下垂体腫瘍とは、脳の下垂体(ホルモンを分泌する器官)と、その周囲にできる腫瘍の総称です。そのなかでも発症例が多い「下垂体腺腫」は、目の異常や頭痛、ホルモンの分泌量の変化に伴う病気などを引き起こすことがあります。発症のメカニズムは今のところ解明されておらず、検診などで初めて発見される場合があります。下垂体腺腫が見つかったときは、適切な治療を受けることが重要です。
今回は、下垂体腫瘍のひとつである「下垂体腺腫」とはどのような病気なのか、昭和大学病院脳神経外科 谷岡大輔先生にご解説いただきました。
下垂体腫瘍とは、下垂体の周囲にできる腫瘍の総称です。
下垂体とは、脳の一番下の部分にある、7ミリ~13ミリ程度の大きさの器官です。体内の状況に応じてさまざまなホルモン*を分泌するはたらきを担っています。
ホルモン…内分泌腺で作られる微量のタンパク質。体内の状態を整えるはたらきを持つ。
下垂体の周囲にできる腫瘍には、複数の種類があります。
など
下垂体腫瘍とは、上記のような腫瘍の総称です。これらの腫瘍は、徐々に大きくなっていき、さまざまな症状を引き起こす可能性があります。下垂体腫瘍のなかでも転移性脳腫瘍は、がんが下垂体部に生着したものです。
次に、発症頻度が高い下垂体腺腫について詳しく紹介します。
下垂体腺腫は、下垂体腫瘍(下垂体の周囲にできる腫瘍)のひとつです。下垂体を形作る細胞が腫瘍になったものを指します。
発症年齢は幅広く、子どもから高齢者まで発症する可能性があります。
また、下垂体腺腫は2種類に分けられます。ホルモンを分泌していて分泌量が過剰な「機能性下垂体腺腫」と、ホルモンを分泌していない「非機能性下垂体腺腫」です。
機能性下垂体腺腫は、下垂体でホルモンを出す役割を持つ細胞が異常に増えたことでできる腫瘍です。機能性腺腫ができると、ホルモンの分泌が過剰になります。採血をするとホルモンの数値に上昇がみられます。
非機能性下垂体腺腫は、下垂体を形作る細胞のうち、ホルモンを分泌しない細胞が異常に増えたことでできる腫瘍です。機能性下垂体腺腫に対して、ホルモンの分泌が過剰になることのない、単なる腫瘍(細胞が異常に増えた状態)を指します。
2017年現在、下垂体腺腫が発症する原因は不明です。下垂体に腫瘍ができるメカニズムも明らかになっていません。また、リスクを高める生活習慣などは、特にないとされています。
下垂体腺腫が大きくなると、主に下記のような症状があらわれます。
なお、機能性下垂体腺腫の症状は、下記のなかでは目の異常のみです。機能性下垂体腺腫はホルモンを分泌しない腫瘍であることから、それ以外の症状は起こりません。
下垂体腺腫では、目の異常がみられます。これは、下垂体腫瘍において多くみられる症状です。下垂体の周囲に腫瘍ができると視神経*を圧迫することがあるためです。視神経が圧迫されると、視野が狭くなったり、場合によっては失明したりする可能性があります。
視神経が圧迫されることで、両耳側の視野が狭くなる状態を、両耳側半盲(りょうじそくはんもう)といいます。両耳側半盲を無治療のまま放置すると、視神経が長期間圧迫されてしまうため、失明のおそれがあります。
視神経…眼球で集められた外界からの情報を脳に伝える神経線維の集まり。
下垂体は、脳のなかでホルモンを分泌するはたらきを担っています。下垂体腺腫が生じると、ホルモンの分泌量に影響があらわれます。
機能性下垂体腺腫ではホルモンの増加がみられます。腫瘍が大きく増大すると下垂体機能が低下してホルモン分泌が低下することがあります。
機能性下垂体腺腫は、さまざまな種類のホルモンを過剰に分泌するという特徴があります。過剰に分泌されたホルモンの種類により、下記のように分類されます。
いずれの種類でも、腫瘍の増大に伴う目の異常や頭痛がみられます。その他の症状は、過剰に分泌されるホルモンの種類によって異なります。
成長ホルモン産生下垂体腺腫を発症すると、成長ホルモンが多く出すぎてしまいます。それにより、手足や顔が大きく、分厚くなることがあります。成長ホルモンの影響が出やすいのは体の末端(先端)であるためです。
一方、子どものうちに発症すると身長が著しく伸び、およそ2m~2m50㎝になる方がいます。成長ホルモン産生下垂体腺腫は、アクロメガリー(下垂体性巨人症・先端巨大症)とも呼ばれています。大人と子どもの症状は同じですが、子どもの場合は成長過程にあるため身長に影響が出やすくなるということです。
また、成長ホルモン産生下垂体腺腫は、糖尿病や高血圧症など全身にかかわる病気を引き起こす原因になることがあります。大腸がん、胆石症、心筋梗塞などを発症しやすくなる方もいます。このような合併症*の可能性が高いことから、無治療の場合には、健常者と比べて寿命が短くなってしまうといわれています。
合併症…ある病気や、手術や検査が原因となって起こる別の症状。
プロラクチン産生下垂体腺腫は、プロラクチンというホルモンが多く分泌される病気です。プロラクチンとは、乳汁(にゅうじゅう)をつくるホルモンです。
症状の多くは女性にみられます。女性の場合、乳汁が出たり、月経が止まったりします。月経が止まることで、不妊症の原因になる病気といえます。
男性の場合、自覚される症状は多くありません。ただし、下垂体腫瘍の特徴である目の異常がみられるほか、乳房が大きくなることがあります。
副腎皮質(ふくじんひしつ)刺激ホルモン産生下垂体腺腫は、副腎皮質刺激ホルモンが多く分泌される病気です。副腎皮質刺激ホルモンが作用すると、副腎皮質ホルモン*が多く出るようになります。
副腎皮質ホルモンは、人間の生命活動のために必要なホルモンです。糖や脂質の代謝などさまざまなはたらきを担っています。副腎皮質ホルモンの量が増えると、体内でつくられるステロイド*の量が多くなります。
症状としては、体毛が濃くなったり、骨がもろくなったりします。また、糖尿病、高血圧、高脂血症、肥満、うつ病などを引き起こすことがあります。
副腎皮質ホルモン…糖や脂質の代謝などを行うホルモン。
ステロイド…炎症をしずめたり炭水化物を代謝したりするホルモン。ステロイド薬としても使用される。
甲状腺刺激ホルモン産生下垂体腺腫は、甲状腺刺激ホルモンが多く分泌される病気です。甲状腺刺激ホルモンが作用すると、甲状腺ホルモン*が多く出るようになります。
甲状腺ホルモンは、副腎皮質ホルモンと同じく、人間の生命活動のために必要なホルモンです。新陳代謝を高めるはたらきを担っています。
発症すると、動悸、息切れ、異常に汗をかくなどの症状がみられます。
甲状腺ホルモン…新陳代謝を高めるなどのはたらきをするホルモン。
脳ドック*で発見されることがあります。従来は、症状があらわれてから初めて発見されることの多い病気でしたが、脳ドックが行われるようになってからは、自覚症状がなくても腫瘍が発見されやすくなりました。
脳ドック…MRIや脳波の測定などにより脳の精密検査を行う検診。
目のみえにくさなどを感じて眼科を受診した際、発見されることがあります。また、眼科に通院したりメガネをかけたりして、半年から1年ほど経っても症状が改善しないときは、下垂体の異常を疑って脳神経外科を受診するとよいでしょう。
下垂体腺腫を診断できるのは、脳神経外科医と内分泌内科医です。実際のところ、最初に下垂体腺腫を疑って受診する方はほとんどいませんが、迷ったときには受診されるとよいでしょう。
一般的には、血液検査でホルモンの量を調べたり、画像検査で腫瘍の有無を確認したりすることで、診断がつけられます。
昭和大学病院 脳神経外科 准教授
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