概要
下垂体神経内分泌腫瘍とは、脳の下垂体と呼ばれる部位の前側(前葉)に発生する腫瘍の総称です。これまで一般的に下垂体腺腫と呼ばれていたものが、2022年に改訂されたWHO組織分類(第5版)によって世界的に名称変更されました。腫瘍自体はほとんどが良性ですが、腫瘍によって下垂体周囲の組織が圧迫されたり、ホルモン分泌に異常が起こったりすることでさまざまな症状が現れます。
下垂体の周囲にはものを見るための神経や眼球の動きに関与する神経があり、これらが腫瘍によって圧迫された場合は視力や視野の異常、複視(物が二重に見える)などの症状が起こります。なお、下垂体にはホルモンの分泌をコントロールする役割があり、前葉からは成長ホルモン・甲状腺刺激ホルモン・副腎皮質刺激ホルモン・性腺刺激ホルモン・乳汁分泌ホルモンが分泌されます。下垂体自体が圧迫された場合、これらのホルモン分泌が低下し、体重減少や体重増加、倦怠感などの症状も現れる可能性があります。また、下垂体神経内分泌腫瘍の中にはホルモンを過剰に作り出すものがあり、その場合は先端巨大症やクッシング病などの発症につながります。
ホルモンの分泌異常や自覚症状がない場合は基本的に経過観察となりますが、何らかの症状がある場合や悪性腫瘍の場合は、状態に応じて手術や薬物治療、放射線治療を行います。
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原因
下垂体神経内分泌腫瘍は成人に多く発生する脳腫瘍の一種ですが、発生する原因は明らかではありません。明確な原因は分からないものの、少なくとも生活習慣や遺伝との関連はないといわれています。
症状
症状は主に、腫瘍が周囲の神経などを圧迫することによって起こるものとホルモンの分泌異常によるものに分けられます。
周辺組織への圧迫によって起こる症状
下垂体の周囲にはものを見るための神経や目の動きに関わる神経があり、腫瘍がこれらの神経を圧迫すると視野が欠けたり、ものが二重に見えたりするなどの視覚障害を引き起こします。視野が欠ける症状は外側が見えなくなることが多く、この症状は両耳側半盲と呼ばれます。また、圧迫が起こっている場所によっては、頭痛やてんかんなどの症状が現れることもあります。
下垂体ホルモンの過剰産生によって起こる症状
下垂体神経内分泌腫瘍の中にはホルモンを過剰産生するものがあり、それに伴ってさまざまな症状が現れます。たとえば、成長ホルモンの過剰産生による先端巨大症や巨人症の発症、副腎皮質刺激ホルモンの過剰産生によるクッシング病の発症など、過剰産生されるホルモンの種類によって多彩な症状が現れます。プロラクチンという乳汁分泌や乳腺の発達などを促すホルモンを過剰産生するものもあり、その場合は月経不順や不妊、性別や妊娠の有無に関係なく乳汁が分泌されるなどの症状が現れます。
下垂体ホルモンの産生低下によって起こる症状
腫瘍の影響により下垂体ホルモンの分泌が低下することもあります。この場合も分泌が低下するホルモンの種類によって症状が異なり、成長ホルモンの低下では疲労感や体脂肪の増加など、副腎皮質刺激ホルモンの低下では倦怠感、食欲や体重の減少など、甲状腺刺激ホルモンの低下ではむくみ、体重増加などが現れます。また、下垂体後葉まで影響が及んだ場合は尿量が異常に増加する尿崩症を発症する可能性もあります。
検査・診断
下垂体神経内分泌腫瘍が疑われる場合は、主に以下のような検査を行います。
画像検査
下垂体に腫瘍があることを確認するため、画像検査(X線検査やCT検査、MRI検査など)が必要となります。CT検査やMRI検査は造影剤を用いて行われることが多く、腫瘍の大きさや位置、周囲の神経などへの影響を評価します。
内分泌学的検査
下垂体神経内分泌腫瘍はホルモン分泌異常を引き起こすことがあるため、採血を行って血中のホルモンの値を測定します。採血の結果、ホルモンの値に異常がみられる場合は、さらに負荷試験を実施します。負荷試験とは、ホルモンを分泌させたり抑制したりする効果のある薬を投与したうえで採血をして、体の中のホルモンバランスを調べる検査です。
また、ホルモン分泌障害があり指定難病の診断基準を満たす場合には、治療開始前に申請をすることで医療費助成を受けることができます。
眼科的検査
下垂体神経内分泌腫瘍は大きくなると周辺の神経を圧迫して視力や視野の異常を引き起こします。そのため、視力や視野の異常の有無を評価するための検査も行います。
治療
プロラクチン産生腫瘍は薬物治療で効果がみられることもありますが、それ以外の腫瘍では基本的に手術による腫瘍摘出が行われます。
下垂体は鼻の奥に存在する器官のため、手術は鼻の穴から行います(腫瘍が進展している場合は開頭手術を行います)。なお、手術では腫瘍が取り切れないケースや、手術後にホルモンバランスが回復しないケースもあり、その場合は薬や放射線を用いた追加治療が行われます。
下垂体神経内分泌腫瘍は再発する可能性もあるため、治療後も慎重な経過観察が必要です。
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