迫されてホルモン分泌が低下したりした結果、体にさまざまな不具合を起こします。また下垂体は脳のすぐ下にあるため、腫瘍が大きくなってしまうと視野障害やその他の脳神経の障害を起こすことがあります。非常にまれですが脳組織や他の臓器に転移する下垂体がんもあります。

下垂体腺腫の症状は、機能性下垂体腺腫の場合にそれぞれのホルモンが過剰につくられることによってあらわれる「下垂体ホルモン分泌過剰症」と、比較的大きな腫瘍によって下垂体が圧迫され他のホルモンの分泌が悪くなってあらわれる「下垂体機能低下症」があります。両者が同時に起こることもあります。

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